第13話 真剣に愛するということ
かおりが更に心情を話そうとしたそのとき、司会の佐々木が慌てたようにやって来て止めた。
「かおりさん、せっかくのパーティなんですから、もっと楽しい話題はないですか?
いえ、もちろん、パートナーを選ぶ番組ですので、ご自分のことを話されるのは当然ですが、もっと明るいイメージだったので、そう言ったお話はほどほどということで……」
「は、はい……すみません」かおりは小さく頭を下げた。
その後の会話は他愛もない趣味の話から、休日の話で自分の番を終えたのだった。
今度はアンが待ち構えていたように裕星の隣に座った。
二人は顔を近づけ何やら真剣に話をしているようだったが、カメラが近づいて来るとアンは笑顔で裕星の左の頬にいきなりキスをしたのだった。
「裕星、ずっと言おうと思ってた。貴方が好き。女優をやっていても、貴方との共演を願っていたけど、全然売れない女優には貴方の相手役なんて回って来なかったから、この番組のお蔭で共演できることになるなんて嬉しくて……それに、私のことを理解してくれてありがとう。
これからも私のことを支えてくれる?」と上目使いに訊いた。
裕星はチラリとアンの目を見て、「ああ、もちろん」とニコリとしたのだった。
もう美羽には今まで見たこともないような裕星が女性にデレデレする態度をこれ以上見ることはできなかった。
――私も永久さんみたいに番組を降りることが出来たらどんなにいいか。
最後は美羽が裕星と話す番だと、司会の佐々木が美羽に告げに来た。
「私は、お話はないです」と答えると、佐々木が小声で「どうしたんですか? 今はお知り合いの海原さんと改めてお話しするのは照れ臭いかも知れませんが、最後には貴女が選ばれることになっていますので、全く接触がないのはとても不自然ですよ。
番組的にも、少しでも海原さんが選んで当然と思われるように、魅力を発揮して頂きたいのです」という。
「魅力なんて……私には」
美羽が消極的な事を言っていると、裕星の方から美羽に近づいて来て、「天音さん、あちらで一緒にお話ししませんか?」と右手を差し出してきた。
美羽が驚いて裕星の顔を見ると、裕星はまるで初めて会った人のような
ふぅと美羽は小さくため息を吐いて、仕方なく裕星の右手を取った。
――裕くんはきっとこの番組が終わるまでお芝居を続けるつもりなのね。私が勝手にヤキモチを焼いて、裕くんのお芝居の邪魔をしたら、この番組も裕くんの苦労も失敗に終わる。
仕方ないわ。こんなに綺麗で魅力的な女性達の中で、目立たない私が選ばれるように頑張らなくちゃいけないものね。
美羽は決心したように瞼を上げて裕星にニッコリ微笑んだ。
その天使のように純粋だが今まで見たこともないほど突然の魅惑的な笑顔に、裕星は思わずドキリとしてしまった。
いつも裕星は美羽の自然な魅力にドキドキしているのだが、今の美羽はまるで裕星の思惑の全てを理解したように大人びて艶っぽく見えた。
「……裕星、さん?」裕星がじっと美羽に
「あ、いや、その。向こうのソファで話しましょうか」と気を取り直したように、美羽の手を取って誘導したのだった。
何かを決心した時の美羽はいつも
やがて、はっと我に返ると、コホンと一つ空咳をして、「美羽さんはどうしてこの番組に出ようと思ったのですか? 結婚を考えているのですか?」といきなり目の前にADが用意したセリフを機械的に読んだ。
「――結婚はしたいです。でも、本当に好きになった人とです。私の家族はいません。
子供のころ教会の中にある孤児院で育ち、両親の顔も知りません。
でも、今は神父様に育てていただき、大学まで通わせていただいて…─感謝してもしきれません。
だから、ボランティアとして同じように家族のいない子供たちのお世話ができることに幸せを感じています。
だけど、もし自分に子供が持てたら……そんなことを考えるようになったのは、ある人のお蔭なんです。
その人がいたから、私は家族を作りたいと思うようになったし、自分も幸せになりたいと素直に思えるようになった。
私は愛する人と家庭を築いて、平和に生きていきたいんです」
美羽は隠さず正直な気持ちを裕星に伝えたのだった。
「美羽……」裕星は美羽の言葉を聞いて、今すぐにでも抱きしめたくなる気持ちを必死に抑えていた。
「俺も……結婚するのは本当に愛する人とだと思ってる。でも、たった数回で誰かを選べと言われても、それで正しい選択をしたとは思えない。
だから、俺がここで選ぶ人はたぶん今その人を支えたいという気持ちからだ。
少なくとも君の気持ちを聞けて嬉しいよ。これから俺が何をしても、君には信じていてほしい」
裕星の何か意味を含んだような言葉を美羽にはよく理解できなかったが、裕星が自分に言った最後の言葉を信じてみようと思ったのだった。
美羽はゆっくり瞬きをしながら頷くと、笑顔でそっと裕星から離れた。
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