第21話 復讐の最終確認
アンと美羽が控え室に戻ると、そこでは何事もなくかおりが帰り支度していた。
かおりが牧田に挨拶をしている間、アンと美羽はかおりの護衛をするかのようにドアのすぐ外で待っていた。
局を出ると、もう真っ暗になった空には少し膨らみかけた明るい月が掛かっていた。
かおりが2人の少し前を歩きながら振り向いて話しかけた。
「ねえ、今回私は落ちたけど、2人には頑張って欲しいな。今まで見てきて、テレビで観てた時よりも、裕星ってすごくいい人だって改めて気づいたわ。
最初は、カッコつけて気取ってるのかな、なんて誤解してたけど、本当は美羽さんの言うように温かいハートの人なんだね。今日話してみてよく分かったわ」と目を輝かせながら言う。
「どんな話をしたのよ」アンが訊くと、「私の今までのこと。モデルをしてきて本当によかったことと、辛かったこと。
でも、本当はモデルの仕事が大好きで続けたいと話したわ。アンの方は?」と思い出すように話した。
「私はね、お酒も入ったせいで、結構自分のことばかり言ってたかな。女優としてまだまだ全然芽が出ないけど、過去のことなんて気にしないで頑張ろうってことと、最後まで私たちを見守っていて欲しいってこと」
「アンさんもかおりさんも、裕星さんにそこまで話されたんですか? 私は海の上で裕星さんとサーフボードで漂っていました」
美羽が言うと、アンはニコリと笑って「でも、美羽さんは私達よりも頭一つ飛び抜けているからね」と言った。
そして、「次の回が最後の最後だから、手加減しないわよ! 美羽さんは思った通り最強のライバルだから」と笑った。
3人が寮に戻る途中、かおりは財布を取り出して途中のコンビニに寄ってから帰ると言い出した。
寮まではほんの100メートルほどだ。
美羽とアンの二人はここまで来れば安心だろうと先に帰ることにした。
長かった一日が終わった。収録がこれほど長いとは美羽には想像も付かなかったが、それよりも、アンたちの計画がこの先どうなって行くか見守る方が最大のストレスとなっていたのだ。
美羽は寮のベッドに倒れ込んで、フゥーと大きなため息を吐いた。
──後1回、後1回でこの番組は終わる。そして、裕くんはアンさんを選んで私は脱落する。でも、アンさんはその場で昔の事務所の社長とマネージャーのしてきたことをテレビの前で告発するのね。
その時、私はもう近くにはいないと思うけど、裕くんがアンさんを見守っていてくれるわ。
どんなことになるのか、怖くて私には想像もできない。
ベッドであおむけになってぼんやり天井を見上げていると、急に部屋のドアがドンドンと激しく叩かれた。
慌ててドアを開けてみると、そこに立っていたのは、アンだった。
「アンさん? どうしたんですか?」
アンは血相を変えて、全速力でどこかから走ってでもきたのか、ハアハアと息を乱しながらも美羽の部屋に押し入って来た。
「ごめんね、突然。でも大変なことが起きたのよ! かおりが!」
「かおりさんがどうしたんですか?」
「今警察から電話があって、かおりが怪我をして病院に運ばれたらしいの」
「えっ? どういうことですか? だって、さっきまで一緒だったのに、どうしてかおりさんが怪我を?」
「さっき、かおりがコンビニに行ったのまでは見ていたよね?」
「はい……でも、あれからすぐ帰られたんですよね?」
「その間に事件に遭ったらしいわ。寮へ戻る途中の暗がりで突然背後から通り魔に襲われたって聞いた。
背中を少し切られただけで命には別条なかったみたいだけど、犯人が誰なのか暗くて見えなかったらしいの。
でも、かおりが家族じゃなくて私に連絡するように言ってくれたお蔭で、寮に電話が入って、ケータイを取り上げられてた私にも事態が分かったのよ。──背中の傷跡が残らないといいけど……」
一気に事情を説明するアンの話を聞いていたが、美羽は自分の手が震えてくるのがわかった。
「実は私たちね……」
アンは決心したように、美羽に自分達の計画のことを話し始めたのだった。
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