第8話 正々堂々が好き
「斑鳩は、校長先生と同時スタートでもいいぜ? いいかげんハンデを受け取れよ」
「結構です‼︎」
もう何度目のやりとりだろうか。
わたしは、正々堂々が好き。同じルールで戦って勝つのが好き。だからハンデをもらって勝つなんて絶対にイヤ! そんなわたしの性格を、
「あんまり俺ばっかり勝つとつまんないからなぁ……ま、
「手加減をされるのが、いっちばーーーーーーーーーーん、ヤダ‼︎」
「だろうな……じゃ、校長先生、いつでもスタートしていいよ。俺と
「OK! OK! それじゃ、よーい……スタート‼︎」
校長先生は、自分一人だけのために、スタートの合図をかけると、ドローンをフラフラと飛ばし始めた。校長先生のドローンは、そのままフラフラと飛んでいく。
わたしは、今のうちにプロボのボジションを調整する。椅子に座って操作するわたしにとって、このプロボのポジショニングはとっても重要。わたしは、脚をちょっとだけひらいていて、その隙間に親指しか動かない左手を固定している。そして左の親指にプロポをあてがって、右手でプロポをにぎる。色々試したけど、これが一番安定する。ほんとは、左手をだれかに支えてもらっているほうがずっと安定する。
一対一の勝負をする時は、手の空いている、校長先生か
もうちょっと左手の自由がきけばいいのに……って思うけど、こればっかりはしょうがない。そしてそれを勝負に負ける言い訳なんかにしたくない。
校長先生のドローンは、よたよたと机よりもちょっとだけ高いところを飛んでいる。そして、ふらふらと机の上に乗っている、椅子の足の下をくぐりぬけた。
「スタート!」
わたしは叫ぶと、勢いよくドローンをテイクオフさせる。
「あ、しまった!」
少し遅れて、代田くんのドローンも飛び立った。しめしめ、油断したらしい。
「チャーンス!」
わたしは、左手の親指を細かく動かして、三十センチくらいの高度をキープすると、すばやく三つの机をくぐりぬける。そして慎重に椅子を通ろうとしたら……。
「ああ、ズルい!」
代田くんのドローンが、椅子の下でホバリングをしていた。わたしのドローンを通せんぼする作戦だ。
「ちょっと! ズルいじゃない。通れないでしょ!」
「チェックポイントでホバリングしたらダメってルールはない。ってか、先に机の上の椅子を潜ればいいだろう? 俺はもう通ったからさ。あっちの椅子だったら邪魔しないよ」
しまった! そういう作戦か! ドローンの高度調整って本当に難しい。目の前ならともかく、遠くだと本当に難しい。そして、今から机の上の椅子に行くのはかなりの遠回りだ。そんなタイムロスをしていたら、代田くんが机を全部通り抜けちゃう!
ここは勝負だ! 私は、ドローンの高度を、ほんのちょっとだけ上げることにした。代田くんのドローンと椅子のスキマを無理矢理通り抜けることにした。スキマは十センチ以上ある。大丈夫だ。問題ない。ちょっとしか動かない、わたしの左手の親指なら問題ない。びみょうな力の加減ならお手のものだ! やればできる‼️
わたしは、プロポの左スティックを、しんちょうに、しんちょうにさわる。ドローンはゆっくりゆっくりスロットルをあげて上昇する。よし! 突き進め!
わたしは、プロポの右スティックを思いっきり上に倒した。ドローンは前傾して机の下に突っ込んでいく。
「わ! やめろ、
「うっさい! だったらどいてよ!」
わたしのドローンは、椅子の下と
「よっし!」
「マジかよ!」
わたしは、余裕を持ってドローンのスロットルを上げると、机の上に乗った椅子をくぐった。
「やた!」
勝った! うれしい! うれしいなんてもんじゃない、会心の勝利だ!
「あ〜マジかよ……」
「はっはっは、
校長先生はゴキゲンに、ようやく二個目の机をくぐり抜けた。うん、校長先生にはもっとハンデが必要かも……。
わたしはうれしかった。うれしかったから、ちょっとだけ引っかかったことに釘をさした。
「言い訳なんかしないでよ、スタート、出遅れていたでしょ?」
すると、
「え? あ……うん」
って、なんだか歯切れの悪い返事をした。てっきり、「油断してやっただけだ!」とか、負け惜しみを言うと思っていたのに……ってか、さっきはなんで、ぼーっとしていたんだろう……
「よっし、ゴール!」
校長先生はようやくゴールした。うん。校長先生には絶対もっとハンデが必要だ。
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