第15話 復讐劇の協力者

 どれくらい経ったのだろうか、長く感じたが、時計を見るとまだ小一時間ほどしか経っていない。

 突然、牧田が控室をノックして入って来た。


「あ、牧田さん、百合奈は見つかりましたか?」

 かおりに言われて、牧田は首を横に振った。




「ただ……百合奈さんの姿を見かけたというスタッフがおりました。その目撃証言では、彼女はどうやら向こうの方へ歩いて行ったらしいです」と控室から見える廊下を指さした。




「それで? その廊下はどこに繋がっていますか?」アンが訊いた。


「行き止まりです」


「行き止まり?」皆一斉に揃えたように声を発した。


「ええ、行き止まりで、非常階段があるだけですね」牧田がため息を吐いて答えた。


「もしかして、非常階段から外に出たんじゃないですか?」

今まで黙っていた美羽が訊くと、「あの非常階段は普段は鍵がされていて出られないんですが……実はさっき確認したところ、鍵が開いており開けられた形跡もありました」



「鍵が開いていた。……それじゃあ、百合奈さんは……」美羽の言葉に牧田がすぐに口を挟んだ。

「ただ、外の階段に出ても、防犯上の都合で階下の扉は施錠されているんですよ。

 その鍵は掛かったままでしたから。その扉を乗り越えれば出ることが出来ますが、女性一人でそんな勇敢なことができるかどうか……」



 美羽たちは控室から外に出て、牧田の言っていた非常階段のところへ様子を見に行った。

 すると、牧田の言葉通り、鍵が開いており、ドアを開けるとすぐに螺旋階段らせんかいだんがあった。



 美羽が螺旋階段らせんかいだんを恐る恐る降りてみると、確かに地上に着いたが大きな柵で囲まれて、階下にある扉にはしっかりと施錠されていたのだった。

 柵は2mほどあるだろうか、とても高く、何か登る道具でもない限り女性が一人でここを越えたりすることなど不可能に思えた。





 後ろから来た牧田に気付いて、美羽が訊ねた。

「でも、本当に災害のときはどうやってここを開けるんですか? 誰かが鍵を取りに行かないとすぐ出られないですよね」




「ああ、この鍵はさっきの非常階段の内側の戸棚にあるんです。すぐに開いて取ることが可能です。ああ、これです」と言って、階段を戻り棚を開けて鍵を見せた。




「――ただし、この鍵がここにあるということは、この鍵を使ったわけではないということですね」


ふうーと牧田が首をかしげて大きなため息を吐いた。





 ――鍵はここにあるのに、出口はここしかない。そんな魔法みたいなことできるのかしら?


 するとその時、スタッフが慌てたように駆けてきて二階の非常口から顔を出して牧田を呼んだ。





「牧田プロデューサー、電話がありました! 加藤百合奈からです!」


「加藤百合奈から? どんな電話だ」


「それが……」


 ああ、今行く、と牧田は螺旋階段を登って行った。







 美羽は一人牧田の後ろ姿を見ながら考えていた。

 ──体何が起きているのかしら? 永久さんといい、百合奈さんといい、失踪でないとしたらどこにいるの?





 美羽が螺旋階段を上り終えて、非常口から中に入ると、そこには裕星が待っていた。


「裕くん、いったい皆どうしたのかしら?」



「美羽、ちょっとこっち来て……」そういうと、裕星は美羽をまた非常階段の外に連れ出してドアを後ろ手に閉めた。




「どうしたの、裕くん?」


「今まで言わないでおこうと思ったんだけど、もう事態が大きくなってきたから、美羽には隠さず話しておいた方がいいと思って。

 ……実は、番組が始まる前に岡本アンから相談を受けたんだよ……」


 裕星が小声で美羽に今までの不可解な行動の訳を話した。





「ええっ? そうだったの? 裕くんがアンさんたちに協力を? それであの時アンさんを車に乗せて詳しく話を聞いてたのね? だっていきなり態度が冷たくなったから、てっきり……」




「俺の態度がそんなに変わって見えたか?」


「――うん。とっても悲しかった。私の事はもう嫌いになったのかと思ったよ。だって、ずっと目を合わせてくれないんだもの……。

 でも、陰でアンさんたちの復讐計画に協力していたなんて……」




「俺が美羽と目を合わせなかったのは、美羽の顔を見ると俺の顔色が変わってすぐにバレてしまいそうになるから、それを避けるためだよ。 


 美羽と付き合ってるのがバレたら、お前に集中攻撃があるかもしれないし、番組も台無しになる。それにアンたちの復讐劇も失敗に終わるだろ?」





「――そう、だったんだ。ふふ、裕くん、良かった! 

 皆綺麗な方ばかりだったから、私、心配だったんだからね。

 でも、アンさんたちの復讐って、元の事務所の社長さんに対してなんでしょ? どうしてこの番組の中で復讐ができるの?」





「俺がアンから聞いたのは、前の社長が悪徳で仕事もさせてもらえない上、給料も支払われなくて生活に困っていたということ。

 同じことをされていたのが、他の3人、失踪した鈴木永久と加藤百合奈、そして堂本かおりだ。

 彼女たちも今は事務所がそれぞれ違うが、初めは同じ事務所だったんだそうだ。

 中には、仕事だといって、良からぬ接待をさせられた者もいたらしい。それも全て、社長と当時のマネージャーの策略だったということだ」




「そんなことが……。でもその事務所の社長さんは今もまだその事務所にいるの? それに、この番組で復讐って、いったいどんなことをするつもり?」美羽は疑問の答えが得られずまた訊いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る