第32話 少女の小さな魂のかけら。呪縛は解き放たれ今ここに覚醒する。ACT7
なんで俺の胸のドキドキが収まらねぇんだ。いったいどうしちまったんだ。
秋穂の身に何かが起こっている。
気になる。でもどうしてこんなにも秋穂のことが気になるんだ。
ただのクラスメイト……元。
俺と秋穂の関係はそれだけ。付き合っていたとかそう言うんじゃねぇ。正直、意識していなかったといえば、それは嘘になるのかもしれないけど。
唯一気兼ねなく会話が出来ていた女子。
でもどうして、秋穂だけが。俺にとってそう言う存在になっていたんだろうか。
秋穂の実家でもある
巫女装束をまとった秋穂のあの姿を一目、目に入れることで、その年1年が安泰に過ごせそうな気がしていた。
自分では意識していないつもり。でもそれは俺が無知なだけだったんだろう。
秋穂はいつも俺には気がねなく話しかけてくれた。その想いをなぜあの頃素直な気持ちで、もっとつっこまなかったんだろうか。
馬鹿だよなぁ。俺ってほんと馬鹿じゃねぇのか。
「なぁ尚ねぇさん。そんなに切羽詰まったと言うか緊迫した感じだったの?」
「うーーーーーん。本当に私にはよくわからなかったんだけど、ただねぇ、秋穂ちゃんのお父さんがいきなりうちのこの敷地の中に車つっこませて、降りてきたかと思ったら私の腕をつかんで有無を言わさず、車にのせようとしたの。いきなりだったからちょっと怖かったけど。まぁ我を失っていたっていた言うのが妥当かな秋穂ちゃんのお父さん」
あはははは。それは確かに恐怖を感じるかもしれない。あの神社。秋穂のお父さんである神主さん、すげぇすごみのある顔してるもんなぁ。
そう言えば前に、殴り合ってけんかしていた奴らをただにらんだだけで、治めていたところを偶然に見たけど、あれは迫力あったなぁ。秋穂、お前父親に似なくてほんとよかったな。
なんて考えている場合じゃない。
本当になんか胸騒ぎがしてどうしようも無いんだ。
「ごめん。俺、秋穂のところに行ってくる」
「へぇ、やっぱり気になるんだぁ直登君」
ニタァーとしながら尚ねぇさんが言い寄ってくる。いやいや絡んできそうなんだこれがまた。酒癖わりーからなぁ。
「先輩! その秋穂さんていう人。先輩は好きなんですね」
おいおい、七瀬お前は目が座っている。此奴ら完全に酔っているぞ。て、言うのはもう承知先般。
「はいはいもうなんとでも言ってくださいな。先輩の好きにすればいいですよ。私達はここで、二人で飲み明かしていますから」そう言いながら、七瀬は冷蔵を開け「ああああ、もうビール無いじゃないですかぁ。どうします尚さん?」
「ええ、もうないのぉ、じゃぁ買いに行くかぁ」
「そうしましょう! わぁい尚さんとお買い物だぁ!」
ああ七瀬お前、補導されねぇようにな。どう見たって未成年が泥酔している感じにしか見ねぇぞ」
「そうだ、
おお、ありがたい。さすがは尚ねぇさんだ。ありがたく使わせて……ちょっと待てよ。尚ねぇさんの車ってあの……ガレージにあるすっげぇ――――――スポーツカーじゃねぇか。
あれってすげぇ高けぇていうか、俺見てぇな一般庶民なんか手が出ねぇような車じゃねぇのか! もし傷でもつけたら……。
身震いがした。
「で、でも、尚ねぇさん、俺自信ないっすよ。傷でもつけたら弁償できないですよ」
「んっふふん。そうなったらそうなったで直登君。あなたの人生を代償に償ってもらうから」
あっ、や、やべぇ……けど、背には変えられない。
「すみません。お借りします」
腹黒尚ねぇさんは、こことばかり本領発揮!
「うんうん。全損してきてもいいよぉ!!」
その言葉がはなれないまま、俺は恐怖と言う冷や汗と共に車を発進させた。おお、さすが高級車、こんなの乗った事いや運転したことなんかねぇぞ。感動しながらも向かう先、秋穂の実家である
そのころ、秋穂の実家である
それは宮下家にまつわる、呪いとでもいうべく不運の始まりの話である。
あれだけ激しく振り出した雨はいつしか止んでいた。
優奈にとりついた邪神陰は語る。はるか遠き昔話を。
◆ 刹那な願いと想いはいつしか愛と言う感情を生み出した。それが禁断の愛というものであることを知りながら ACT0
殺戮と戦火が繰り広げられていたあの時代。人の心は殺意と失望、いつ己に降りかかるやもしれない死という名の恐怖との隣接。
戦場に赴く兵士にはすでに生きる未来と言うものは、存在しえない時代であった。
あの頃の我は邪神の念を糧として、かろうじてその神と言う存在である名を維持していたにすぎん存在であった。
元は人々の未来への幸を願い、幸福を成就する生業を意図とした神であったはず。じゃが、人々から押し寄せるその不浄の思念を浄化しきれず、己自らが、邪神の念を抱く神と変貌していったのだ。
その代償として、われの社は朽ちはて、人々の思念から消え失せた神となり果てた。
これでもアマテラスにまつわる陽の神であった我だが、あの朽ち果てた社に訪れる者はおらず、我を崇める者も誰一人おらなくなったその状態で、我に押し寄せる陰の影とその思念が我を闇へと引きずり込んでいく。
社が朽ち果てれば、その神の存在は無意味なものとなり、その存在は消え失せる。これが神の死ばかりとなる。
とはいえ、神に命と言う魂は存在しえん。ただ、その世から消え失せるだけ。何もなく朝もやが陽の光で消え失せるがごとく消滅するだけ。
その時期を我は迎えようとしていた。
じゃがそんな我の社に、ある若いおなごが語り掛けてきたのじゃ。
この朽ち果てた社に、まだ神と名乗れる者はおるのかと。
そしてそのおなごは我にこう述べた。
「まだ神と名乗るものがおるのなら、我がこの心に秘めた想いを成就してたもう」と。
世の人から声を投げかけられたのは本当に久々の事であった。じゃが我の思念は陰へと変貌しており、そのおなごがたぶん、欲する望みをかなえてやるだけの力は無きにも一つ。
人の欲する望みは、ほとんどが幸へと導く願い。陰にこもるこの邪心を我は授けることしか出来ぬ邪神の神と化しておった。
しかし、そのおなごはこう我に言う「我がこの人道に背く想いを成就してほしく願い奉ると。もし、我のこの願いを成就してくれるのならば、この朽ちた社を再建してしんぜよう」
我も切羽詰まった状態であったがゆえに、そのおなごの願いを聞き受けようと真贋を開き、そのおなごの心の内を受け入れた。
そのおなごの願いとは。
「我が、兄上の子をこの身に宿すことを成就してほしい」
戦乱のさなか、そのおなごの兄たるものは、もう時期戦場へと先陣を切り赴くとの事。勝ち目はないも等しいその戦に、自らのその命をお家のためにささげなければならかった。
幼き頃より仲の良い兄と妹。
じゃが、妹の想う意は、兄妹としての関係以上に刹那な想いであった。
人知れず、兄上にもそのおなごの想いを悟られぬように、あのおなごの身に宿す命を授けよというのだ。
その願いとそのおなごの想いは、決して陽。表にはばかることはない。出来ぬ想いである。
だからこそ、その邪心を我に成就してほしいというのじゃ。
もうじき朽ち果て、消え失せるこの我が思念の最後の神としての仕儒に、我は答え、そのおなごの願いをかなえた。
じゃが、それが良きことであったのか、または邪神にとらわれし我の思念が影響し、この現世に影響を及ぼす不の理であったのかは我もそれはわからん。
邪神の念を物色するのではなく邪神の神として、邪そのものを糧とす邪神陰として。
大きなる野望をうち秘めたる者のその思念を大成するがごとく。
その思念と言う力はあのおなごが宿した子へと神髄していた。
世には決して出てはならぬ存在として生まれしその子は、やがて、近親同士にて、子を宿し家系を見継いだ。源の裏家系として。
その裏家系から波及したのが宮下家であり、その血を色濃く代々繋げたのが、宮下家の現党首である
宮下家には我のこの血の流れを引き継ぎ、裏貴族として世の
だが、我の地脈はうぬらの生を糧とし、その生の力を膨大なまでに消費し尽きることにより死を迎えていた。これが宮下家にまつわる『短命成就の理』となり、いつしか呪いとまで言われることとなったのだ。
その呪いの呪縛を解き放つため、宮下家は近親での血族のつながりを解く手段をとるという行動に出た。しかし、その家系に関わる者たちへの遺伝子は引き継がれて行くことになる。
「ならば我々が今まで行ってきたことは、まったくの無意味であったとでも言うのですか」
党首
そうともいえるかもしれんのぉ。じゃが、我のこの力をまた取り込むことにより、その血脈の流れは変化するやもしれん。
この数百年の時の流れは、大きく変貌した。その変貌した流れの中で、我のこの思念を受け入れることにより、うぬらの未来は変わるやもしれん。
うぬらはまだ我のことを理解できてはおらぬようじゃからの。
そして優奈はゆっくりと秋穂の方に顔を向け、優しく問う。
なぁ秋穂よ。そなたはなぜ、自分の本心を押し込み、
邪神陰のその問いに秋穂はうつむき、沈黙をしばらくの間続けた。
「ひええええええっ!! やっぱこえぇよぉ。この車運転すんの」
ハンドルを握る手がもう汗でぬるぬるだ。
「なぁ直登よ。もうちっと急ぐことは出来ねぇのか? もう時期お前の将来が決まるやもしれない局面がおとずれようとしているんじゃがのぉ」
「うっせい天国のじじぃ、こっちは今必死なんだ」
「そうかそうか。じゃが一つだけ忠告しておくぞ。これから何が起きようとも、流されるんではない。お前がしたいようにお前自身がこれからこうありたいと思うことを素直に強く念じるのじゃ。そうすれば道は引かれるじゃろう」
――――たぶんじゃが。
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