第12話 シンデレラたちの知られざる過去
美羽たちが到着したCスタジオは、パーティールームのような飾り付けがしてあり、中央の大きなテーブルにはシャンパンやワインなどの酒類と豪華な料理が置かれていた。
わぁー! すごい! 美味しそうー!
女性達が興奮しながら部屋の中を回って装飾品や豪華な料理を眺めていると、司会の佐々木がやってきた。
「それでは番組収録を開始いたします」と女性達に挨拶をすると、カメラに向かって笑顔を作った。
皆様、こんにちは! 独身貴族の時間がやってまいりました。私は司会の
今日は先日脱落された
ルールを改めて説明し、裕星にどうぞと手招きをした。
「今回の王子、
司会者は多少偏ったものの言い方をしたが、誰もそんなことに気付くものはいなかった。
ただこれからのアプローチ合戦でどうやって裕星に落とされずに最後まで残ることが出来るか、それだけを考えていたからだ。
美羽は目を合わせようとしない裕星に不安を感じて下を向いていたが、ADがスケッチブックに書いた何かをしきりに見せてくる。
美羽がそれに気づきADの指示を読むと、そこには(もう少し、裕星さんにアプローチお願いします。シャンパンを注ぎに行ってください)とあった。
美羽は小さく頷くと、シャンパンを手に取り、ゆっくり裕星の方へと向かって行った。
すると、かおりがさっと美羽の前に立ち、裕星のグラスに赤ワインを注いでしまった。
美羽はシャンパンを注ぐための裕星のグラスが赤ワインで満たされたのを見て、すぐにボトルを引っ込めてテーブルに置くと、ザワザワする気持ちを落ち着かせようと目を閉じてゆっくり深呼吸をした。
このまま目立たなくていいから、早く番組が終わってくれることだけを考えていた。
食事をしながらワインを飲み、またおしゃべりをする、ごく普通のパーティ形式で番組は進んで行った。裕星の傍には必ず誰かがくっついていた。
一人だけの時もあったが、大概は美羽以外ほとんど全員が裕星を囲んで談笑していた。
すると今度は司会者が「ツーショットタイムになりました。海原さんは女性一人ずつと向こうにあるテーブルでお話されて下さい」と美羽以外で盛り上がっていたパーティーに介入してきた。
まず最初に裕星の隣にいた百合奈が、裕星と一緒にテーブルへ向かった。
百合奈は裕星の腕を取ると、「ねえ、裕星さん。ちょっとお願いがあるの。聞いてくれる?」と上目使いに訊いた。
「お願いって?」
「実は、私、今の事務所になる前にモデルのお仕事をしてたんだけど、あんまり売れなかったの……。でも、売れればいいというわけじゃなかった。ちゃんと自分らしい仕事がしたくて……」
「……それで?」
「私、間違っていた……」
「間違い?」
「そう。本当は仕事が入れば、売れてお金も入ると思っていたけど、違ってたわ」
裕星はこの番組には似つかわしくない百合奈の深刻そうな話題に耳を傾けていた。
「何が違っていたの?」
「うん……本当に大切なのは仕事があることだけじゃない。その先の、将来を見ていくことなんだって……分かったの」
「――それは、随分と抽象的な話だけど、俺への頼みと何か関係があるの?」
「そうね、今までは本当にバカな私だったけど、裕星に会ってからは自分らしく居られる気がしたの。
だから……もし、この番組で私を選んでくれたら、本当にこれから真剣に付き合ってほしい。
自分らしい仕事を選んで、本当に好きな人といたいから。
真剣に付き合いたいと思った人、今までいなかったから」そう言うと、裕星の腕に絡みついたのだった。
裕星は百合奈の腕を振りほどくこともせず、しばらくそのままにしていた。
その二人の様子を遠目に見ていた美羽は、心のモヤモヤのメーターが最大限に達しそうになり、思わず胸を両手で押さえた。
――私、このままこんなことをしていたら気が可笑しくなりそうだわ。裕くんはもうこの番組を受け入れて、そしてお芝居をしている。
――ううん、もしかすると、お芝居じゃなくて、本当にここにいる人達を好きになってしまったのかも……。
思わず涙が出そうになって、壁に向き目を閉じた。
すると今度はかおりが裕星と百合奈の間に割って入って来た。
「もうそろそろいいかしら? 今度は私とお話しましょう、裕星」
「――ああ。じゃあ、ちょっと失礼します」と裕星は百合奈に微笑むと、かおりに腕を取られて室内のソファに座り直した。
かおりは裕星の隣に座ると、早速皿に盛ってきたオードブルを差出した。そして、どうぞと裕星に渡すと、自分もワインを飲みながら話し始めたのだった。
「私ね、子供のころからモデルをしてきたの。最初はもちろん自分の意志じゃなくて、母親に連れて来られて始めた仕事だったけど、雑誌とかテレビに出ている内に、だんだんやり甲斐を感じるようになって、高校を卒業するころには自分からモデルとして頑張って行きたいって思うようになった。
でも、まだこの世界のことは母親の後ろ盾なしでは何も分からなくて、一人で仕事を選ぶ事もできなかった。
それがコンプレックスだったの。だから、20歳になったとき、母に内緒である事務所に移籍したの。
でもそれからが地獄のようだったわ。仕事どころか……」
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