第3話 追い込まれた美青年
――結局、俺もオファーを受けるしかないのか……。クッソ、浅加め!
裕星は怒りに震えながら、テレビ局に電話を入れた。
番組の責任者は
以前から人気の高かった『独身貴族』は、更に盛り上がりを見せ、今年で3年目に突入した。
今までは素人の出演者で回していたのだが、今ひとつ新鮮味がなくなっていた。そろそろ大きな変化をもたらして更に番組をヒットさせようと今回は賭けに出たのである。
有名俳優やアイドル、アーティストなどをターゲットの男性に起用すれば、ファンはもちろん、若い女性たちは出演を果たした女性達に嫉妬心を燃やし、また自分たちを彼女らに投影してスリルを味わうことで視聴率は右上がりになるはずだ。
有名俳優、アーティスト、モデル、様々な分野から厳選すべく調査を重ね、今年活躍した若手タレントを探った結果、相応しい人物が数名候補に挙がった。
その一番候補には、ラ・メールブルーの
その中でも、容姿の優れた、週刊誌のでっち上げ以外で女性遍歴のない誠実で真面目な男を見極めた。
そして最終的に選ばれたのが海原裕星だったのだ。
裕星が電話をしたのは、全国ネットSFYテレビの
<はい、お電話代わりました、牧田です。海原さんですか?>
「はい、お世話になっています。実は単刀直入に申し上げて、今回俺がオファーされた番組出演を辞退させていただきたくて電話しました」
<……辞退? 浅加社長からこの仕事はもう決まった話だとお聞きしてないのですか?>
「聞いています。しかし、他のどんな仕事も受けますが、こういった番組にはお役に立てないと思っています。それともう一人、知り合いの女性も辞退させていただきたくて電話を……」
<ちょ、ちょっと待ってください。それは困りましたね。さきほど女性達の方へは簡単な段取りの打ち合わせを終えたところでして、海原さんがお相手だと決まっているから応募されたという方達も多く、今更辞退と言われましてもねぇ……。それと、そのもう一人の知り合いの女性とは?>
「
<それは無理な相談ですよ。社長の受諾も取ってこちらはもうかなり準備を進めてきて、番組収録が迫っておりますし、大変難しい話ですね。
他の候補に代えたと言っても、皆さん納得しないと思います。
現に、もうホームページには次回の候補者全員のプロフィールを掲載してしまいましたからね>
牧田の声は相当困っているようだった。
しかし、裕星も引き下がる事はできなかった。このまま引き受けてしまったら、番組では裕星が女性たちを避けてばかりで成り立たなくなる恐れもあるからだ。
すると牧田が苦肉の策を提案してきた。
<それじゃあ、海原さん、ひとつ提案があります。こちらに直接来て頂けないでしょうか>
裕星はまだ納得はいかないものの、直に牧田に会って交渉することに合意した。
テレビ局に着くと、少し待っててくださいと通された会議室で、隣りの部屋にいる女性達の賑やかな声が壁伝いに裕星にもハッキリと聴こえてきた。
<ねえねえ、私すんごく興奮してるんだけどぉ! 海原裕星だよ、あのイケメンの裕星! あんな理想の男とデートしたり、あわよくば付き合えるかもしれないなんて、もう最高の夢じゃない?>
<やだ、かおりさん、私はきっと選ばれないから終始嫉妬に狂いそうかも。きっと選ばれるのはアンさんよね! すごく綺麗だもの>
裕星はフンッと鼻を鳴らした。
――大丈夫だ、俺は誰も選ばないよ。
すると次に聞こえてきた声に裕星は思わず聞き耳を立ててしまった。
──美羽の声だった。
<あのお、皆さん、選ばれるとか選ばれないとか、それに裕星さんとデートってどういうことなんですか?>
<ええっ? あなた、何も知らないで応募したの? どういうこと? ただの売名なわけ? この番組のこと知らないの?>
<はい……あの、ただのシェアハウスのようなものとしか……>
すると女性達の下品な大笑いが聞こえて来た。
<やっだあ、アハハハハハ! ウソでしょ? ねえねえ、あなたって何してる子? モデルにしては服装が地味だし。でも、清楚で綺麗だから……、ま、新人女優? それともミスキャンバスとか?>
《私はただの大学生です。以前からカトリック教会の孤児院でボランティアをしてます。でも、この番組は知り合いの社長さんから依頼されて……>
<カトリック? はあ、そういう純粋培養の子なのね? で、その社長って誰?>
<あ、裕星さんの所属する事務所の社長さんです>
<え? 裕星の事務所? それってJPスター芸能事務所てこと? もしかして裕星とも知り合いなの?>
<はい。あっ、いいえ! ……事務所の浅加社長さんと知り合いなんです!>咄嗟にごまかした。
<うっそーー! それって裕星といつでもコネで会えるってことでしょ?
キャ――――――!>
隣りの部屋から一斉に悲鳴に近い声が聞こえてきた。
<美羽さん、コネがあるからってズルはナシよ! 裕星の事務所の社長と知り合いだからって賄賂とかなしだからね!>
裕星はため息を
「バカバカしい。どこまでも美羽をライバル視してるんだな。俺も美羽もただの巻き込み事故に遭っただけなのに」
裕星が呆れていたそのとき、ドアがノックされ牧田が入って来た。
「いやあ、お待たせしてすみません。前の仕事が押してしまって。ああ、はじめまして、プロデューサーの牧田です」
名刺を差し出しニヤニヤしながら裕星を見ている。
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