第9話 だって……はずかしいもの

  キーンコーンカーンコーン……


 グラウンドにチャイムが鳴る。下校時間だ。


 校長先生は、十分くらい前に部室を出た。職員会議があるらしい。代田だいだくんは、ドローンの練習用に配置した椅子とテーブルを、もともと置いてあった教室のはしっこに戻している。

 その間にわたしは、椅子から車椅子に乗り換える。そしてわたしが車椅子に乗ると、代田だいだくんは、わたしが座っていた椅子もかたづける。


 ちょうど代田だいだくんが椅子をかたづけた時、わたしのスマホがふるえた。お母さんからだ。校門に、見慣れたオレンジのワゴンが見える。


「じゃ、帰ろうか」

「うん」


 代田だいだくんが、車椅子のフックに、わたしのスクールバッグをかけてくれる。そして、自分のスクールバッグも持って、教室の外まで押してくれると、


「じゃ、また明日」


 って、あいさつをする。わたしが


「うん」


 って、返事をすると、代田だいだくんは、階段がある反対にスタスタと歩いていく。さも、他人ですよってフリをして、偶然、一緒になったんですよって感じで、スタスタと歩いて帰っていく。


 だって……はずかしいもの。他の生徒とすれ違ったらはずかしいもの。車椅子を押されているところを知らない人に見られたらはずかしいもの。


「あのふたり、つきあっているの?」


 って、へんなウワサがたっちゃうかもしれないもの。そんなことになったら……はずかしい。そ、それに、代田だいだくんに迷惑だ。


 わたしは、右手で車椅子にそなえつけられたプロポ……じゃない、コントローラーを前に倒して、車椅子を前進させる。

 そして、エレベーターの「下」ボタンを押した。

 ドアはすぐに開く。わたしは、「1F」と「閉」ボタンを押した。


  チーン


 エレベーターが一階についた。わたしは下駄箱をつっきって、そのままグラウンドに出る。シューズは上履きのまま。だってわたしには、外履きはいらないもの。


 わたしは、車椅子のコントローラーを前に倒して、無言のままグランドをつっきっていく。


 遠くに、校門から出ていく代田くんの姿が見えた。


 そしてその先に、わたしの車椅子に気が付いたお母さんが、車を出て後部のバックドアを開けていた。

 代田だいだくんは、その様子をチラッと見ながら、学校から出ていった。

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