第18話 青鬼姫の讀神歌

 マグレブは帝鉄池袋駅に停車中。

 

「すみません、だいぶ落ちつきました」

 安生やすより月紬つむぎに微笑みかける。


 なお体調を気遣う月紬つむぎ

 安生やすよりは丸薬でしゃくは概ね治まりました、と返す。


「副作用ですか? あるとしたら夢見が悪くなりがちなことくらいですかね」

 実のところは、観猿の肝丸の副作用が怖いのだが。


 安生やすよりはそんな内心はおくびもださずに、尋ねる。

月紬つむぎさんは、冷凍睡眠コールドスリープ前のことは夢にみますか?」


 そこから、月紬つむぎは、かつての記憶をぽつりぽつりと話し出してくれた。



 ✧


「なるほど。お姉さんが三井のヨツバにお勤めだった記憶がある、と。そのヨツバとは?」


「はい。よつばのクローバーの四葉財閥です。乳製品が本業……です」


 四葉財閥という名を安生やすよりは聞いたことがない。

「農商系の財閥のといったところですか?」


「はい。ただ、姉が勤めるヨツバは、キノウセイカガクを扱っていました」


「キノウセイを扱う?」

(機能性? 生化学?又は性科学?)


「たしか、四葉ハイケミカル。高い機能を持った化学製品を取り扱っていたかと」


 高度な化学製品。医薬品の原材料?

 いや。もしや魔薬の原材料?

 警視庁の任官研修で受け取った財閥一覧リストには、四葉の名などなかった。


 四葉家は裏の財閥を取り仕切っているということか?

 

 マグレブは帝都メトロの新宿御苑駅に停車した。


 あと一駅。

 黄泉還りの青鬼姫の容貌を視せ、安生やすよりに心を開いているはずの、今の月紬つむぎから何か有用な情報を得なくては。



 能面の転校生トランスフェレーシャ、P子ちゃんと月紬つむぎさんとのご関係は?


 内偵上の許諾を受けてから聞こうと考えていた金星姫のご宣託と関わる質問をぶつけてみた。


「P子ちゃんは、高麗子こまこお嬢様からのご紹介でして。一緒に圧縮学習コンプレッシングをしているうちに、最近では、随分と彼女の考えが分かるようになったのです。P子ちゃんとは、セイロンダンスもご一緒したいなと思ってまして……良く口ずさんでいるのですよ」


 青鬼姫の月紬つむぎは急に饒舌となった。

 そして、取り憑かれたように歌い出す。


 サーリぽてぃ~サーリぽてぃ♪

 コンラマゲ~コンラマゲ~♪

 ……

  

 歌い続ける月紬つむぎは瞳孔の焦点がずれている。

 安生やすよりは、自動人形の魔導を疑う。

 

 客室内にはセイロン語らしい月紬つむぎの歌声が響き続ける。 

 

(いや、黄泉還りに効く魔導などないはず。

 讀神よみかみ神魔じんま……か?)




 歌い終えた青鬼姫は、口角が綺麗に上げて言う。

「私を召し上がれ、という意味ですよ」



 マグレブは六本木駅のホームに入った。


 青鬼姫の月紬つむぎは何事もなかったように、到着ですねと腰を浮かせた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る