第8話 正々堂々が好き

 代田だいだ君は校長先生にハンデをあげると、こんどはわたしのほうに振り向いた。


「斑鳩は、校長先生と同時スタートでもいいぜ? いいかげんハンデを受け取れよ」

「結構です‼︎」


 もう何度目のやりとりだろうか。代田だいだくんは、ニヤニヤと笑いながらハンデの提案をして、わたしはムキになってそのハンデをお断りする。


 わたしは、正々堂々が好き。同じルールで戦って勝つのが好き。だからハンデをもらって勝つなんて絶対にイヤ! そんなわたしの性格を、代田だいだくんはこの一週間でもう、じゅうぶんに知っているはずだ。なのに余裕しゃくしゃくで、ニヤニヤとハンデを提案してくる。これ、絶対にちょうしに乗っているよね⁉︎ こんな性格だから、イケメンなのに女の子からの人気がイマイチなんじゃないかな……。


「あんまり俺ばっかり勝つとつまんないからなぁ……ま、斑鳩いかるががハンデいらないなら別にイイヤ。ただ、手加減はしねーぞ!」

「手加減をされるのが、いっちばーーーーーーーーーーん、ヤダ‼︎」

「だろうな……じゃ、校長先生、いつでもスタートしていいよ。俺と斑鳩いかるがは、校長が机の上の椅子をくぐったタイミングでスタートするから」

「OK! OK! それじゃ、よーい……スタート‼︎」


 校長先生は、自分一人だけのために、スタートの合図をかけると、ドローンをフラフラと飛ばし始めた。校長先生のドローンは、そのままフラフラと飛んでいく。


 わたしは、今のうちにプロボのボジションを調整する。椅子に座って操作するわたしにとって、このプロボのポジショニングはとっても重要。わたしは、脚をちょっとだけひらいていて、その隙間に親指しか動かない左手を固定している。そして左の親指にプロポをあてがって、右手でプロポをにぎる。色々試したけど、これが一番安定する。ほんとは、左手をだれかに支えてもらっているほうがずっと安定する。


 一対一の勝負をする時は、手の空いている、校長先生か代田だいだくんに左手を支えてもらっている。校長先生に左手を支えてもらっている時は、代田だいだくんにだって五分に近い勝負ができる。


 もうちょっと左手の自由がきけばいいのに……って思うけど、こればっかりはしょうがない。そしてそれを勝負に負ける言い訳なんかにしたくない。

 校長先生のドローンは、よたよたと机よりもちょっとだけ高いところを飛んでいる。そして、ふらふらと机の上に乗っている、椅子の足の下をくぐりぬけた。


「スタート!」


 わたしは叫ぶと、勢いよくドローンをテイクオフさせる。


「あ、しまった!」


 少し遅れて、代田くんのドローンも飛び立った。しめしめ、油断したらしい。


「チャーンス!」


 わたしは、左手の親指を細かく動かして、三十センチくらいの高度をキープすると、すばやく三つの机をくぐりぬける。そして慎重に椅子を通ろうとしたら……。


「ああ、ズルい!」


 代田くんのドローンが、椅子の下でホバリングをしていた。わたしのドローンを通せんぼする作戦だ。


「ちょっと! ズルいじゃない。通れないでしょ!」

「チェックポイントでホバリングしたらダメってルールはない。ってか、先に机の上の椅子を潜ればいいだろう? 俺はもう通ったからさ。あっちの椅子だったら邪魔しないよ」


 しまった! そういう作戦か! ドローンの高度調整って本当に難しい。目の前ならともかく、遠くだと本当に難しい。そして、今から机の上の椅子に行くのはかなりの遠回りだ。そんなタイムロスをしていたら、代田くんが机を全部通り抜けちゃう!


 ここは勝負だ! 私は、ドローンの高度を、ほんのちょっとだけ上げることにした。代田くんのドローンと椅子のスキマを無理矢理通り抜けることにした。スキマは十センチ以上ある。大丈夫だ。問題ない。ちょっとしか動かない、わたしの左手の親指なら問題ない。びみょうな力の加減ならお手のものだ! やればできる‼️


 わたしは、プロポの左スティックを、しんちょうに、しんちょうにさわる。ドローンはゆっくりゆっくりスロットルをあげて上昇する。よし! 突き進め!

 わたしは、プロポの右スティックを思いっきり上に倒した。ドローンは前傾して机の下に突っ込んでいく。


「わ! やめろ、斑鳩いかるが、無茶するな!」

「うっさい! だったらどいてよ!」


 わたしのドローンは、椅子の下と代田だいだくんのドローンのスレッスレをキレイに通過していく。


「よっし!」

「マジかよ!」


 代田だいだくんは、慌てて椅子をくぐり抜けるけどもう遅い!

 わたしは、余裕を持ってドローンのスロットルを上げると、机の上に乗った椅子をくぐった。


「やた!」


 勝った! うれしい! うれしいなんてもんじゃない、会心の勝利だ!


「あ〜マジかよ……」


 代田だいだくんは、うなだれながら、最後の机を通過する。


「はっはっは、代田だいだくん、ズルなんてするからだよ」


 校長先生はゴキゲンに、ようやく二個目の机をくぐり抜けた。うん、校長先生にはもっとハンデが必要かも……。

 わたしはうれしかった。うれしかったから、ちょっとだけ引っかかったことに釘をさした。


「言い訳なんかしないでよ、スタート、出遅れていたでしょ?」


 すると、代田だいだくんは、


「え? あ……うん」


って、なんだか歯切れの悪い返事をした。てっきり、「油断してやっただけだ!」とか、負け惜しみを言うと思っていたのに……ってか、さっきはなんで、ぼーっとしていたんだろう……代田だいだくんらしくない。


「よっし、ゴール!」


 校長先生はようやくゴールした。うん。校長先生には絶対もっとハンデが必要だ。

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