追放された元王女は、魔物の仲間を手に入れて幸せになる。~もちろん復讐もします~

机カブトムシ

第1話 アイビー・オーラス

「元第一王女アイビー・オーラス。お前は追放だ。それで済むだけありがたいと思え」




 私は明日この国から追放されることとなった。幸せを求めただけなのに。




 荷物をまとめながらいつ王女である私の歯車が狂ったかどうか、私は考え始めた。先に彼らを追放したのは私のはずだったのだ。




 三年前、私の父の指示によって魔王に対抗すべく異世界から三人の勇者の男が召喚された。どれもさえない顔の黒髪の男で、死者の復活と使役、鉱脈の探知、生物の治癒、という能力をそれぞれ持っていた。彼らは色々な異世界の知識を私たちに与えてくれた。写真やレコード、銃、電気、伝染病の治療法などだ。




 その中でも死者の復活の力を持っていた男が苦手だった。国の予算を使って色々なところを回る割には復活させるのは美人で非力な女ばかり。こんなことをしていたから女性からの反発が強くなったり、他二人からも予算の無駄遣いを指摘されたりして奴の居場所はなくなり、最終的には私が奴に追放を宣告し蘇生した女どもとまとめて追い出した。追放した直後は国は順調に回っていた。




 歯車が狂いだしたのは奴が国に復讐を始めてからだ。後からの予想でしかないが、奴によって蘇生された存在は魔王の邪気によって強化される。




 この世界で現状人間が発見している大陸は二つある。一つ目はこの世界の神によって祝福された人の住んでいる大陸。二つ目は魔王の邪気と魔物が蔓延し、人間が行動できるのは中心から離れているところのみの大陸。




 奴は何らかの方法で魔王の大陸に渡り、死体どもを強化したのだろう。神官によれば奴らの周りには常に邪気が漂っていたらしい。




 さらに最悪だったのが奴が復讐を始めたのが私達に味方してくれる二人の勇者が不在の時だったのだ。彼らに情報が届くころには私の国はなくなっていた。経った十数人にも満たない相手に無条件で降伏したのだ。




「おい、とっととしろ」




 過去を振り返っていると部屋の外から奴の手下の女に命令された。




「出発は明日ではないのですか?」




 私は恐る恐る聞き返す。




「変更になったからすぐに準備しろ」




 私は荷物を大きなカバンに雑に突っ込んだ。そして王城から引きずり出され、馬車に載せられた。


馬車は何事もなく魔王の大陸へと渡る船が出る船付き場についた。そこで魔王の大陸の調査に向かうガレオン船の最下層に載せられてすぐに船は出港した。




 航海は安定したものであるそうだが、私の心は深い絶望で満たされていた。私はきっと大陸に行ってすぐに死ぬだろう。私のどこに非があったんだ。どうすれば平和でいられたのだろうか。私だって努力してきたのに、おとぎ話や歴史の英雄に憧れて練習した魔法の力も奴らの持つ反則的な魔法の前では無意味だった。それに、国で私が手に入れた名誉もなくなった。私は無価値になってしまったのだ。考えるだけで涙が止まらない。




「ううっ……ああ」




 なんで私がこんな目に合わなければいけないんだ?どう考えても奴のせいじゃないか。そうだ、私にも復讐する権利があるはずなんだ。絶対に奴を殺して国を奪い返してやる。




 私の考えは船が魔王の大陸についても変わることはなかった。




 船が着いたのは辺境の村よりも規模の小さい前線基地だった。だが、追放されてから一番多い人の数だ。ここでなにか復讐をする方法を考えなければ……と考えていたがここにも奴の女がいた。




「ここで働くんですか?」




「違う」




 私はすぐに基地からも追い出された。




「私に死ねと?」




 追い出されてどうせ死ぬんだ。死ぬならより強い魔物に食われて死ぬために中心の魔王の城の近くまで行こう。王族は勇者の血を引いているから、私を食った魔物はきっと強くなる。そうすれば魔物が復讐してくれるだろう。




 考えながら黒い荒野を歩いていると人影が見えてきた。あれは誰だろうか、考える暇もなくそれは近づいてきた。近づくと見えてきたのはぼろをきた黒い髪の優れた容姿の女性だった。手には分厚い本を持っている。




「ああ……あなたこそ私の愛すべき魔王」




 その女性は私のことを魔王と呼んだ。気がふれているのか。




「混乱しているのですか?」




 きっと邪気にあてられたのだろう。




「私の名はズニア。私は混乱などしていません。私はアイビー様を迎えに来たのです。アイビー様は勇者によって殺された魔王の力を受け継ぎ、新たな魔王となるのです。そうすればアイビー様の復讐は遂げられます」




 頭のおかしくなった探索者かと思ったが私の目的を知っている。協力してやるべきか?




「アイビー様のように勇者の血を引いている者は邪気を受けないどころか吸収して力とします。なのでもっとも邪気の強い魔王城の中心へいき、強くなっていただきます」




 つまり彼女は復讐できるように私を強くしてくれるというのか。これは協力せざるを得ないか。




「では行きますよ」




 彼女は私を抱きかかえ走り出した。ただの馬車などよりはるかに速いことが私にもわかる。なぜなら彼女が走り始めて数分で魔王の城についたからだ。その間に魔物は一体も見なかった。




「速いですね」




「アイビー様もこのくらい強くなれるんですよ」




 女性が私に言った。




「そうですか……」




 復讐のためにここで力を手に入れるのか。




 そう思い見渡した魔王の城はボロボロで、どこからでも入れそうだった。




「ここに魔王の残した宝玉があります。これに手をかざしてください」




 そう言った彼女は私に宝玉を差し出した。私はそれに手をかざす。すると男性の声が聞こえてきた。




「後ろを見ろ」




 私が振り返ると城は綺麗になっていて、それに驚きズニアの方を振り返るとズニアと宝玉は消えていた。その代わりに禍々しい鎧を着込んだ何かが立っていた。




「資格を持つ者よ、貴様は魔王の力を持つ覚悟があるか?ないならばとっとと逃げ帰れ」




 どうやらこいつは勇者に殺された魔王らしい。覚悟なんてあるに決まっている。私は勇者に命以外の全てを奪われたのだ。




「あるに決まっている!」




 私は叫んだ。




「ならば、私の、魔王の力の一端を与えよう」




 魔王の周囲からどす黒いオーラが放たれ、私にまとわりついてきた。その黒いオーラは私の体の中に入り込んでくる。全てが私の中に入り込んだ後、瞬きをすると景色は天井を見上げていた。なんかふかふかしてる私はベッドで寝ているらしい。体を起こすとズニアが本を持ってベッドの隣にいすを置いて座っている。私はズニアの方を向いた。




「その様子では先代の力を受け取ったようですね。アイビー様、いや……私の魔王」




 呼び方が変わった。




「私の魔王よ、聞いてほしい話があります」




 ズニアが私に話をし始めた。




「これは我々の歴史です。あなたや私がが生まれるよりもはるか前、我々は高い技術力と兵力を持っていたので、今の人間の大陸の周りに基地を作りました。当時の人間はまだ大陸全体を支配しておらず、我々ともまだ接触していませんでした。そして我々と人間が接触した時、人間は我々に攻撃してきました。彼らにとって大陸は大切なものだったのです。「神が我々に与えた土地を奪おうとしたのだから当然だ」というのが人間の意見でした。どんな理由であれ、戦いが起き、多くの血が流れたくさんの人が死に、たくさんの理由で両者に英雄と呼ばれるものが出てきました。最終的に人類が先により強い魔法を開発したことにより、我々は敗走しました。あなた方の歴史に伝わる英雄も多くはその時生まれました。そして……」




「待って」




 私の知っている歴史と違っているところが多々ある訳ではないが、言い方に違和感がある。




「何だか人類や神への言い方に悪意を感じます」




「敵対している国同士の歴史なんてそんなものですよ。あと敬語は使っていただかなくてもいいですよ。私の魔王」




「わかった」




「話を再開しますね。魔法が得意なのは女性が多く、男性は主に兵站の役割であったために、今でも英雄などとされるのはどちらの国でも女性が多いです。当時、人間は我々に比べて技術力が低く、後世に英雄などの姿は伝わっていませんでした。しかし、我々の国では英雄の姿は文献や絵が残っており、それが我々の敗因になったのです。なぜなら……」




 ズニアの声を遮るようにして背後で爆発音が響く。振り返ると城の壁は崩壊しており、そこには金髪で背が高く麗しい女性がいた。私はズニアの方に降りて女性の方を向いた。




「あなたは確か前線基地にいた……かな?」




 正直、基地で見かけたかどうかすら怪しいが、それは今大きな問題ではない。今問題なのは、ここまで来れるということはあの勇者の仲間だろうと思われることだ。




「ずっと王城に引きこもっていたあなたは知らないでしょうから自己紹介してあげましょう。私の名前はグレナティアー。勇者様の第三の部下にしてあなたが生まれる前くらいの戦いで活躍した英雄。後ろの女の子は歴史のお勉強で知っているかしら?」




 グレナティアーが話し終わったころには、私の後ろにいたズニアはひどく怯えた表情で震えていた。




「あ……あなたみたいな勇者に操られた人形を……過去の英雄とは認めない……」




 ズニアは怯えた口調で必死に言葉を紡ぐ。




 もしかして勇者が死者の操作と復活で集めていたのは私のだった国の方の大陸で没した英雄達……?死んだあとの魔法を使う力を取り戻す方法が邪気を吸収することだけだったとしたら追放した時弱かったことも説明がつく。何より、ズニアが何を説明しようとしたのかも、なぜ英雄の姿が文献や絵で残っていたのが敗因なのかも理解できる。




「あなたに認められなくても私は私なのよ」




 そう言うとグレナティアーは自身の周囲に光弾を発生させた。




「私たちと戦う気?」




「あなた達を殺す気」




「私の受け継いだ魔王の力の力の練習台になってもらうね」




「言ってくれるじゃない」




 少しの会話の後、グレナティアーは周囲の光弾を放ってきた。私は黒いオーラを手から放ち、それらが私たちに届く前に爆散させた。ベッドも吹っ飛んだ。そのまま黒いオーラをグレナティアーに向かって放ち、彼女を城の外へ吹き飛ばした。




「これは引き際ね」




 そう言って自身の足元に光を展開し、魔法で逃げようとしたグレナティアーに向かってズニアが槍を持って走り出し、背中に突き刺し、押し倒した。致命傷にはなっていないらしく、グレナティアーは自身の周りに光弾を放ち、暴れた。




「あの世に帰れ! この偽物が!」




 ズニアが何度も何度も恨み言を投げつけながらグレナティアーに槍を突き刺す。グレナティアーの体から血は流れないが、見ていて痛々しい。やがて穴の開いた体は槍に反応すらしなくなり、ズニアに蹴り飛ばされた。蹴り飛ばしたズニアは何事もなかったかのようにこちらに歩いてきて、私に頭を下げた。




「申し訳ありません。私の魔王様。取り乱してしまいました」




 そう言って謝ったズニアはまだ怒っているように見える。




「大丈夫。ゆっくりでいいから何があったか話してくれない?」




 私の唯一の信頼できる人? なんだ。こんな不安定にさせておけない。




「あの勇者に蘇らされた人達は過去の戦いで散った偉人達なのです。同族を守って散っていった英雄が甦り、自分たちに襲い掛かってくる。そんな状況での戦いで、兵士は機能しなくなりました」




 ズニアは言いながら涙目になっている。




 グレナティアーにズニアは憧れていたのだろう。だから怯えていたし、怒っていたんだ。私も自分が憧れた偉人に殺されそうになったとしたらああなってしまうだろう。




 私はズニアを抱きしめて、地べたに座り込んだ。




「大丈夫。これからはあなたを絶対に守る。だから泣かないで」




 ズニアの耳に囁いた。私はまだ復讐心や魔王の力に囚われきっていないのかもしれない。だから目の前で泣いている人を放っておけないのだ。彼女の体のぬくもりを感じていると復讐を放棄して彼女と逃げたいとも思えてくる。




「わかりました。とりあえず夕飯にしましょう」




 ズニアは立ち上がって私に言った。まだ昼前じゃないか?




「もうそんな時間?」




「あなたはしばらく眠っていたのですよ。私の魔王。ほら、もう太陽が夕日になっているし月も昇って


います」




「ほんとだ……」




 空を少し眺めて、私はズニアについていった。




「すぐに作ってしまいますので、待っていてください」




 そう言ってズニアは一つずつ机と椅子を持ってきて置いた。一つ足りないじゃないか。私は部屋の中から椅子を探してドアの近くへ置き、それに座った。




「すいません、ありあわせのものしかないのですが……」




 部屋から出ていくときズニアはそう言ったが、気にはならない。




「食べられるだけでありがたいから大丈夫」




「はい」




 数分後、ズニアは二枚のトーストを皿にのせて部屋に入ってきた。




「どうぞ。私の魔王」




 そう言ってズニアは私の前にお皿を置き、部屋から出ていこうとする。




「まって、一緒に食べよう」




 ズニアを引き留めた。




「私はしばらく食事をしなくても平気ですので」




 食べない気だったんだ。




「それでも一緒に食べる方がおいしいよ。はい」




 トーストを一枚ズニアに渡す。




「そうですか。では頂きます」




 ズニアが椅子に座って食べ始めたことを確認して私も食べ始めた。家族以外の誰かと一緒にご飯を食べるのはいつぶりだろうか。考えながら食べているとすぐにズニアは食べ終わってしまった。私も急いで食べてしまった。




「もう先に体を拭いて眠ってしまっていいですよ。この城には地下に余っている部屋が多くありますから。そこに階段があります。どうぞ」




 ズニアはそう言い、私に桶とタオルと寝間着を渡してきた。私は素直に受け取り、ズニアに言われた通りに階段を降りて体を拭いて着替えて寝た。




 そこからの生活は少しの間平穏だった。朝起きて、服を着換え、ズニアに料理を教えてもらいながら朝食を作って食べる。昼まで荒れ地となった畑を耕すなり周囲に使えるものや生きた者が残っているか探す。帰ってから昼食を食べた後宝玉から魔王の力を取り込み、しばらく眠って、夕食を食べて朝まで眠る。そんな生活がここに来て二日目にまいた種が赤い根菜になるまでの間続いた。初めて宝玉から力をもらった時のあれは同じ映像が流れるだけだと分かったり、少しだが発見があった。




 それを終わらせたのはある日の午前中、ここへ勇者の一人がやってきたことだった。鉱脈を発見することができる能力を持った異世界の勇者、イサカ・スイ。




「ここから逃げてくれないか。このままでは君たちは殺されてしまう」




 彼の私たちへの最初の言葉はこれだった。




「なぜ、我々の国を滅ぼした勇者の仲間が私たちの身を案じるんですか。裏があるように感じます」




 ズニアがイサカを突っぱねようとする。




「俺はもう奴らの仲間じゃ……」




 イサカにズニアが詰め寄った。




「誰がそんなことを信じると思いますか?」




「待って!」




 私は二人の間に入った。




「話を聞いてからのほうがいいんじゃない?」




「それもそうですね。私の魔王。……やっぱり持ち物の検査だけさせてください」




 ズニアがイサカの所持品を調べる。




「何もないですね。一応そのロケットの中も見せてください」




 イサカの付けているロケットペンダントをズニアが取ろうとする。




「待って。これだけは……」




 イサカの抵抗も虚しくロケットペンダントは鎖から外され、ズニアは中身を覗き見た。




「なるほど」




 そう呟いてズニアはイサカの股間に蹴りを入れた。イサカが膝から崩れ落ちる。




「な……なんで、あっもしかして君……」




 ズニアはイサカを踏みつけて言葉を止めさせた。




「黙って。説明しなさい」




「俺は奴らから君たちを逃がしたい。それは本当だ。もうじき追っ手はここへやってくる。それを伝えるために俺はここに……」




 ズニアがイサカの顔をぐりぐりと踏む。




「なぜ、あなたが私たちを助けようとしているかが聞きたいんですよ」




「俺はこの世界に来て右も左もわからないときにアイビー様にいろいろ教えて貰った。だから恩返しがしたいんだ。それがアイビー様を助けようとする理由。そして君がいなくなればアイビー様が悲しむと思う。それが君を守る理由だ」




 言いきったイサカをズニアは蹴り飛ばした。




「本当ですか? 私の魔王」




 本当だ。そもそも死者蘇生の勇者以外は国のために必死になって頑張ってくれていた。それに、イサカは私を撮ってくれたり、見たこともないような宝石を加工して誕生日にアクセサリとしてプレゼントしてくれたこともあった。贔屓するのも当然だ。




「本当だよ。だから、優しくしてあげて」




「わかりました。大丈夫ですか?」




 ズニアはイサカをもう一度蹴った後手を差し伸べた。これわたしがもっと早く止めた方がよかったな。




「大丈夫だ。それよりも早くここから逃げてくれ」




 そう言ったイサカの目は紫色に光った。




「俺は食い止めにいく」




 イサカは背中から翅を生やし、西へと飛んで行った。そして、周囲に根のようなものを伸ばして球体を作り、それから六本の肢が伸びて巨大な昆虫のようになって遠くの地面に落下した。私たちは手をつないで走り出した。逃げ出す私たちの後ろから爆発音のようなものが聞こえるようになる。私達は大陸の端の町の廃墟まで逃げてきた。これ以上進むと崖だ。少しここに隠れていよう。




「少し休もう」




「はい。私のまお……」




 言いかけたズニアの体を、飛んできた巨大な虫の肢が貫いた。倒れたズニアの胸に突き刺さっていたのはイサカの変身した虫の肢のようだった。反射的に後ろを向くと、そこにはあの憎い勇者と、その取り巻きの女がいた。周りにはイサカだったものが転がっている。二人の命が失われたことを私の目は認識した。




「あ……」




 私は言葉を失った。




「ごめんなさいね、これ彼が大切にしてたみたいだから。あなたに渡しとくわ」




 取り巻きの女の一人が、蓋の取れたロケットペンダントを私の足元に放り投げた。そこには、白黒の私の写真が入っていた。彼も私のことを大切にしてくれていたのか。それを……。




「どうせ死ぬんだから関係ないさ」




 そう言った勇者が手を振ると、周りの何もない所から体の周りに魔法陣を浮かべた女どもが現れた。そいつらは私に向かって光弾や火球を次々と放ってくる。


 邪魔だ。


 私は手を振った。私の手から楔のようなのようなものが放たれて光弾などを貫き、そのまま女どもの体に刺さった。刺さった場所は黒く変色して腐り落ちる。


 続いて勇者の周りにも楔を放つ。勇者は周りの女を盾にして防いだ。カスが。だがもう盾はない。




「死ね」




 私はの方向に勇者に手伸ばし、楔を打ち込もうとした。楔は出なかった。




「弾切れみたいだな」




 体から力が抜けていく。意識がはっきりとしていながら、体の自由を失う。目の前で勇者が剣を抜いて私へと歩いてくるも。何の抵抗もできない。




「俺の傀儡になれ!」




 勇者が剣を振り下ろす。私は目をつぶった。




 カンッと音がした。目を開けるとズニアが変貌した腕で勇者の剣を受け止めている。




「人のあなたにはこの姿は見せたくなかったです」




 その言葉とともにズニアの体はオケラの魔物に変貌した。ズニアは勇者を殴りつけ、吹き飛ばす。吹き飛ばされた勇者の体はイサカの散らばった肢に突き刺さった。それでもなお勇者はもがいている。




「大丈夫……ではないようですね」




 ズニアが人に戻り、私をおぶった。




「あなたも、その下手な芝居を辞めたらどうです?そんなに都合よく死体があるわけではないでしょう」




 どういうこと?




「俺としては本当に死にかけていたんだけどな」




 イサカのかけらが集まり、昆虫のような形になる。肢が二本足りない。




「脆弱ですね。よっと」




 ズニアは体に刺さっていた肢を抜き、イサカに投げた。肢はイサカにくっついて、イサカの肢は五本になった。




「おまえら……殺して……や……」




 勇者はつぶれた声で悪態をつきながら息絶えた。イサカはそれに近づき、自分の足を回収して、人間に戻った。




「これで、君たちは平和に暮らせるな。俺は帰から。またな」




 そう言ったイサカは帰ろうとした。戻れば城は広いんだから一緒に暮らせばいいのに。それに自意識過剰みたいだけどきっとイサカは私のこと……。私はズニアの背中から降りて、イサカの方へと歩いた。




「ねえ、私たちと一緒に暮らさない?」




「断る。君は彼女の勇気が出るまで二人で暮らすべきだ」




 イサカは一度ズニアの方を向いてから走り出した。もしかして……?




「聞かなかったことにしてください」




 ズニアは顔を赤くしている。




 これで復讐は終わりで、あの城に来た時のような幸せな生活が待っているのか。そんなことを考えるとなんだか力が抜けて眠くなってくる。私はそのまま倒れ込んだ。




「おはようございます」




 目を覚ますと私はベッドの上にいた。しかしズニアの声がやたらと近い。右を見るとズニアがいた。勇気出まくりじゃないの。




「あなたそんなに積極的だった?」




「なろうと思いまして」




 それから私は幸せになった。復讐は成就し、大切な人が出来た。魔物の生き残りが少しずつ集まって町を作り始めて、二人きりではなくなった。


 私達は町の小さな家に住む夫婦……?婦婦?となった。またあの勇者のような存在が現れるかもしれない。これはつかの間の幸せに過ぎないのかもしれない。


 それでも私はこの生活を謳歌する。




 ここで私のペンは止まった。ここからは未来の話だからだ。




「もうご飯だよ」




 部屋の外からズニアの声がする。




「はーい」




 私は扉を開けて書斎を出る。




「何をやっていたの?」




「私の伝記を作っていたの」




 私達は食卓についた。




「伝記にしては薄くない?」




「あなたがあの二十日の間にやっていたことを入れれば厚くなるかしら?」




「どうやって私がやったことを知ったの!?」




「昨日酔った勢いで教えてくれたじゃない。愛のないメイドみたいな雰囲気でいたくせにあんなことやこんなことを……」




「私はどこまで口走ったの!?」




「どうだったっけなー」




 大きな事件もなく、ズニアと愛し合って平和に暮らす。時々もといた国のことをイサカが伝えにくる。そんな生活の繰り返し。これでも私は幸せだ。

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追放された元王女は、魔物の仲間を手に入れて幸せになる。~もちろん復讐もします~ 机カブトムシ @deskbeetle

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