第7話 聖戦の表裏
「あの……私たちじゃなくて、他の方じゃダメだったんですか?」
「はい。実はかなり以前からの企画でして、どうしても、あの、女性に簡単に振り向かないクールな
番組でどんな化学反応が起きるか見てみたいと思ったんですよ。そして、女性の方の立候補もかなりあって迷っていたのですが、知り合いのディレクターの推薦で彼女たち4人の美女がすんなり決まったんです。
いやあ、最初は天音さんが一般人の、それも大学生だというので、どんな方なのかと思っていたのですがね、お会いしてみて、こんな美しい上品な方だと分かって、むしろこちらの方からお願いしたいと申し上げた次第です」
牧田は長々と説明しながらも、美羽の不安には答える気はないようだった。
美羽は番組が用意した寮に帰る途中、さっきまで一緒だった岡本アンが少し先を歩いているのに気づいて声を掛けた。
「あら、美羽さん? 今終わったの? 遅かったのね。プロデューサーとどんな話をしたの?」
「あ、あの、今日は私が消極的だったので、そのことで……」咄嗟に美羽は自分のせいにした。
「ああ、やっぱりそうだったのね。私もあなたが自分から応募したようには見えなかったから、きっと誰かに推薦されて無理やり出されたのかなとは思ってたわ」
美羽はどきりとした。しかし、牧田の話では、後の4人も知り合いのディレクターからの推薦だと聞いていたのを思い出し、
「でも、皆さんもどなたかに推薦されたとお聞きしたのですが……」と逆に訊きなおした。
「え? そんなことまで話したの、あのプロデューサー?」
「でも、それだけです。それに私の推薦人も私の知らないところでこのお仕事をもう決めてしまっていて……」
「え?」
「裕星さんの事務所の社長さんです」
「ああ、そうだったわね、JPスター芸能事務所の推薦よね! そうか、じゃあ、実際には推薦人同士の対決で、あなたが私たちにとって一番強力なライバルだったのね!」
「ライバルだなんて……私はそんなつもりは」
「でも、裕星と貴女は以前からの知り合いでしょ? 社長の知り合いだし。もう私たちよりは一歩も二歩もリードしてるということよ」
「……リードだなんて、そんな」
美羽は元々裕星の恋人であることを最後まで隠さないといけないことに罪悪感が湧いた。
「でも……皆さんはどうしてこの番組に推薦されたとはいえ出演を決意されたのでしょうか?」
簡単な質問だったが、アンはしばらく何か考えているようかのように唇を一文字にして宙を見ていた。
「――推薦だけど、本当は皆、どうしても出演したかったからかな。だって、この番組は全国放送でかなり視聴率があるでしょ? 沢山の人に観てもらえるし、そうなれば私たちのことを知ってもらえるいい機会だったから、かな」
「……私たち?」
「あ、ああ。そう私たち、実は知り合いなのよ。貴女以外の4人とはね」
「知り合いだったんですか? 皆さん」
「ええ、同じ業界にいるんですもん、そりゃあ知ってるわ。皆結構仕事場で顔を合わせる子たちよ」
「あ、あの、それで……もし、この番組で裕星さんに選ばれたらどうなるんですか?」
「どうなる?」ふふふと鼻で笑うと、アンは美羽の真正面に回って話し始めた。
「貴女、本当になんにも知らないで出ちゃったのね。この番組は最後に選ばれた女性と独身貴族の王子が交際できることが前提なの。それに選ばれた女性は1つだけ夢を叶えてもらえるのよ。
つまり、男性次第でストーリーも違っちゃうわけね。だから、皆必死になってアプローチをして最後に残ろうとするのよ。
でも、私の場合は、選ばれるかどうかよりも、この番組を通して私のことを視聴者に分かってもらえればいいんだけどね」
少し含みのあるようなことを言って、アンはふっと笑った。
「私は……私はもう辞めたいです。選ばれても選ばれなくても、女の子たち同士で争うようなことしたくないです」
アンは美羽を見つめながら、優しく微笑んで言った。
「でもね、もう『
美羽はアンの気迫に押されそうになった。アンのこの番組に対する思いの強さが伝わって来て、むしろ前よりももっとやりづらくなってしまった。
――私は最後は打ち合わせ通り、裕くんに選ばれて番組としては成り立つことになってる。
だけど、こんなにも熱心にこの番組に掛ける思いの強い人達に対して、とてもイケないことをしてる気がするわ。
どうしたらいいの? 引き受けてしまったのは私……私も悔いが残らないようにしなくては。
このまま何もしないで裕くんに選ばれることになったら、きっとみんなが怪しむと思うもの。
美羽はアンと別れると、ハア~と深くため息を吐いて帰途に着いたのだった。
3日おきの収録はすぐに来てしまう。最終回までは、後4回は収録をすることになる。
その後、編集があり放送日に間に合うように構成をまとめる大変な作業があるのだ。
美羽は控室に来て、皆がそれぞれ化粧直しをしながら待っているのをボンヤリ見ていたが、突然、モデルのかおりが美羽の隣に座り話しかけてきた。
「ねえねえ、貴女、裕星の事務所の推薦って言ってたよね?」
「あ、はい。でも所属してる訳ではなくて……」
「知ってるわ。以前から裕星のことを個人的に知ってるの?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます