第28話 わたしは飛べる!

 階段を昇りきった遊梨ゆうりとアリアちゃんは、わたしと代田だいだくんの横を、のっしのっしコソコソと通り過ぎて、つきあたりの部屋に入っていった。


「え? ちょっとちょっと、遊梨ゆうり、アリアちゃんどこいくの?」


 わたしが慌てて車椅子を右手のコントローラーを操作しようとすると、その前に車椅子はゆっくりと前進した。代田だいだくんだ。


「押してくよ」

「うん……ありがと」


 わたしは、前を向いたままちいさくうなずいた。だって、真っ赤になっている顔を、みられたくないもの。


 つきあたりの部屋は、アリアちゃんの部屋だった。


 古い部屋にはちょっと不釣り合いな、おっきなテレビモニターが三台おいてあって、座り心地のよさそうな椅子がある。ゲーム実況をする部屋なのだろう。

 アリアちゃんは小走りで座り心地のよさそうな椅子に座ると、マウスをかちゃかちゃとあやつって、画面いっぱいに動画を再生し始めた。


 そこには、棒高跳びの大会で中学新記録を出したときのわたしが映っていた。


『わたしは、跳びたかった。だれよりも高く跳びたかった』


 モニターから、遊梨ゆうりのナレーションが聞こえてくる。いつものハイテンションが信

じられないくらい、しっとりとした、大人びた声。


『わたしは、棒高跳びの選手だった。でも、わたしのつばさは奪われた。練習中の事故で、体の自由がきかなくなった』


 モニターはわたしの車椅子を映した。遊梨ゆうりのナレーションはつづく。


『でも……わたしは機械の翼を手にいれた!』


 音楽が変わって、テンポのいい曲が流れる。そして、ドローンがカットイン。わたしがサバゲーフィールドで操作したドローンだ。


『わたしは斑鳩いかるが露花ろか!』


 カットがかわって、ドローンは、車椅子に乗ったわたしの前にゆっくりと着地する。


『自分の足では飛べなくなったけど、わたしには、ドローンがある! 機械仕掛けの羽がある! わたしは、イカロスのプロペラを手に入れたんだ!』


 わたしはVRゴーグルを外して、にっこりと微笑んだ。そして、最後に、代田だいだくんにお姫様だっこされたカットで映像はとまり、テロップとともに遊梨ゆうりのシメのナレーションが入った。


『わたしは飛べる!』


 映像が終わると、アリアちゃんはおずおずとみんなを見た。


「……どう……ですか?」


 わたしは、思ったことを言った。


「すごいカッコいい……わたしじゃないみたい……」


 代田だいだくんも言った。


「うん、とても素人が作った映像とは思えない」


 最後に、遊梨ゆうりが言った。


「もうさいっこう! アリアちゃん天才! 特に最後のカット、めっちゃキュンキュンする! これで書類選考の通過は間違いなしだよ!」


 確かにすごい、代田だいだくんの言う通り、プロ顔負けの映像だ。でも、わたしは思っ

た。どうしても直して欲しいカットがあったから叫んだ。


「最後のカットいらないよね!」

「最後のカットいらないよな!」


 わたしと、代田だいだくんはガッツリとハモった。


「あらあら、仲のよろしいことで!」


 遊梨ゆうりはニヨニヨと笑いながら言った。


「うっさい! あんなの恥ずかしいよ! だって……」


 わたしがくちごもると、遊梨ゆうりは意地悪そうに言った。


「どうして? 普通の介助じゃない。全然変じゃない!」


 遊梨ゆうりは、ニヨニヨしながら拒んだ。

 代田だいだくんが言った。


「いや……確かに介助だけどさ……なんで最後にわざわざあのカットなんだ? つながり、おかしくね?」

「だってあのカットどーーーーーーーーーーーしても、入れたかったし!」


 遊梨ゆうりはゆずらない。


「外してよ」

「いやですー」

「はずせ!」

「きこえませーん」


 遊梨ゆうりは、わたしと、代田だいだくんの要望をガンとして聞き入れない。そのやりとりにたまりかねたアリアちゃんが、おずおずと言った。


「あの……遊梨ゆうりさん……あのカット絶対にヘン! です……つながりとして、ありえない……です」

 アリアちゃんの意見は誰よりも強かった。結局、アリアちゃんがすでに作成していた、ひとつ前のバージョンを大会に郵送して送った。

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