第20話 最後に残った2人のプリンセス

「ああ、俺がアンから聞いてるのは、ただその社長らの名前を告発するというだけのことらしい。だけど、俺が心配してるのはお前のことなんだ。もし、俺が恋人にアンを選んだら……」




「選んだら?」


「俺はアンと最後にキスを交わさないといけないんだぞ! それも頬と額じゃない本当のキスをな」




 美羽は裕星の言葉が一瞬理解できずボウっとしていたが、段々と青ざめて、「キ、キスぅー? アンさんと最後にキスをするの?」と叫んだ。



 あまりにも大きな声だったため、裕星は美羽の口を慌てて手で塞いだ。


 そっとその手を放しながら、「ああ、そうだ。それがこの番組の方針だからな。

 それを聞いていたから、相手に美羽を選んでいいと言われて受けることにしたんだ。

 もし、俺が辞退していたとしても、美羽はこの仕事を受ける気満々だったから、俺じゃなく他の男が選出されてそいつの恋人に選ばれたりなんかしたら、美羽の方こそその男とキスをしないといけなかったんだぞ! ちゃんと分かって受けたのか?」



 裕星が興奮気味に言うので、美羽はボードの上にペタリを座りこんで裕星を呆然と見上げた。


「裕くん……段々これからの収録が怖くなってきたわ」と今にも泣きそうな顔をしている。


 裕星は手を伸ばしてボードの上の美羽の身体をギュッと抱きしめた。




 サーフボードがグラグラ大きく揺れて、美羽はバランスを崩して裕星の腕の中に飛び込んだ。


 キャッと声を上げたが、裕星はしっかりと美羽の体を抱き上げ泳いでいる。


「大丈夫だ。もしそんなことになっても、俺は彼女たちとはキスはしないよ。ただし誰を選ぶかはぎりぎりまで俺に任せてくれ」と笑った。







 浜辺の方を見ると、スタッフたちが大きく両手を振って浜に戻るように合図しているのが見えた。

 このまま遠目にカメラを回していても良い画が撮れないということだろう。


 裕星はまた美羽をボードに乗せると、後ろから押して浜まで泳ぎついたのだった。



 海から一緒に上って行くと、スタッフとADが、


「もうそろそろ終わりにしましょうか。仲良さそうな画は撮れましたから、それで良しということにします。このままだともうすぐ夕方になってしまいます。

 後はスタジオで三人の内誰かを選んでいただくセレモニーが待っています」と告げた。









 スタジオに戻ってきた頃にはだいぶ辺りは暗くなっていた。


 美羽は着替えのためにシャワールームを案内され、裕星とは控室の前で別れた。


 裕星もシャワーを浴びるとスーツに着替え、さっそく今日のデートで最後の二人を選ぶためのセレモニーの部屋に入って待機した。




 先にいた二人はすっかり時間を持て余し、ドレスに着替えて待機していたが、美羽が入って来るなり、皆彼女の美しさに思わず注目した。


 今日の美羽は初めて会った時から比べてまた一段と綺麗になっていた。

 素肌が美しいので、ベージュ色のドレスに身を包んでいると、女神が降臨したかのように上品な輝きを放っていた。


 裕星も思わず美羽の美しさに見惚れていた。あれだけ一緒に居て分かっているはずの美羽の美しさに、また改めて魅了されていた。




 三人の女性が裕星の前に並んで立った。裕星は司会の佐々木が持ってきた手紙を一人一人に手渡した。


 一人ずつ手紙を受け取りドアからいったん退室して、選ばれた二人だけがまた戻ってくる。

 いつもの方式で、最後に美羽が裕星からの手紙を受け取ってドアを出たのだった。







 ――今回は誰も失踪してないわね、良かった!

 部屋を最後に出た美羽は二人がまだいることを確かめて胸を撫で下ろした。


 すると、ADがやってきかおりに耳打ちした。かおりは頷くと、ADと一緒にその場を離れようとしている。


「ちょ、ちょっと待って、かおりをどこに連れて行くの?」


 アンがADに声を掛けると、ADが振り返って、「実は今回はかおりさんが脱落なさったので、牧田さんに会って終わりの説明を受けてから帰すように言われまして」という。




「牧田さんはどこにいるの?」

 前の二人からまだ連絡がないことに不安を覚えて、アンが訊いた。


「プロデューサー室です。でも、もしお話を聞いてそのままお帰りになるのでしたら、一旦控室に戻られて着替えてからでもいいですよ」


「ねえ、かおり、そうしたら? 私たちが終わるまで待っていて」


 アンが警戒したように言うと、かおりも納得したのか、分かったわ、と控室に向かったのだった。






 美羽はかおりが控室に向かったのを見て、アンに訊いた。

「アンさん、何かあるんですか? なぜかおりさんを待つように言ったのですか?」


 アンはすぐには答えず、「それは……番組が終われば全て分かる事よ」とフッと笑った。


 二人が司会の佐々木に呼ばれて部屋に戻ると、裕星はニコやかに二人を迎えてくれた。


「次でファイナルですね。今まで本当にありがとう。これからも僕と付き合って下さる人はこの二人の内どちらかになりました。

 僕もこの番組を通してたくさんのことを学び、知ることが出来ました。

 皆さんと一緒に成長出来た気がします。また次もお会いしましょう」と挨拶をすると、最後に司会者が今回の脱落者がかおりであることを告げて、番組を終えたのだった。

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