第17話 ガラスの靴を取り上げられて
――あのかおりさんも元の事務所の社長に復讐を考えているのかしら。そんな風には見えないのに……。でも、アンさんも皆さんもそこまでして復讐をしたい社長って誰なのかしら。
美羽が寮に戻り、シャワールームに向かっていると、先に戻っていたかおりとアンに呼び止められた。
「美羽さん、ちょっと話があるの。シャワーが終わったら、ロビーに来てくれない?」
美羽がシャワーから出て、まっすぐにロビーに向かうと、もうすでにかおりとアンがソファに座って話をして待っていた。
「あの……お話ってなんですか?」
するとアンが立ち上がって、美羽の肩を抱いてソファに座らせ、自分も向かい側のソファに座った。
「実は……単刀直入に言うわね。
――最後に裕星の恋人には選ばれないようにしてほしいの。
つまり、次回の収録でファイナリストの二人が決まるよね。たぶん、次に脱落するのは私たちのどちらかだと分かってる。だから、最後の選ばれた恋人になるのは、あなたが有力だってこと」
美羽はドキリとした。収録が始まる前には、牧田と裕星から直接「恋人に選ばれるのは貴女です」と言われていたことが洩れてしまったのかと冷や汗が出た。
「あ、でも、私が選ばれるとは限りませんし……」
やっとのこと繕ったが、アンがさらに美羽に近づいてきて、「そうじゃないの。最後の二人には残るわ。でも、最終的にどちらかが選ばれるとしたら、裕星は必ずあなたを選ぶと思う。
私には分かるのよ。ラ・メールブルーファンとしてずっと裕星を見てきて、あんなに女性に対してクールな男が、なぜか美羽さんに対してだけは優しい眼をしてる。きっと彼、あなたのことが好きなのね。
でも、今回だけは私にとって一生で一番大事な場面になるかもしれないの。最後に選ばれた恋人は、裕星とお付き合いできる権利だけでなく、あの場で一つだけ願いを叶えてもらえるのよ。たとえば、前の出演者だったら、高級車とか海外旅行とかだったわね。
でも、私はそんなものはいらない。ただ、あの場所で、この視聴率の大きいお化け番組でやりたいことがあるの。
そのためにこの番組に出演させてもらうように根回ししたのよ。ただ、あなたがどうしても選ばれたいというなら、考えがあるけど……」
アンが鬼気迫る真剣な表情で美羽に訴えた。
美羽はしばし圧倒されて言葉が出なかったが、やっと口を開いた。
「あの……やりたいことって何ですか? 訊いても良いですか? 私が選ばれないようにするのはいいんですけど、そのために私はどうしたらいいのですか?」
「今はまだ事情は話せないの。――そうね、どうすれば裕星に選ばれないか、結構逆に難しいことよね。それじゃ、嫌なことをいうとか、裕星を無視するとか?」
あまりにも単純な提案をしてくるかおりに、美羽は「でも、それは私としてもとても辛いです。
裕星さんは悪くないのに、いきなり無視したり嫌なことをいうのは気が引けます」と眉を潜めた。
「それじゃ……」
アンが美羽の両肩に手を置いて自分の方に向かせると、美羽の目をじっと見つめて言った。
「私と貴女が残るように、かおりには裕星に嫌われてもらうわ。そして、最後に貴女と私が残ったら、私は裕星に選ばれるように今までで一番魅力的な方法を考える。
でも、出来ればその時、貴女にはごく普通に振る舞っていてほしいの。そう、裕星を誘惑するような態度さえとらなければいいわ。
それでどうかしら? それなら、裕星を極端に無視したり嫌な言葉を言わなくてもいいわよ」
美羽は裕星から聞いていたアンたちの復讐計画の邪魔だけはしたくなかった。
「――わかりました。普通にしていていいんですね? もちろん、裕星さんに必要以上に近づいたりはしませんし、できるだけ選ばれないように大人しくしています」
美羽はアンたちの計画がどんなことなのかは分からなかったが、番組の最後に、王子の恋人として選ばれたとき、それをやり遂げるようだということだけは分かった。
成功するのをただ見守っていればいい、この時はそう思っていたのだった。
収録の日は来た。朝、司会者の佐々木が控室に手紙を持ってきて、今日の収録内容を伝えた。
「おはようございます。今日は王子が3人それぞれとツーショットデートをする予定です。
皆さんがどこに行くかは、王子の方に知らせてあります。皆さんは王子がどこに連れて行ってくれるか楽しみにしていてください。
そして、そのデートでファイナリストに残る2名が決まります。
つまり、この中の1名は脱落いたします。ファイナリストには特別なデートをご用意していますので、皆さん頑張って王子にアプローチをしてください。
それでは、まず最初は岡本アンさんから」
そういうと、アンを別のスタジオの方へと連れて行ったのだった。
残された美羽とかおりは二人で顔を見合わせてため息を吐いた。
「あの……かおりさん、この前のことなんですけど、皆さん、永久さんや百合奈さんともお友達なんですよね?」
美羽の問いにハッとしたようにかおりが顔を上げた。
「――友達っていうわけじゃないけど、知ってるというか……そう、ただの知り合いよ。あなたには関係ないわ」かおりはまだ知られたくないのだろう。
「――そうですか。すみません、立ち入ったことを聞いて。皆さんの迫力がすごくて、この番組への思い入れが私なんかと全然違うので、ちょっと気になったんです」
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