第16話
ジャクリーンは、一ヶ月前にオーウェンと争って籠居し、二週間前に使用人の入室を拒み、それから五日後、乳母によって失踪が確認された。それから九日間、セルウィン家は捜査したはずだが、未だ見つからない。
数字を並べてみると、大した日数ではない。世の中には、十年経っても見つからない人が沢山いる。
実情を無視した意見だが、長い期間、失踪したと思っていると、モチベーションが下がってしまう。
何に対するモチベーションか。ジャクリーンの捜索への、モチベーションだ。
私は、ノアの案内で✗✗✗✗✗神殿に向かった。字面ほど大層なものではなく、せいぜい二百人詰め込めるかどうかといった、石造りの建物だ。
中に入ると、エリオットという禿頭の神官がいた。
彼と三人で会話することになってしまったが、ノアだけなんとか退席させる。
そうしないと、今の私は、怒声を張り上げかねなかった。
「あの……エリオットさん」
「はい、何でございましょう」
「この神殿に、遺体安置所はありますか?」
「遺体?」
禿頭の老人が首を傾げる。
「はい。私は、祭儀のためじゃなくて、死体を見に神殿に来たんです」
「死体……しかし、あなたのご先祖様は、あなたの領地の神殿にて、埋葬されております。一体、どなたのご遺体を見にいらっしゃったのでしょうか?」
「セルウィン家の死体です」
これを聞いたエリオット神官は、目を見開いて慌てふためき、「よそ様のご遺体を見たいなど不敬だ」とか「神殿は死人を見せびらかす場所ではない」とか、丁寧なのかぶっきらぼうなのか分からない言葉遣いをし出した。
だが、見ないわけにはいかない。そこに、暴かなければならない真実があるのだから。
私は、これまでにないほど
二つ折りになる美青年を見て溜飲が下がったのか、エリオットは、溜息をついて、「かしこまりました」と了承した。
「本来、婚約者の家であれ、親族の家であれ、よそ様のご遺体はお見せしかねます。しかし、それほどまでに照覧をお望みでございましたら、特別にお見せしましょう」
「ありがとうございます」
彼は、神殿の裏口を出ると、そこにいた身なりの汚い男に、どこそこの墓を掘り返すので準備を始めろ、と命令した。
男は、屋内に行くとすぐに戻ってきて、刃の幅が大きい
「全部です」
「え?」
「全部、掘ってください。どこに埋まってるか、分かりませんから」
「オーウェン様! 何を仰るのですか、流石に……」
「墓を暴いてもいいって言ったのは、エリオットさんです。……そいつを酷使するのが嫌なら、私に鍬を貸してください」
「――――」
エリオットは、色素の薄い目を瞼でぱちぱちと隠し、黙ってしまった。やがて、端から端まで掘れ、と命じる。私が代わるのは駄目らしい。
鈍色の長方形が、上に掲げられ、地に落ちる。
私は、ざわつく胸を抑えて、その光景を見つめていた。
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