第11話 學院での内偵の任は

 心春きよはるは斬った竹筒を集め、床を清める。

 

 同級生たちは、彼の周りに集まり評をする。



「うん、締めの出し物にいいんじゃない。私にも、二刀三斬はなかなかできなそう」。

 そう言う咲花エミカの笑みは、それこそ花咲く笑み。

 心春きよはるは、はにかみ笑いで返す。


(彼には、対人恐怖の気があるのかも)

 安生やすよりはそう見るようになっていた。


 母子家庭の心春きよはる君は、學院の特別奨學生。

 學費を免除される代わりに、學院の行事に協力する義務があるらしい。

 苦學生として、なかなか大変なのだろう。

 

 来週の修了式での演舞も、その義務の一つ。

 

 幼馴染として咲花エミカと、彼に全面協力していたようだ。


「えぇやん、えぇやん。スパーっと竹が割れて。気持ちイィんって感じで」

 何やら腰をくねらせつつ声を発していたのは、友樹トモキ

 彼は、隣接校の越谷実業の生徒。

 心春きよはる君との縁で見学しているらしい。

 えぇやんは、心春きよはる君の名字、栄作からくるあだ名だろうか?


「二刀の剣筋と竹筒の落下の仕方との関係が、計算外に思われてとても興味深かったよ」

 ハカセ君的な語りをしたのは、その名も博士ひろし

 彼も母子家庭で、心春きよはる君と同じく特別奨學生。

 學業成績は大変優秀だ。

 

「計算できなそうなところ、アートな感じよね」


 おっとりとした声で続けたのは、美里夢ミリム

 絵描き志望のお嬢様。

 後ろでは、うたとアクリーナがニコニコしている。

 彼女達は、たいてい一緒にいる模様。


 安生やすよりはお嬢様3人組と捉えることにした。

 

 ✧


 皆の話を聞きつつも安生やすよりは思ってしまう。 

「さておき、随分のんびりな内偵の任となっているよな」


 赴任後に行った内偵といえば、學内で聞氣きき耳を立てることくらい。


 月初に勘解由小路邸を訪れた際には、随分と気合が入ったものだ。

 帝國の、いや、世界の脅威を取り除くためにできることをやらなければ。

 そう思っていた。何しろ、最短で2年で大きな厄災が起こる見通しなのだ。

 

 けれども。

 

 俺は内偵任務者の中の下っ端にすぎない。

 ヤマさんの下での捜査のイロハ修行でも教わったではないか。

 待つ時は、現場でひたすらに待つものだ、と。

 

 

 それに、本当に世界規模、地球規模の危機が起こるものならば、上層部にも確たる策はないはず。

 

 今は、まずは与えられた内偵の任を着実にこなすことだ。

 得られた情報を総合して判断することは上の仕事だ。


 それに、2年後はさておき、その次の金星との会合周期にあたる10年後の厄災では、學院生達が大きな役割を果たしてくれるのかもしれないのだから。

 

 ✧


 この後は、六本木に戻り、内偵の任を続ける。

 

 今日は心春きよはる君が、美容施術のモニターのアルバイトのため六本木に向かうのだ。

 美容施術には男女問わない需要がある。

 かく言う安生やすより自身も、美容施術を受けさせられたばかり。

 いかにも華族家のお坊ちゃんといった風の容貌を作るため、とのことことだった。

 

 そして、今日の六本木では、學院長が何やら仕掛けをするとのことだった。

 心春きよはる君のバイト先は、高級ビューティーサロン「キュートクロス」。

 學院長は「キュートクロス」のオーナーでもあった。


 母子家庭の生活を少しでも楽にしてあげようと心春きよはる君にアルバイトを紹介したるのだろうか。

 

 いや、あの學院長女史は、どうも奇天烈な人のようだから、心春きよはる君をイジって楽しもうといったことかもしれない。


 半月ほどの學院内偵で得た知識から、安生やすよりはそう推測した。


 ふと、今の自身はまるで探偵だな、と思えてしまう。

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