第31話 少女の小さな魂のかけら。呪縛は解き放たれ今ここに覚醒する。ACT6

七瀬のこの勢いと言うべきなのか。俺に向けられるその真剣な視線に圧倒されている。


本当にお前、俺の事……その、そう言うふうに思ってくれていたんだ。

嬉しいという気持ちの反面、その七瀬の気持ちに今まで気が付かなかったこの俺のふがいなさをも感じつつも! あああ、なんだ、今まで女という生き物は2次元でしか俺には出会いがないと思っていたのが一気に取り巻かれている。


何時からだ?

まぁ、尚ねぇさんは別として……いやいや、もしかして尚ねぇさんと出会ってからか?


そこんところはなんか違うような気がするが……。でも今は七瀬にきちんと事のありさまを説明しないといけない。

たぶん、変なごまかしはきかないだろう。此奴は意外と勘が鋭い。


一度冷静に――――。まずは服を着ようか。


七瀬には俺のジャージを着させ、電気も来ているということは、洗濯機も動く。

七瀬の汚れた服を洗濯してと。

不思議とこうして、動いていると、幾分心が安らぐというか。落ち着く気がしてくる。

その間、尚ねぇさんと七瀬はテーブルをはさんで対面で座り、一言も声を出そうともしていない。

ああ俺、あの二人の間には戻りたくねぇ。一層このままこの脱衣所に籠城ろうじょうしていてぇ。

そう言う訳にもいかず、意を決して沈黙を保つというべきなのか、この沈黙が戦いの最中と言うべきなのか。そのさなかに突入した。


「なぁ、何か飲むか」と、冷蔵庫の中を見ると、フルーツ系の乳酸菌飲料……。優奈の好きなと言うかこれは優奈のだけど。それしかねぇ。いやいやそのほかは、缶ビールがゴロゴロ? なんで缶ビールがこんなにあるんだって、これ俺が買い置きしていたのじゃねぇな、秋穂か? 彼奴が飲みてぇから買っておいていたんだ。

優奈の分は手は付けねぇ方がいいよな。と、なればビールしかねぇし。こうなればコンビニにでも行ってくるか。


「……あのぉ俺、コンビニまでちょっと」

「逃げる気ですか?」一言鋭い釘をさす七瀬。

「いやいや、逃げるだなんて、飲み物なんもねぇていうか、ビールしかねぇんだよ」

「ビールでいいじゃないですか! 今日はもう仕事もないですからねぇ!」


七瀬、お前、ほんと今まで俺が持っていたイメージは何だったんだ。可愛い後輩がおやじ化しつつある。もうすでにれっきとしたおやじである。

で、である。この流れに逆らうことなく。気が付けば。尚ねぇさんと七瀬は酒盛り。それで俺は水道水でこの場をしのいでいた。ものすごく侘しい気持ちでいっぱいだ。だが。


ここで俺まで酒飲んでしまえば、取り返しのつかないところ以上の異世界極地まで転生させられそうな気配ありありだからだ。これ以上の重課はごめんこうむりたい。


しかし、今思う。酒の力は偉大だ。

もっとも酒が入れば尚ねぇさんも、かなり陽気になるタイプ。素面しらふだと、陰キャラオーラが漂う人だからなぁ。この人の素はかなりの陰キャ。だが、コスプレして自分から離脱すると、人格はまったくの別人と化す。まして酒が入るとなおさら別人となるのだ。


さっきまで、ボロボロだった尚ねぇさんはすでに復活している。とはいえ、支離滅裂状態ではないのが救いである。

そう言えば俺、七瀬と一緒に酒飲んだこと今まで無かったな。

此奴酒が入ればこんなにも陽気になるんだ。て、もうなんだぁ、あんなにいがみ合っていた二人、なんでこうも仲良く酒飲んで盛り上がってんだ。それもだ俺の事でだ!


「でぇ! そうなんですかぁ――! 先輩。一緒に住んでいるのは先輩の元クラスメイトなんですかぁ。――――んでぇ。女子高生もいるていう話じゃねぇだべか。ああああああ! そりゃな、見た目はオラもべっこばかし若く見られてるかもしれねぇども。女子高生には敵わねぇべぇ。こりゃぁまいったなぁ……。んで、先輩。その女子高生ともやったんだべか」


「あのぉ、七瀬さん。やったんだべかって。それはその……一緒に寝たかということなんでしょうか?」

ああああ! なんで俺が後輩の七瀬に敬語使わなきゃいけねぇんだよ。


「んだぁ、あだりめぇのこと聞くでねぇんだ! 子作りしたんだかどうだかていうのを聞いてんだべ」

「それって、ただ一緒に寝たかどうかということで……」


「はっ! あんなぁ先輩。まだそげな事信じてるんだか? 一応私もそれなりの知識はあんだべよ。ただ裸で寝ただけで、子供は出来ねぇべ。コウノトリは赤子は運んできてくれねぇ。もっとエグイことして気持ちいい事やって、子供って授かるもんだべよ。オラはまだやったことねぇんだけど。聞けばかなりええ感じの気持ちになるていうのは知ってるっべ。ほんと先輩はウブと言うか、オラよりもそう言うことに関しては無知なんだべなぁ」


「うんうん、そうなんよ七瀬ちゃん。直登君はもすごく、エッチなことには興味はあるんだけど、いざその極致に踏み込む勇気が無いんだよ。まるでのみ見たいに小さくなるんだよ」

「あらぁ、なんだべぇ。先輩のってそんなに小さかったんですかぁ。じゃぁ処女のオラでも安心して捧げられるっぺよ」


「七瀬ちゃん処女だったんだぁ」

「んだぁ、こういうことはちゃんと将来を決めた人とでねばやってはいけねぇて、ばあちゃんからきつく言われていたんだぁ。オラのかぁちゃんのように誰にでも簡単に股開くんじゃねぇて」


「あはははは。七瀬ちゃんのお母さん誰にでもおまた開いちゃうんだぁ」

「んだぁ。だから、オラの本当の父親はどこのだれかわかんねんだ……実際」

は、初めて聞いた七瀬の出生の秘話。そして此奴の実家のオープンさと言うべきか。じゃぁ、さっきまでのはすべて此奴の演技ということか? 俺ってうまくはめられていたんだ。


しらふの俺、結構むかついてきているのが、これはぐっと押し込んで我慢だ。

「しかしまぁ先輩も、ほんとに信じるとは思ってもいなかったぺ。裸でだきあっあだけで子供が出来るだなんて。しかもコウノトリが赤ちゃん授けてくれるだなんて……うしし、そりゃ、オラだってそんぐれいの事知ってるだよ」

ニタァーと俺の顔を見ながら笑う七瀬の顔が怖い。


七瀬はグビッと缶ビールをあおりながら。

「尚おねぇさんは、先輩と気持ちええこともうしてんだべ!」

尚ねぇさんも缶ビールをグビッと飲み込んで、どんと缶をテーブルにたたきつけるように置き。


「まだだ! 私はまだ何にもねぇんだよ此奴とは!! 私がどんなに色仕掛け仕掛けても、一向にこっちにたなびいてくれねぇんだよ!」

あのぉ尚ねぇさん、すでに目が座ってきているんだけど。酔いの域に達している。


「ほんとだべか先輩?」

「ない。そう言うことは一切ない」言い切った俺。


「んじゃァ一緒に暮しているクラスメイトさんとやってんだべ!」

「ない」(でも秋穂の生おっぱいは拝ませてもらった。……あれは事故だった。そう事故)


「ほほぉ、でもまさか……。女子高生と。まぁ今時の女子高生は進んでっから、あっても不思議じゃねぇべ。犯罪になりかねぇことだけど」

お前が言うか七瀬!

「だ、断じてない! 俺は今まで女とそう言うことは一切したことがねぇんだ!!」(優奈の生足を見て男の生理現象を抑え、隠そうとしていた事実はある。それにあの満員電車の中でちょっと。本当にちょっとだけど肌が触れた時の感触とその時、電車の中で俺の鼻に抜けた優奈の香りに今だ、妄想を膨らませているだなんて言えねぇけど)


「はぁ―? て、事は……童貞さんなんだべか?」

「――――そ、そうだよなんか悪いか」

「27にもなって童貞!」


「べ、別に27だからって童貞でいて何か罪にでもなるんかよ。そう言うのは、俺には無縁なんだよ。俺は2次元の女の子キャラしか愛せねぇ、オタクなんだ」

尚ねぇさんはがっくりとして。


「そうなのよ、そうなんだよ直登君は。それになんか秋穂ちゃん今大変な事になっているみたいなんだけど。まぁ、そう言う関係なら直登君には関係ないか」


――――ちょっと待て! 秋穂が大変って?


「尚ねぇさん。秋穂がどうしたんですか?」


「だからぁ――。秋穂ちゃんのお父さんが車で乗り付けてきて、なにやら騒いでいたわよ。でも知らなかったなぁ秋穂ちゃんがあの紫苑神社しおんじんじゃの神主さんの娘だったなんて。すっごいお嬢様なんじゃない。それにたぶん巫女もしていたんだと思うけどなぁ。秋穂ちゃんの巫女さん姿絶対に似合うだろうなぁ。じゅるるるる」

尚ねぇさんよだれ。よだれ。


紫苑神社しおんじんじゃ。そうだ、その神社はまさしく秋穂の実家だ。

「それで秋穂は?」

「ん――――。あんまし私もよくわかんないけど。神社ていうか秋穂ちゃん家に戻るみたいなこと言っていたけど」


なんか急に胸の鼓動がドキンドキンと高鳴る。途轍もなく嫌な予感が俺の頭の中を駆け巡った。


「そうじゃ、そうなんじゃよ直登。こんなことしている場合じゃないんだていうのを……あ、でもなんかこっちの会話も意外と楽しそうじゃのぉ。どうする? このまま、この二人と行くとこまで行くか? それとも――――。まぁ後悔せんようにな。決めるのはお前じゃ直登。快楽に溺れるかそれとも」



試練を受け入れるか―――。


それを決めるのはお前次第じゃ。




今年の夏はお前にとって、とても暑い。いや熱い夏になるじゃろうな。



うはははは。

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