第8話 美女たちの素が引き出され
「は、はい……少しは」
「ねえ、裕星ってどんな人? いつもはクールだけど気取ったところがなくて、有言実行の人って感じに見えるけど、素はどんな感じ?」
美羽は、かおりの見解が割合と当たっていることで少し笑みが出たが、素を聞かれて困ってしまった。
――素はお茶目で時々涙もろくて、でも、怒るとすぐに拗ねて。だけど、情に厚くて誰か困っている人の為なら一生懸命頑張る、そんな素敵な人よ。
とは言えなかった。
「素、ですか? 素は私にも分かりません。でも、見た目はとてもクールだけど本当は温かい人だと思います」とだけ伝えた。
「クールだけど温かいって……そんなことまで分かるの? それだけ近くにいるということ?」
美羽はハッとした。こんな単純な言葉だけでも、自分と裕星の関係を勘ぐられてしまうのだ。
「い、いえ、そういうわけじゃ。ただ、色々ボランティアをされたり、小さい子供たちの施設でコンサートをされているので、そうなのかなって」と誤魔化した。
「ああ、そういうことね。そうよねー、裕星はボランティアも惜しまない人よね。よく孤児院でコンサートをしてたというニュースを読んだわ」
かおりはそう言うと、満足したのか美羽の元を離れたのだった。
ふぅー、と美羽は小さくため息を吐いたその時、控室のドアがノックされて司会者の佐々木が入って来た。
「皆さん、今日は私服でお集まりいただいていますね。それではこれから皆さまと海原さまとでロケ先にてグループデートをしてもらいます。
番組ではカメラマンとディレクターのみが同行したしますので、どうぞよろしくお願いします。
それでは、局の外に移動してください」
女性達へ外に出るように言われ、想定外の展開にザワザワしていると、司会者自らが案内して女性たちを局の下に用意されたロケバスに乗せた。
ロケバスは最後にやってきた美羽を乗せ、そのまま郊外へと走ったのだった。
美羽は私服と言われたので普段着のTシャツとパンツルックで臨んだ。しかし、他の女性達はここぞとばかりに個性を主張するような派手なスカートや胸の大きく開いたセクシーなブラウスとロングスカートという出で立ちだった。
だが、それも現地に着くころには、美羽の選んだ服装が一番その場に相応しく動きやすさに気付くことになる。
ロケ地は山間の河原だった。
車を降りると、早速司会者がカメラマンの前に立ち番組の開始を待った。
「こんばんは。皆さまお待ちかねの『独身貴族』がやってまいりました。今回は2回目です。皆さま魅力をさらにパワーアップされて、本日は私服でお越しいただいております。
今日はキャンプ場デートです。女性の皆様にとって得意分野を発揮できる場所でもありますので、思う存分ご自分の個性を発揮して下さい。それでは王子の登場です!」
初回に比べて案内も簡素になり、すぐに裕星が呼ばれた。
裕星は先に到着していた別のロケ車から降りてきた。今回は女性達と同じように私服で現れたが、そのスタイリッシュだがラフなファッションに女性達から歓声が上がった。
Vネックの黒いTシャツの上に軽く羽織った薄手のブルーのジャケット、絶妙なバランスで入れられたダメージファッションジーンズに、動きやすいランニングシューズを履き、ジャケットの袖を少しまくって見えているシルバーの大きめの腕時計。
そのままメンズファッションモデルとしても通用するほどのレベルだ。
「皆さん、お揃いですか? 今日はこれからキャンプデートをしていただきます。キャンプなので食事の用意は皆さんにしていただきます。食材は番組で用意したものを使っていただき、炭火で火を起こして王子と一緒に作っていただきます。それでは、楽しい一日を!」
こんな場所に来るとは聞いてなかったとばかりに、派手な格好の女性達は大きな玉砂利の上を恐る恐るハイヒールでグラグラしながらやっと食材の置いてあるテーブルまで辿り着くと、何を作ろうかと吟味していた。
美羽はスニーカーを履いているお陰で動きやすかったが、それでも他の女性達に気を遣い、テーブルからは離れた場所で皆が食材を取り終えるのを待っていた。
かおりは、片手で長いスカートをたくし上げながら調理台に着くと、マニキュアの付いた赤い爪の先で肉をつまみ上げた。「やだ、私料理なんてしたことないんだけどぉ」
すると、隣の
すると、お嬢様育ちの百合奈がヒラヒラのブラウスの袖をまくって、「もう、こんな場所に来たのも初めてよ! お料理って言っても、どこで調理すればいいの? あんな網の上じゃ高級なお肉も上手く焼けるわけないわ」とブツブツ言っている。
「みんな、随分と文句が多いのね!」
アンが後ろから野菜を大量に運んできて、調理台にドサリと置くと、手際よくサッサと切り初め、バーベキューの材料を用意し始めた。
「ほらほら、文句言ってる間に手を動かしたら?」
姉御肌のアンが一番料理の腕前があるようだ。
美羽はみんなの後ろからやってくると、少ない食材を持ってまな板の上にそれぞれ綺麗に切り刻んでおいた。それを黙々と鍋に入れて炒めると、水を入れてグツグツ煮始めた。
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