第5話 何なんだコイツ

 わたしが、ちょうどリハビリを終えた時だった。


 ガラガラ

 だれだろう? とうとつに、教室のドアが開いた。


「あれ? 斑鳩いかるが。あ、むかえを待っているのか」


 入ってきたのは、おちょうしモノの代田だいだくんだ。ちょうしに乗ってグラウンドでドローンを飛ばして、体育の田中先生にドローンを没収された代田だいだくんだ。


「ドローン、返してもらえたんだ」

「ああ。めちゃくちゃ反省したから。本当に反省したから」


 そういうと、代田だいだくんは、ドローンを地面に置いた。二十センチくらいの大きさのドローン。そしてコントローラーを持つと、ドローンは「フィ〜ん」と高い音の鳴らしてうわりと浮かび上がった。


 こいつ、全然反省していない……。


 わたしがあきれていると、代田だいだくんはにこやかに言った。


斑鳩いかるがも、ドローン飛ばしてみる?」

「は? なんで? イヤだよ。先生に怒られるじゃない」


 代田だいだくんは、両手でコントローラーを操作してドローンを飛ばす。「フィ〜ん」って、ほんのちょっとだけ耳障りな音をさせてドローンを飛ばす。


「怒られたのは、授業中に飛ばしたからだよ。あと、田中先生をおちょくった。それに関しては、ものすごく反省している。校長先生にめちゃくちゃ怒られた」


 代田くんは、両手でコントローラーを操作してドローンを飛ばす。ドローンは開けっ放しになっている教室のドアからろうかに飛びだした。そして、換気用に開けっ放しになっている、窓の上にもう一個ある、小さな窓をくぐってもどってきた。あんなこともできるんだ……。


 代田だいだくんは話をつづける。ちょっと興奮しながら話を続ける。


「めちゃくちゃ怒られたけど、でも、オレがドローンを真剣にやっているってのは校長先生に伝わった。アピールできた! ドローン部を作ってもいいって校長先生にオッケーをもらえた! 校長先生が顧問をやってくれるって‼︎」


 ドローン部? なにそれ??


「オレは、ドローンレーサーになるんだ! 世界一を目指す!」


 ドローンレーサー? 世界一?? なにそれ???


「すごいんだぜ! 大会で優勝すればスポンサーがつく! そして海外に遠征できる。世界大会にも出られる! そのために放課後練習する! 空き教室を使わせてくれるって、 校長先生に約束してもらった!」


 ちょっと何言っているかわからない。


「あ、ちょうどいいや、斑鳩いかるが、お前も入らないか? 部員が最低三人はいるって言われたんだ」

「は? イヤだよ。そんなわけのわからないクラブ」


 なんなの? 代田だいたくん、ちょっと何言っているかわからない。本当に何を言っているのかわからない。そしてちょっと傷ついた。わたしがそんなの操作できるわけがない。両手を使わないといけないのに!


「だいじょうぶだって! 左手も親指は動かせるんだろ?」


 なんだコイツ? 本当になんなんだコイツ? 「親指は」ってなんだ! わたしがどれだけ努力して左手の親指を動かしているのかわかっているの?


「やらない!」


 わたしは、全力でイヤな顔をした。イヤな顔をしてイヤなトーンの声で言ってやった。でも、世の中にはたまーに、空気が読めないヤツっている。


「いいから、いいから」


 空気が読めない代田だいだくんは、ドローンを黒板の前にある教壇に器用に着陸させると、教室の一番後ろにある私の席に向かって、ズケズケと歩いてくる。


 足が動かせないわたしは、逃げることもできないから、どうしようもない。


 わたしは、みるみるうちにひざの上にコントローラーを乗せられて、両腕をつかまれて、ドローンのコントローラーをにぎらされた。最低だ。


「あ、そっか、左手は支えた方がいいよな」


 そう言って、代田だいだくんはわたしの左腕をもつと、やさしく左手を支えてくれる。代田だいたくん、ヘンなところで、結構、気がまわる。そして男子に密着されて、結構、ううん、かなり緊張する。

 代田だいだくん、性格は残念だけど、結構、ううん、かなりのイケメンなんだよね。塩顔系のイケメン。性格が本当にザンネンだから、女子の人気はホドホドだけど、わたしは結構……ううん……かなり好き。実はかなり気になっている男子。


「じゃ、動かしてみなよ」

「うん……」


 わたしは、緊張しているのがバレないように、ドローンのコントローラーを右手の親指で「ちょんと」前にそっと動かした。

 ドローンは、ちょっとだけ浮いて、すぐに教壇に着地をする。


「ダメダメ、プロボのスティックをもっと倒さないと!」


 プロボ? なにそれ? あ、コントローラーのことかな? 代田だいだくんに言われるがまま、右手でスティックを思いっきり前に倒した。


 フィ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん!


「え? ちょ! なにこれ⁉︎」


 ドローンは、今度はものすごいスピードで飛んでいって、天井にぶつかって真っ逆さまに落っこちた。


「あ、ご、ごめんなさい。壊れてない?」


 わたしがあわてて、代田だいだくんを見たら、代田だいだくんは笑いをこらえていた。肩がピクピクふるえている、そしてその振動が、代田だいだくんが支えてくれているわたしの左手の甲に伝わってくる。


「大丈夫だ。問題ないよ。それにしても斑鳩、お前大雑把すぎるだろ。下手すぎ!」


 ワタシはカチンときた。そんなことない、断じてない! 代田くんの教え方が下手なだけだ。第一、操作方法もろくに教えてもらっていない。

 わたしは、改めて操作方法を教えてもらった。


「右手の上下で、上昇と下降。左右で横に移動。左手の上下で前進と後退。左右で旋回。とくに、上昇はさっきみたいにいきなり上昇するから力加減が難しいんだ」


 わたしは、操作を教えてもらって、三度目のフライトに挑戦した。本当にちょっとの力加減で結構上昇する。かな〜り、微妙なチカラ加減。


「んじゃ、左スティックをたおして前にすすんで」


 わたしは、言われるままに左のスティックを前に倒した。ドローンは、ノロノロと前に進んでいく。


「そうそう、そんな感じ。もっと倒せば、もっとスピード出る。やってみなよ」

「それは、ムリ。今で結構イッパイイッパイ」


 わたしが答えると、代田だいたくんは。わたしの手の上に右手をかぶせてきた。


代田だいたくんは、わたしの指にそっと手を乗せて、スティックを前にたおした」


 ドローンはゆっくりと前進して、わたしの方へむかってくる。


「左はオレが操作するから、右はよろしく。左右で横移動な」


 わたしは、右スティックを内側に倒した。ドローンはこっちに向かいつつも、右側へと軌道をそらせていく。


「あれ? なんで左に行くの? スティック右にたおしたのに」


 わたしは思った方向の反対に飛んでいくドローンにあわてて、飛んでいく方向に、つまり、左に首をひねった。すると、目の前に、代田だいたくんの顔があった。

 わたしはいきなりドアップで現れた塩顔系のイケメンに慌てて正面を向き直すと、右手のスティクを内側にたおした。

 ドローンは、今度は右に向かって飛んでいく。


「そうそう、手前の場合は左右は反対。カメラが付いている方が手前。斑鳩、飲み込みいいな!」


 代田だいたくんの声が耳元で聞こえる。わたしは、手がじんわりと汗をかいているのがわかった。心臓がドキドキしている。


「も、もういいかな……なんだか疲れちゃった」

「そうか? じゃ、教壇に着陸させてくれ」

 そう言うと、わたしの手をやさしくにぎっている代田だいたくんの手は、わたしの親指を手前にたおした。ドローンは、ゆっくりと、もといた場所に戻っていく。そして教壇の上空で停止させると、


「スティックを下に入れて……スロットルを下げてそのまま着地をしよう」


と言った。

 わたしは言われるがまま、スティックを下げると、ドローンはするすると教壇の上に着陸した。


「どうだった?」


 代田だいたくんが、コントローラー……あ、プロポって言うんだっけ? わたしのひざの上からから取りながら聞いてきた。


「ドキドキしちゃった……(あ……)」


 ヤバい! 心の声がもれちゃった! 代田だいたくんのこと、意識しちゃっているのがバレちゃう! 耳が熱い。顔が赤くなるのがわかる。ヤバい、ヤバい! ヤバすぎる‼︎


「だろ? めちゃドキドキするよな! オレも最初はそうだった!」


 代田だいたくんは、さわやかに笑った。わたしが、ドローンを飛ばすのにドキドキしたと勘違いしてさわやかに笑った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る