第30話 少女の小さな魂のかけら。呪縛は解き放たれ今ここに覚醒する。ACT5

壊れる尚ねぇさん。疑いの眼を投げかけつつも、まだ自分はもう女になったと信じ切っている幼女……いや、七瀬、成人女性。


この修羅場をどう収集させるかと、足らりと冷汗を湧き出させながら、二人のこの重圧を一心に受けるこの俺。


ああああ! どうしたらいいんだいったい。


湧き出る汗をぬぐおうと、手元にあるあの血痕の付いた基、鼻血の付いたタオルで額から流れる汗を拭こうとした時。

「なんなのその血の付いたタオルは?」

尚ねぇさんはつかさずこのタオルの血痕を見逃さず、追及してくる。


「まさか……ああああああああ! うううううううううっ! 処女だったの! ああ、痛かったでしょう。そうだよね。中学生だもんまだだよねぇ。それを……。も、もう終わりだね直登君。ああ、さぁ私と一緒にこの罪を償いに出頭しましょう。この子は警察に保護してもいます」


そう言いながら尚ねぇさんはスマホを手にした。

まずい、このままでは110番通報されてしまう。


「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。これ、その、この血は俺の鼻血ですよ」

「鼻血?」

「そう鼻血です」

通報しようとする手がぴたりと止まる。


「うううううううううっ! 幼女にみだらな行為を、あまりにもの興奮で鼻血が出ていたのね。この変態ぶりはやっぱりエロゲのやりすぎなんだわ。はっ! もしかしてこれは私の監督不行き届きということになるんじゃないの。ああああ! そうであるならば、この罪は私も同罪。な、直登君あなたにだけこの罪を背負わすことは出来ないわ」


尚ねぇさんの目が泳いでいる。

たぶんあまりの怒りに我を失っているのかもしれない。じりじりと近づきながら茫然とした姿を目に入れるとかなり怖い。そして尚ねぇさんは言う。


「ねぇ、直登君。もうここまで来たら、もういいよね。ねぇねぇ……私と。――――死んで」


尚ねぇさんの手が俺の首へと伸びていく。

「うううううううううっわぁ!」と声は出るがその恐怖感は俺の体を硬直させた。

「さぁ、直登君死んで。……私もすぐに後を追うから、大丈夫よ。そうしたら、あの世で二人で一緒になりましょ。そうよ、一緒よ……いっ……しょ」


ああああ! 尚ねぇさんの手が俺の首に触れようとしたその時だった。

七瀬が思いっきり、尚ねぇさんの頭をこぶしで殴った。


「うったぐぅこの人は、おらの未来の旦那様になんてことしようとしてんだべ」


ゴン! とものすごい音がしたんだけど。そのまま俺の上に倒れ込んだ尚ねぇさん。ピクリとも動かねぇ。ま、まさか!

「尚ねぇさん……尚ねぇさん」

や、やばすぎる。まさしく修羅場じゃねぇのか。

殴った当の本人の七瀬は、以外にも平然な顔している。


「おい、七瀬、尚ねぇさん動かねぇぞ!」

「大丈夫ですよ、そんなに強く殴っていませんから。私、本気出すとコンクリートブロックくらい簡単に割れますんで」


マジ!


「うううううううううっ!」と俺の胸に顔をうずめるようにして尚ねぇさんは泣き出した。

「ほら、なんともないでしょ」

そっと尚ねぇさんは顔を上げ、涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔を俺に見せたながら。

「ごめんねぇ直登君」と一言いう。


「本当にもう。謝るのなら先輩じゃなくて私の方に謝ってくださいよ」

「へっ?」

「あのぉ、どなたか私は知りませんけど、私中学生じゃないです。もう大人なんですけど。大学卒業して先輩と同じ会社で働いています。22歳なんですけど」


「へっ?」


「それで、先輩とはどういうご関係なんですか? いきなり入ってきて勝手に騒いで、挙句の果てに先輩のクビ閉めて(一応未遂です)、死んではないでしょ。そ・れ・とも、もしかして先輩とお付き合いされているとでも言うんですか。ねぇ、せ・ん・ぱ・い」


ギロリと鋭い七瀬の視線が俺に注がれる。

今度は主導権が七瀬の方に移った感じだ。


「そう私は22歳大人の女。そして、先輩と一緒に肌を触れ合わせて、コウノトリさんが私達の子供を運んでくれるのを待つ女」

七瀬はベッドの上に立ち上がり、握りこぶしを天井に向けて宣言する。

ぱらりとかろうじて巻き付いていたバスタオルが七瀬の体から舞い落ち、あの豊満なおっぱいがあらわになるそして……あっ、下は履いていたんだとホッと、安どのため息を洩らす俺だった。


いやいやそこじゃねぇだろ。どうすんだよ、この状況。もう俺にはどうにも出来ねぇ。


げんなりとしていると。

「ごめんなさい……直登君」

ようやく冷静さを取り戻したのか、今までになくしおらしくなった尚ねぇさん。こんなにしおらしく従順な尚ねぇさんの姿を俺は今まで見たことがない。


「本当にごめんなさい」またもや尚ねぇは俺の体からはなれて、深々と頭を下げた。

「いや、そこまでしなくても……」

「ううん、全部私がいけなかったの。本当にごめんね。私帰るから」と。まだ涙を浮かべ立ち上がろうとする尚ねぇさんに七瀬は一声上げた。


「待ってください。私、あなたの事何も知らないんです、ちゃんと説明してもらわないと。それに……私達の事もちゃんと今のこの状態に至るまでのことを説明させてください。でないとなんか私の気持ちが収まりません」

おお! 七瀬、お前こんなにもはっきりと物事を言えたんだ

ていうか、なんか今まで俺が持っていた七瀬のイメージが次第に崩れ始めているような気がするんだけど。


ようやく冷静に話ができる状態になった思う。でもいつトリガーが引かれるかと、びくついている俺。

で、でもさ。俺なんでこんなにびくつかなきゃいけねぇんだ。

そこがいまいち理解が出来ねぇていうのが本音だ。


まぁなんと言うか。結果として誤解を生むこの状況に至ってしまったこと確かではあるが、七瀬は主導権をすでにがっちりと握り、尚ねぇさんに事の経緯を話し始めた。


「私が悪いといえば確かにそうですけど、でも私……先輩の事本気なんです。本気で先輩の事愛しています。この体を私は先輩にささげてもいいとさえ思っています。だから、今日……先輩に迫ったんです。覚悟したんです。それの何がいけないんですか? で、あなたは先輩のことをどう思っているんですか? 取り乱して、勝手に自分本位に先輩を苦しめようとしたんですよ。もし仮にあなたも先輩の事が好きなのなら。その気持ちをはっきりと伝えていたんですか? 私には何も先輩に伝わっていないように思えますけど」


「……は、その通りです。ごめんなさい。私深く反省しています。大家としても失格です」

もう、見るも形もなく精気を使い果たしたかのように、小さくボロボロに見えてなんか尚ねぇさんが可愛そうに見えてきた。


七瀬、そこまで言わなくても。と心の中では言葉が出ていたがそれを口にする勇気はなかった。そして七瀬は俺にもその威嚇した言葉を向け始めた。

「ところでせ・ん・ぱ・い。さっき大家さんから、女の人の名前が出てきたのが聞こえたんですけど。それも二人だったような。すでに同居しているって言うのが聞こえてきたんですよねぇ。それってどういう関係の人なんですか? この私にちゃんと説明してもらえませんか? ――――少し前から先輩のようすに変化が出て来ているのは私も感じていました。その事と同居しているお二人と関係がありそうに思えるんですけど」


「いや、えええええっとだな。そのぉ……」

な、なんだ! やっぱり矛先は俺の方に向けられるんだ!



「自業自得じゃないのか直登よ。わしゃぁ、温かい目でお前の事を空から見守っておるからのぉ」


爺さん。あんたも見ているだけかよ!!

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