第4話

 部屋に着き、召使いが去っていくと、ベッドにダイブする。あまり暖かくはないが、頭上を布が覆っている光景は新鮮だ。天蓋付きである。


 さて、何を考えよう。


 縄の記憶から、私が自殺したことは間違いない。転生した姿がオーウェン・コンスタント・ミーハンという男性貴族であり、世界観は中世ヨーロッパっぽいものだ。食事の前に鏡で見たが、前世に比べ、現世の私はハンサムボーイだった。いや、前世が前世だから、比較にならないんだけど。


 顔を手で覆いながら、造形美を堪能する。

 良い鼻筋だ。唇は上下ともに薄くすっきりしていて、目は細く、睫毛も控えめだ。彫りが深く、色白なのは共通しているが、ハロルドと違って太っているわけではないし、多少は筋肉がついている。

 脂肪は豊かさの象徴だとする時代もあったと聞くけれど、私の場合、自分が美しければそれでいいので、風潮は気にしないことにした。


「……って、これのどこが考え事なんだか」


 起き上がって、私は机と一緒に置かれていた椅子をドアの前に移す。既に内側から鍵をかけた後だが、それくらいだと、寝ぼけまなこで開けられる可能性がある。

 昨日までの私は、夢遊病者だったというのだ。

 外から出られないようにして、自分自身の奇行を防がなくては。


 椅子の設置が終わり、窓も気にしてみたが、雨戸が閉められていて、建付けが悪い。これは、寝ながら開けられるものではないだろうと判断し、ベッドに寝転がった。


 現世の私は、貴族か。何をすればいいのだろう。三男だから、跡継ぎをすることはないはず。婚約者とは勿論政略結婚だろうが、仕事なんて……前世では、まだ学生だったのに。親に面倒を見てもらえるのが当たり前で、友達が屋敷を所有することもない。


 面倒だなあ。遊んでていいって言われても、いつまで遊んでいられるんだろう。遊ぶってなんだろう。スマホもパソコンもないのに……くだらない遊びしかなさそうだし……。


 考えているうちに眠ってしまったようだ。

 再び目を開けると、窓から月が見えた。時計を見ると、夜の一時。慣れない環境で、無神経に寝入ったものだ。

 というか、歯を磨いていない。風呂も入っていない。この世界観って、そういうの遅れてるのかな、と思っていると。


 ドンドンドンドン!

 ドアを激しくノックする音が聞こえた。肩をびくりと震わせて、寝返りを打つ。しかし、ノックは止まず、眠りを阻害した。私は起き上がって、ベッドから降りた。その間、絶えず、誰かがドアを叩いていた。

 カチッ。私がドアに近づく前に、鍵を回す音がする。


 慌てて私は、扉の前に置いていた椅子ごと、強く蹴った。ドアノブが頻りに回るが、こちらが力をかけていることが分かると、「チッ」と聞こえる舌打ち。


 パタパタパタ。去っていく足音を耳にして、私は床に座り込んだ。

 

 なんだったんだ。

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