直径12インチの螺旋

「うーん。何か足りないなあ」

 チューナーを弄り続けていたヒロシは、手を止めて胡坐をかいた。

「あれかな。スパイスみたいなもの。ちょっとした色気が欲しいのかな」

 部屋を見回したヒロシの目に、父親のレコードコレクションが映った。

「ノイズもレコードの味だっていってたな、親父のやつ」

 ターンテーブルに針を落とす瞬間がたまらんと、目を輝かせていた。

「マニアの考えることはわかりませんて」

 そういいながら立ち上がり、ヒロシはキャビネットのガラス扉を開ける。

「これか。よく聞いてたよなあ、あの人」

 右端の一枚。ジャケットの背が擦り切れかけたLP。80年代ロックのアルバムだ。

「敬意を表してこいつを使ってみますか」

 プレーヤーのターンテーブルに12インチの円盤を載せる。33.3回転で円盤が回転し始める。

「お。うねうねしてるね。いいんじゃない? アナログちっくで」

 ディスクのわずかな歪みが回転することにより強調される。針は波乗りのように盤面を滑るのだ。

「針を落としますよ、と」

 口では落とすと言いながら、そっと指を下ろして円盤に針を載せる。

「プツッ」

 泡が弾けるような音。音楽が始まるまでの短い時間、泡立つようなノイズがぷつぷつと流れる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る