ザ・ホワイトノイズ

藍染 迅@「🍚🥢飯屋」コミカライズ進行中

卒業制作

「頼むよ、ヒロシ。アーカイブにあるファイルじゃぴん・・と来ないんだ」

「うん、分かった。平板すぎるって感想は俺も同じ。何ていうかデジタル臭いっていうか、ランダムさが足りないんだよね」

「制作も終盤なのに、悪いな」

「大丈夫。アテ・・はあるから」


 映像専門学校の卒業制作。ヒロシの担当はSE(効果音)であった。

 演出のヨシオがここに来て煮詰まった。雨音のSEが気に入らないという。

 霧雨。細雨さいう小糠雨こぬかあめ煙雨えんう

 そんな雨の「音」が欲しいのだと。

「別にいいけど。細雨なんて、俺のPCじゃ変換できないんですけど」

 ぶつぶつ言いながらも、ヒロシはやる気を出していた。

「こういうチャレンジって、燃えるよね」

 実家に帰ったヒロシは、亡くなった父親の書斎に上がる。

 使われていない部屋は少し黴臭い。

「厨房の頃、勝手に弄って親父に怒られたっけ」

 父の書斎には古いオーディオセットが置いてある。無駄に大きいそのセットは六畳間を狭く見せていた。

 きれい好きの母親が頻繁に掃除しているのだろう。部屋には塵ひとつ落ちていない。

「ボッ」

 電源を入れると独特の音を立てて、オーディオに火が入る・・・・

「オーディオじゃない。ハイファイセットだってうるさかったな、親父のやつ……」

 チューナーのダイアルを回して音を探っていく。

「FMよりAMの方がいいかな。うーん、もう少し……」

 わざと放送バンドを外れた周波数帯を探る。アナログチューナーのダイアルを両手で持って、微妙な感度を拾う。

「何だか金庫破りみたいだな。お宝はどこですか?」

 ふと音が変化し、空気を噴き出すようなホワイトノイズがスピーカーから響いた。

「お? 来たか? もう少しきめ細かい感じ。それで広がりが欲しいんだよね」

 シャーというその音は、小雨が地面に落ちる音に聞こえなくもない。

「揺らぎと広がりね。アナログの実力を見せてもらおうか……」

 気がつくと2時間の時が経っていた。

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