第14話 2人目美女の失踪
司会者の佐々木は、最後の美羽が裕星との会話を終えたことを見届けると、カメラに向かって最後に行われるイベントを告げた。
「それでは皆様、十分、王子の海原さんとのお話出来たことと思いますので、今日の最後のイベントに移らせて頂きます。
お一人ずつ王子よりカードを貰ってください。そのカードを開けましたら、王子に選ばれたかどうかが分かるようになっております。
王子からカードをもらって部屋の外に出て、選ばれた方のみがもう一度ここに戻っていただきます。
前回は屋外キャンプ場だったために、選ばれなかった
今回も選ばれなかった方は、部屋から出た後にそのまま廊下にてお待ちいただくようになっております。
それでは、王子、どうぞカードをお一人お一人にお渡しください!」
百合奈は裕星にもらったカードを胸に押し当て、一礼してドアを出て行った。
次はかおり、そしてアンと続き、最後は美羽の番がきた。
美羽は裕星からカードを受け取る時もしっかりと裕星の目を見つめたが、裕星はやはり美羽の目を見ることはなかった。
最後に美羽が部屋から出ると、すでに他の女性達はカードを開封していた。
アンは嬉しそうにカードを美羽に見せて、「私、残ったのよ! 嬉しい!」 と抱きついてきた。
すると、かおりも「私も残った! ……あれ? 百合奈は?」とキョロキョロしていたが、廊下には百合奈の姿はなかった。
「トイレかな?」かおりがアンに訊くと、「百合奈が一番最初に出たけど、私がここに来た時にはもう誰もいなかったわ。トイレなんじゃないの?」と肩をヒョイと上げた。
「ところで美羽さんは? 百合奈か美羽さんのどっちが選ばれたの?」美羽が恐る恐る封筒を開けてカードを開くと、『これからもご一緒に』と書かれていた。
――美羽も選ばれたのだ。
「わあ、よかったね! じゃあ、選ばれなかったのは百合奈なのね?」
かおりが顔をしかめると、アンも「それで機嫌悪くしてさっさと帰っちゃったのかしら」と口を挟んだ。
すると、「それでは皆様、中にお戻りください。これで3人になりましたね」ドアを開けて皆を誘導する佐々木の前にアンが進み出た。
「あのお、百合奈、加藤百合奈さんはもう帰ったのですか?」と訊くと、「加藤さん? あれ? まだ帰っていいとは言っていませんが、帰られたのですかね? まだ今後の説明があったのに……」と困ったように頭の後ろを掻いている。
3人が裕星のいる部屋に戻ると、裕星は全員を見渡して微笑んだ。
「選ばれた皆さまとこれからまたご一緒にやって行きたいと思います。皆さまの期待に添えるように僕も頑張ります」
最後に司会の佐々木のコメントで今日の収録は終えたのだった。
3人が私服に着替えるため控室に戻ると、そこには百合奈のバッグや私服が置かれたままになっていることに気付いて声を上げた。
「ええっ? どういうこと? 百合奈さんって自分の荷物を置いたまま帰ったの? どういうこと?
それに、バッグもそのままよ。見て、お財布とか免許証も入ってるよ」
かおりが勝手に百合奈のバッグを開いて叫んだ。
美羽の中で段々と疑問が大きくなっていった。永久といい、百合奈といい、なぜ突然失踪のようなことをするのだろうか、と。
それに、一番怪しいのは裕星だった。いくら美羽と知らぬ同士の芝居をすると言っても、あのよそよそしさは尋常ではなかった。
自分のことをむしろ避けているかのような裕星の態度に、美羽は毎回胸がえぐられるような孤独感を感じていた。
アンがプロデューサーの牧田を呼んできて控室の現状を見せながら説明する。
「百合奈さんは本当に帰ったのでしょうか? 百合奈さんの荷物はそのままなんですけど……」
すると、牧田は控室の百合奈の荷物を確かめながら首を捻った。「おかしいですね。一体彼女はどこにいったんだろう。僕も彼女が帰るところは見ていないですよ」
男性用控室で着替えを済ませて出てきた裕星が女性用の控室の前を通りかかると、ドアを開けたまま皆が集まっているのを不思議に思い、中に入ってきた。
「何かあったんですか?」
「あ、いや。実は……加藤百合奈が……」牧田が言い辛そうに口ごもった。
「加藤さんが?」
「いなくなったんです! 永久みたいに失踪したのかも」かおりが先に答えた。
「失踪……?」
「あ、いえ、まだ失踪したかどうかは。ただ、突然姿を消してしまって……どんどん脱落者が消えて行くんですよ」と牧田が答えた。
「警察に届けますか?」裕星が眉を潜めて言うと、「いや……。永久からも連絡がありましたし、もう少し様子を見ましょう。局の中も捜してみます。警察にはそれからで……」と牧田が首を横に振った。
しばらく美羽を含めた女性たち3人は、女性用の控室で着替えを済ませたものの帰ることが出来ずにテーブルを挟んで椅子に座り沈黙していた。
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