第33話 刹那な願いと想いはいつしか愛と言う感情を生み出した。それが禁断の愛というものであることを知りながら ACT1
「こえぇよう! うわっ、幅寄せしてくんなよ」
とは言えどもこの車、異常に目立つことは言うまでもない。
普通はさ、こんな高級車になんか近づかねぇんだよ。ぶつけたらそりゃ
この車に傷なんかつけたら俺弁償なんて出来ねぇし……尚ねぇさん、俺の人生賭けて償いな。なんて言ってたけど。あれ、ぜってぇい……マジ! だよな。
信号待ちで隣の車線に止まる車の内部から、異常に熱い視線を感じるけど?
いやいや、俺そんな気なんて毛頭ない。
歩行者用の青信号が点滅し始めた。隣の車からはグォングォンと高鳴る排気音が車内まで伝わる。
だ、だから。その気なんてねぇて。
パッと、信号が青に変わった瞬間、自分ではほんの軽くアクセルを踏み込んだつもりのはずが、はるか後方に隣にいた車がサイドミラーに移り込んでいた。
いやいや、俺じゃねぇ。この車。この車の性能がそうさせたんだ……信じてくれぇ!!
マジやべぇ。ほんとやべぇ。
その時、額からたらりと流れる汗の感覚を感じながら俺は思った。
なんで俺は――――。秋穂のところに向かっているのかと。
秋穂。彼奴の為なのか? そしてその隣に浮き上がる可愛らしい顔をひょっこりと俺に見せる彼女。そう優奈だ。
どうして俺は優奈のことまでも、この脳裏に浮かびあげさせているんだ。
優奈は子供だ、俺とは10歳も年が離れているじゃないか。
高校生だぞ。そして俺。一応社会人……大人? かなり難がある大人だろうけど。
でもなんだろうこの胸の高鳴りと言うか、ぐっと、何か胸の中を熱い手のようなもので締め付けられているようなこの苦しさ。
おかしい。秋穂のことを思えば、ドキドキとした胸が高鳴り。優奈のことを思えば、胸が締め付けられていく。
俺はいったいどうなってんだ。
ただ一つだけ言える事。
それは――――苦しいって言うことだけなんだ。
その苦しさが、俺をあの二人のところに導いているかのような気がしている。
おのずとアクセルペダルを踏みこみ、首都高にあがると。
珍しくすいているロードをカッとばしていた。
得体のしれない胸騒ぎと、この胸の苦しさ。
無事でいてくれよ。そう願う俺がいる。
もう少しだ。もう少しで……お前らのところに。
うつむき何も発しない秋穂。邪神陰がとりついた優奈がにやりと笑う。
「秋穂よ。そなたはまだ学生であったころ、ひそかに想う
「それは……。今更そんなことを聞くの? あなたは」
「もうよいのではないか、秋穂よ。そなたの役目はもう終えたのじゃ。自分が赴くままに生きてもよいのじゃぞ」
『何? どういうことなの? 秋穂お母さんはお父さんのことを愛してはいなかったていうことなの。お父さんと結婚した時、本当は好きな人がいたの?』
『動揺するでない優奈よ。すべてはそなたの為なのじゃ』
『私の為? ……どういう事』
『我と優奈とのこの会話、秋穂。おぬしは聞こえておるんじゃろ。我の声が聞こえておるのじゃから。ずっと昔から。おぬしが物心ついたころから。そうじゃろ、よう我と話しておったではないか』
思念の会話。
私は幼いころから不思議とこの邪神陰の神と会話が出来ていた。それが当たり前であると、特殊的なことである感覚は持っておらず、この
むろんこの思念の会話は、私とこの神との間にしかやり取りは出来ない。今、この場にいる人たちには聞かれようも無い。
『やはり秋穂よ。そなたとはこのように会話するのが一番良いのぉ。誰にも気を遣わず、誰にも聞かれず。そなたの想いに一番触れることが出来るからの』
言葉では伝わらない私のこの感情や、その想いの重さまでもが伝わる会話。
想いの重さ。これをどう説明したらよいのかは私には分からない。
実際に想いと言うものには視覚出来る形もない。
あの頃の思い出が一瞬私の中でふんわりと浮かび上がる。
学生と言われることをしていた自分。それと同じく、私はこの神殿神社の巫女でもあった。
宮下家との関りは神主であるお父さんから聞いていた。
この神社の一角にひっそりとたたずむ裏社。そこに祭られている邪神陰を崇めていることを。どうして宮下家が、あの邪神陰を崇めているのかというところまでは聞かされてはいなかったけど、宮下の家の人は欠かさず、この裏社に祭られている邪神陰と呼ばれる神への参拝を怠ることはなかった。
だからこそ、
まだ幼い小さな子。優奈との出会いも
そんな時偶然にも私は聞いてしまった。
財閥でもある宮下家の当時の党首
彼の姿はその話を聞くまでそれほど気にもとめてはいなかったが、会うたびに彼から感じる生命と言う根源。人が宿す生きるという力がそぎ取られていく様を感じずにはいられなかった。
優奈の母親は、彼女が生まれてすぐに他界していた。
だから優奈にとって、自分の産みの母親の事。その記憶と愛情はなきものだった。
その影響からかもしれない。優奈は私を姉……いや、姉妹と言うよりは、親子。母親のような感覚で甘えてきているのを感じていたのは確かだ。
この愛くるしい優奈の姿を目にしながら、この子は二親とも亡くしてしまう運命を背負わなければいけないのかと。優奈のこの小さな心の中に大きな傷をうつけてしまうのがとても悲しかった。
この事を私は邪神陰に打ち明けたが、その神は『それはあの者たちの定めだ』としか返してくれなかった。
だが、その言葉は私にある疑問を投げかけた。
どうして宮下家の人たちは、この裏社に祭られている邪神陰。いわば陰の神をまつるのかと。
普通は、本殿に祭られている陽の神アマテラスを崇め信仰するのが一般的なのに。
この神社に保管されている古い書物、家系図、など、私が理解できるところを暫定的にではあったけど、調べつくした。
そしてたどり着いたのが……邪神陰と、宮下家との関りであると共に、あの宮下家と言う家族は大きな誤解をこの永き時の流れの中で変化させていたことに。
邪神陰の神。
表には出ず、この裏社でひっそりとたたずみ、この世の不の条理を見つめていく神。
ひとえに邪神と言えば、災いや災害、病などと言った、不浄の理への関与を連想させられるだろう。
その神が存在しえることにより、その不浄理と言う疫災は起こりうるのではないのかと。
だからこそ、その神が目覚め覚醒せぬように封じ込め、この世に疫災を起こさぬように祭る。
しかしそれは否。
邪神陰の存在は、不浄の理を浄化させてくれるいわば、厄災の神ではなく浄化の神であったのだ。
そのことを邪神陰に問うと。
神は笑い私にこう返した。
「秋穂よ。ようやくそなたと分かり合える日が来るとは思わなんだ。その通り、我は浄化の役をつかさどる神と今はなる。元は我もアマテラスに仕える
その時私は初めて、この邪心の神として祭られているであろう、邪神陰と言う神に、温かさを感じた。
「我が今も尚神と言う存在で、この世に留まることが出来ておるのはあのおなごの願いを聞き入れたからじゃ。それからと言うもの、我は
それが宮下家のことであることは私はすぐに分かった。
だからこそ、その怨念とも呼ばれる闇の力を抑制するために、宮下家はこの邪神陰を祭っているのだと。
「ところで秋穂よ。そなた、今ある男を好いておるのではないか?」
「な、なによいきなり!」
正直に言うけど、私あの時直登君のことがものすごく気になっていたんだよねぇ。
でもさ、当の本人はなんだろうそんな気なんて毛頭ないような感じでさぁ。女、女性と言う存在自体になんか興味ももっていなかったような感じさえしていたんだ。でもさ、それでも気になって仕方がなかったのは本当なんだよ。
そんな私を見かねた友達が直登君にちょっとだけ後押ししてくれたんだけど、直登君それにも無反応だっただなんてショックだったなぁ。
なぁんてもう昔のことだよね。
そんな時だった。
優奈にもその変化は目に見てわかるほどだった。
優奈にとって、唯一の親である
「ねぇ、秋穂おねぇちゃん。優奈のお母さんになってくれない?」
あの時あの一言が優奈から出た言葉が私の運命と人生を大きく変えた。そして邪神陰から告げられたあの宮下家に関する事態。
「あの娘……。あの娘には今のあの家系の不条理を受け継ぐだけの生命力はない」……と。
あの宮下家から離れたのだ。私の持つ巫女として、私が薄々感じ始めていた。人とは違う霊力を持つものとしての加護を通じ。
優奈を守りたかったからだ。
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