第29話 少女の小さな魂のかけら。呪縛は解き放たれ今ここに覚醒する。ACT4
七瀬は俺にベッドの上で俺に抱き着き、そっと耳元で「幸せにしてください」とささやく。
いやいや、ちょっと待ってくれ。七瀬、お前なんか大きな何違いと言うかその……。俺はお前の事、後輩としか見ていねぇなんて言うことを、今この場で間違っても言えるわけがねぇ。
確かにこんな姿で一つのベッドで、肌を触れ合わせてしまったというのは事実ではあるのだが。
唯一の救いは七瀬がまだ妄想と言うか、その性的な肉体の交わり方について無知。無知すぎるほど天然であるということに救われているというのが俺の救い。
こうして、布団の中でお互い抱き合えば、コウノトリが赤ん坊を授けてくれる。
とてもメルヘンであるが、実際このような話をして信じてくれるのは幼女。基、幼稚園に通っていたころ。ある女の子が、お泊り保育の時に俺にそっと語ってくれたのをかすかに思い出す。
それをこの成人した女性。七瀬がかたくなに信じているというのも問題であるのではないか。
確かに七瀬は見た目は背が低いのも掛け合わさり、その顔つきも幼顔幼女。あの胸と、スーツを着ているからこそ、それなりの年齢何んだと、見られているのだろうが……。
て、俺ってそんなイメージで、七瀬のことを見ていたのか?
まぁでも仕方がない、見た目自体がそうなのだから。だからといって、此奴はとてつもなく才女でもある。出身の大学は、俺なんか到底足元にも及ばねぇ一流大学を卒業しているキャリアの持ち主でもあり(じゃぁなんでこんな裏ブラックな、中流会社に入社してんだよ!)、仕事も、教えたことは卒なくこなし、メキメキとその業績を伸ばしている。多分、後数年後にはこの俺なんかあっという今に追い越されちまうんじゃねぇかというくらい、機転の利く仕事もできる。そして、あの。自分では意識しては全くしていないというところが天然なんだろうが、その幼女のようなミスマッチな姿に社内でも意外と男性社員には人気と言うか、注目されているのも事実である。当然その分、俺への妬みもたまに注がれるているのも感じている。
新卒新人で人気もあり、社内上層部にも一目置かれているこの彼女が、実は大人との女性としてしての性的な。というべきなのか、男と女の大人の関係についてこれほどまで無知であったというのは意外だった。(つまりは外見そのものと言ってもいいくらい)
幸せそうに俺に寄り添う七瀬のその姿を目にしながら。
「七瀬。それだけじゃ、子供は授からねぇんだ。もっと……その、エグイと言うか、気持ちい事しねぇといけねぇんだよ」と現実のことを今口にするのは、酷というものであろうか。
などと、心の内で自問自答している時に俺のスマホがラインのコールの着信音を鳴らした。
発信者は尚ねぇさんだった。
その表示された名を目にして、少し胸にチクリと来るものを感じたのは、ひそかに思いを寄せていた女性からこの状況下でその名を目にしたからだろうか。
「ごめんねぇ、直登君仕事中でしょ?」
なぜかしおらしく話しかける尚ねぇさんの声。仕事中と聞かれたのがかなり胸に痛い。
「そうだけど」と一瞬嘘をつこうとしたが、なぜか素直に「今、部屋にいるけど」と答えている俺がいた。
尚ねぇはなんか安堵したような声のトーンになり「具合でも悪い?」と尋ねてきた。
「うーーん。ちょっと風邪気味かもしれない」
「ふぅーん。そうなんだ。熱あるの?」
「別に熱があるわけじゃないんだけど」
「じゃぁ大丈夫ね」
尚ねぇさんのその一言の後、ガチャっと、ドアが開いた音がした。
「えっ!」 思わず変な声が出た。
「やほぉ直登君――――げっ!」
勝手知ったる他人の家。ならず俺の部屋。いつものようにまるで自分の部屋にでも入るかのように入室してくる。
そして、尚ねぇさんの目に飛び込んできたのは、ベッドの上であらわもない姿でいる俺たち。七瀬の巻き付けていたバスタオルが緩み胸元がはだけようとしている。
「な、なっ! なんなの? はっ、ごめん、お邪魔……。いやいや違う」
頭の中がものすごく混乱しているのが良く分かる。尚ねぇさんの顔の変化がものすごいと言うか、俺としては恐怖さえ感じてしまう。
「ちょっと、直登君。秋穂ちゃんが大変な時にあんたはいったい何をやってんの」
「いや、これはその……。なんと言うか」
どう見繕ってもそのなんだ、言い逃れの出来ないこの状況。
「でででで、な、なによついに犯罪まで犯しちゃってるじゃない! こんないたいけな幼い子に手を出すなんて……。ああああああああ! 直登君が……直登君が」
壊れゆく尚ねぇさんの思考。
「ふっ! アハハははっは。駄目だようもうダメダメ。秋穂ちゃんと優奈ちゃんと一緒に暮しているのに、中学生まで連れ込んじゃそれに何やってんのってああああ! そうだよね、見たままの事してたんだよね。……それなら、なんでこの私に言わなかったのよ!! あっ、何、私もう直登君の適応年齢超えちゃっているって言うの? ああ、そうなんだそうかぁ、いやぁ、もう私おばさんなんだ。あっ、違うよねおばぁさんかぁ。そうだよねぇ、中学生の子からしたら私なんてババァだよねぇ。でもさ、最近の中学生って発育がいいんだねぇ。おっぱい私と同じくらいあるんじゃない。このおっぱいフェチの馬鹿直登。バカバカ。本当に馬鹿」
尚ねぇさんは目に涙を浮かべて俺を罵った。
「あのぉ……。どなたか知りませんが何か、大きな誤解と言うか間違いをされているようなんですが。先輩、大丈夫ですかこの人相当ブチ切れているように感じるんですけど!」
「えええっと……」あまりの尚ねぇさんの壊れっぷりのひどさに圧倒されてしまい言葉が出ない。なんて説明したらいいのかどこから説明したらいいのかということをこの乏しい脳みそは今フル回転でその糸口を探している。
たぶんまともにと言うか、状況説明をしてもこの俺たちの格好と、今二人がいる場所がいけねぇ。
俺パンツ一丁、七瀬ははだけつつあるバスタオルでかろうじて、そのなんだ、胸の突起部分が隠れているって、見てはいねぇけど下も履いていねぇはずだ。それがベッドの上でいるということであるんだけど、そしてもっと厄介なのが、してねぇんだぜ! 絶対にしていねぇ!! んだけど、七瀬はこれでもう赤ちゃんが出来ちゃうと信じ切っている。
つまり一般的にはそなんだ。”した”と言う。で、尚ねぇは七瀬の事中学生だと思い込んで錯乱している。
マジぃほんとマジぃ。俺ピンチ? 究極なピンチだよな。もしかして、このアパートから出ていけなんて。今のこの状況じゃ言われかねない。何せ秋穂と優奈ちゃんと言う女二人と先に同居生活をこの部屋ですでに行っているんだから。
で、ここでまた予想だにしていないことが発生した。
「先輩! 今あの方、先輩はこの部屋で、たぶん女性ですよね。しかも二人の名前が出てきたはずですけど、秋穂さんと優奈さんと言う名前でしたよね。一緒に住んでいるって……本当なんですか? 先輩はもうその人たちと、一緒に住んでいるって言うことはその……。結婚されるんですか? そうなんですか? 私はもう先輩とは結婚できないんですか?」
「ちょっと待て、結婚って……」
「だって、私達もうコウノトリさんが赤ちゃん運んできてくれるのを待つだけじゃないですか。二人で私達の赤ちゃん育てましょう」
ああああああああ! もういやだぁぁ!
これからどうなるんだ俺。
「直登や、こんなことしている場合じゃないんだけど……。でも、”もてる”というのは良い事じゃ。苦しめ直登よ。ぬほほほほぉ」
やい、天国のじじぃ。面白がってんじゃねぇぞ!
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