第2話 内務省別館 特警研修室②
「途中で課長や長官が後ろの扉から入ってくるが、振り向かないように」
そう念を押してから、友永女史は話し始めた。
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友永女史による、特警(特別警察)と公警(公安警察)との近年の対立関係の話の多くに安吾は聞き覚えがあった。
現場捜査員として、公警と特警の双方に所属してきたヤマがぼやきながら幾度となく安吾に話してくれたがためだった。
それでも、陸軍特務部隊と特警、海軍揚陸部隊と公警海保という、政治的に作られた2つの組織協力体制がもたらした警察人事の変容など、初耳の話もあった。
友永女史が話上手ということもあって、安吾は帝大生に戻った気分となった。
警察機構内外の昨今の
民意の反映と政策の一貫性との間に調和をもたらされ、憲政への責任を追う場としての衆議院の権威が改めて高まった。
貴族院を閉院しての一院制の導入、違憲法規審査権の付与による司法権の強化、そして、官僚機構の肥大化に歯止めをかける省庁改革。
改正憲法による三権分立の強化と小さな政府の実現。これこそが新たな
官省庁の
割を喰うことになったのが、内務省傘下の最大官庁、
百年来の不文律として一般警察と特別警察とを併せ、配下の人員は30万人。
この不文律にメスが入り、十年後には定員を20万人とすることとされた。
背景には、樺太事件での特警の大失態があるとされる。
カルト集団と手を結んだ樺太独立派による樺太庁占拠事件。
北方特警は独立派の計画を事前に掴みながら、樺太の共産党弾圧予算確保のために握りつぶした。結果、樺太の治安は大きく乱れることとなった。
貴族院の特警OB勅選議員の後ろ盾の下、現場からもたらされる情報を独自に政治利用することを特警キャリアは当然としてきた。
これを良しとしない内務官僚が、陸軍省・海軍省と秘密裡に約定を結びつつ、内務省による特警への制御力を取り戻したのだとも言われる。
✧
熊本帝大生として西田哲学を学び陰陽修行に明け暮れていた頃の安吾には、政治も世俗も全く縁遠いものだった。
それらを知り始めたのは、東都陰陽學に惹かれ大日本帝國の甲種試験を受けることに決めてから。
友永女史の話を
残りの数分。
畏怖を覚えざるを得ない陰陽庁長官の
「安吾君。特警でも励んでいたようだね」
長官が安吾の肩をポンと叩いた。
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長官は簡潔に話した。
陰陽庁と特警との協力関係は今後も世のためとなる。
そのためには、陰陽の世俗活用の極致と言える多界の
そう仰った後に続いた長官の言葉に安吾は衝撃を受けた。
「我々に
実際、
遂に金星姫が唯一人の
「君はもう察しただろうけどね。金星姫の
この場で言えることはここまで、と長官が仰っしゃったことで、安吾は悟った。
金星姫の
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