第13話 試技の開始と観戦者P子

 挑戦者の4人は、チルダン師を交えての直前作戦会議をしている。

 

 受けて立つ咲花エミカの方は、心春きよはるの前に立と、

「そろそろバイトに向かうマグレブの時間じゃない?」 

と、中指で彼のおでこをツンと突く。

 そして、「マグレブは30分に1本なんだから……ほらほら、出発、出発」

と、心春きよはるの背を押し促す。


 同学年の幼馴染。

 が、咲花エミカは4月の生まれ、心春きよはるは翌3月生まれ。

 自然、姉と弟のような関係となったのかもしれない。

 

 道場の出口まで歩んだ心春きよはるは、チルダン師と四人組の方に向け、一礼。

「ありがとうございました」


 チルダン師はうなづきで答礼する。


「たけきり物語、がんばろうね」

 美里夢ミリムが言うと、おっとりと微笑む。

 続き、お嬢様三人組は肘を曲げハッスルポーズを決めた。

 心春きよはるは、はにかみの笑みを返す。

 

 居合の竹筒斬りで締めるため、彼らの演題は「竹斬物語」の名。



「試技の方はどうせ私が勝つんだから、見なくても大丈夫よ」

 咲花エミカが軽口を叩きつつ、道場の外へと心春きよはるを導く。

 

 咲花エミカの姿がいったん見えなくなった。

 

 四人組は立ち上がり、着替えに向かう。

 

 ✧


 四人はそれぞれが準備運動の後、模擬刀を手にアップを進める。

 

 戻ってきた咲花エミカも軽く膝の屈伸などをする。


 次いでパッと制服を脱ぎ、半袖短パンの体操着姿となる。

 左の太腿のベルトに、短い警棒……いや、小刀の模擬刀が在る。

 その小刀を抜くと共に、左手のみで器用に太腿のベルトを外した。


 軽く小刀を一振りし、背を伸ばすと準備完了。

 剣術家の娘、咲花エミカ

 常在戦場ということか。


 最後に全員で透明なヘッドガードをつける。

 

 まもなく、演舞の開始だ。

 

 そう思った刹那、安生やすよりは慌てて横を見る。 

 いつの間にか、小柄な能面の子がいた。叡智學院の制服姿だ。

 

 安生やすよりはは験氣けんきで常に周囲をている。

 が、全く氣取れなかった。

 

 もう一人、小柄な女性が歩み寄ってくる。

「はじめまして、安生やすより先生」


「學院長の秘書を仰せつかりました、堀月紬つむぎと申します」

と続け、丁寧なお辞儀をする。


「はじめまして、堀先生」

 安生やすより優男やさおとこのお辞儀を返す。

 

「こちらは、トランスフェレーシャのP子ちゃんです」

月紬つむぎが能面の少女を手で示す。

 

 能面少女はペコリとお辞儀をした。

 

 P子? 金星姫の宣託にあった?

 転校生トランスフェレーシャ

 安生やすよりは混乱する。

 

 何か聞いたものか、と彼女達を見つめ直すと、月紬つむぎ

「試技が始まりますよ」

と、微笑む。


 慌てて試合場の方を見る。

 四人組と咲花エミカが対峙している。

 道着の四人と体操着の一人の分かりやすい対比だ。

 

 お嬢様三人組の一人、うたがエイッと斬り込む。


 咲花エミカは剣筋を見ずにかわしつつ、こちちを向いた。 

 視線はまっすぐ能面少女に向く。


 咲花エミカの口元に不敵な笑みが咲いていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る