第28話 少女の小さな魂のかけら。呪縛は解き放たれ今ここに覚醒する。ACT3

ドックンドックン。

抱きつかれた七瀬の鼓動が俺の腹のあたりに響いてくる。

むにゅっと柔らかい感触と、濡れた衣服から伝わる生暖かい彼女の体温。


薄暗い部屋の中にまばゆく光り、俺たちを一瞬照らしつける稲妻の閃光。そのあとにとどろく雷鳴。轟音が鳴り響くたび七瀬の抱きつく力は強くなる。

二人の衣服からポタリポタリと雫が三和土のコンクリートに落ちていく。

小柄な体。されどその体は見た目よりも……小さくて、やわらかくて、そして温かい。


不思議と何かに、こうして抱きつかれていることで伝わる彼女からの体温と共に、俺の心に訴えてくる声のようなものを感じずにはいられなかった。

七瀬は本当に雷が怖いんだろう。その怖さからただ単に俺にしがみ付いていた。だけなんだと思っていた。


「とにかく中に入ろう」

しがみ付く彼女のその手を俺の体から離すことは出来なかった。

幸か不幸か、鍵がかかっていたということは秋穂は。いるという先入観しかなかった俺はなぜか秋穂がこの部屋の中にいないことをその静けさと、どことなくよどんだ感じがするこの空気感から感じ。ホッとしている自分がいることに気が付く。

日中とは言え薄暗い部屋の中。照明をつけようとスイッチを入れたが、明るさは目には飛び込んではこなかった。

まだ、さっきよりは音量も小さくなった雷鳴が耳に聞こえてくる。


脱衣所からタオルを取り出し、七瀬の頭の上にバサッとかけた。

「早く拭けよ、風邪ひくぞ」

そう言っても七瀬は俺から離れようとしない。

「どうしたんだよ。このままじゃ本当に風邪引いちまう。着替え持ってきてやるからな、怖いのは分かるけど、手、放してくれない?」

「……せ、先輩」

七瀬は俺の顔を少し上目使いで見上げるように目に入れ。濡れたブラウスのボタンを外し始めた。


薄明りの中、七瀬のブラがあらわになる。そしてスカートのホックに手をかけ、すとんとスカートを床に落とした。

「な、七瀬、何やってんだよ。俺出ていくよ」

だが七瀬はまた俺に抱き着き、ぎゅっと抱きつく力を強めた。薄明りの中でもはっきりと見える。七瀬のブラがずれ始めている。意外と……。いや、大きい方かなって言うのは意識していた。

谷間の盛り上がりがせりあがっていた。

生身のこのやわらかく。想像していたものより、本物は相当やわらかい。しかも温かいのだ。


こんなにも生と言うのは温かいものなんだ。伝わるこの温もりを今はほとんどじかに感じているようなものだ。

「先輩、ど、……ですか? 私、結構ある方だと思うんですけど」

ああああああああ! 私意外と大胆。でも恥ずかしくて、もう、どこかに隠れたい。

隠れたいよぉぉ!! んだども、ようやくこうして先輩におらのこの肌を触れさせることが出来たでねぇかぁ。おらの愛しの先輩に。もうあどにひくごとは出来ねぇべ、このままここでもええ。何もベッドじゃねぐてもいい。おらは……おらは。


潤んだ瞳。じっと七瀬の瞳はこの俺の顔を映し出していた。

その瞳に映る俺の顔、少し赤みを帯び始めた彼女の頬。なまめかしくしっとりとリップが馴染んだぷっくらとした弾力に満ちていそうな唇。

七瀬の瞼が静かに閉じた。

「――――せんぱい」

ぐらっと、俺の体は七瀬に引き寄せられていくような感じがした。……それからの記憶はどこかに飛んでいったみたいだ。


薄らぐ意識の中で、「はぁはぁ」という息遣いだけはなんとなく聞こえていたように思える。

気が付けば、俺はベットの上にいた。

部屋の灯りがついている。停電は終わったようだ。

そして耳元で聞こえるスースーと安らかな寝息に気が付いた。その音の方に顔を向けると、偶然なのか、それとも狙っていたのか? 七瀬の唇と俺の唇が触れた。


「うわぁ!」思わず声を上げてしまった。その声で起きたのか、隣で寝ていた七瀬が目を覚まし。

「先輩!」と声を上げて、抱きついた。

その時気が付いた(今更ながら)俺はパンツ一丁。七瀬は……。体にバスタオルを巻きつけていた。

とはいえ、俺たちはほとんど裸に近い……(たぶん七瀬はあのバスタオルの下は何も)これはその、全裸と言うことではない。俺はパンツを履いている。くどいようだが、そして七瀬は――――バスタオル。そしておもむろに片手で握り閉めていたハンドタオルを見ると、そのタオルには赤い血がしみこんでいた。


こう言う時の頭の回転速度と言うのか、想像、妄想、いや現実論として、ああああああああ! 俺、俺卒業しちまったのか。しかも、七瀬と。タオルにしみこんだこの血の跡を眺め、七瀬も初めてだったのか……。俺は此奴の大切なものを奪ってしまったんだ。

一気に襲い掛かる自己嫌悪。

ほとんど、いや、意識がなかったとはいえ、俺は飛んでも無い事を自分の後輩にしてしまった。

この状況。もはや言い逃れは出来まい。


「直登よ。男の人生は時に。一瞬でその方向が思いもよらぬ方に向くものじゃ」

ああ、じっちゃんの格言が頭の中をよぎっていく。

まさに今、その通りになっちまった。


俺は過ちを犯してしまったんだ。でも、なぜか少しほっとしている。これが、相手が社会人であり、二十歳を過ぎた大人であることに。お互い大人同士、意識が飛んでいたとは言え合意の上での行為。

決して犯罪ではない。事件になることはない。


俺の願望の底に眠る2次元の女の子の年齢はJK以下……だ。

いけない究極のエロゲでほほ笑んでくれる女の子はJK以下も存在する。JC……いやいやJS――――ああああ! そこまでくると本当にもう禁断の裏ゲーム。まさしく犯罪だ。

でもゲームの中では彼女たちは優しく明るく。時はエロく誘い込み、ほほ笑んでくれるんだ。俺の事を「お兄ちゃん」なんて呼んでくれて。27にもなるもうじき30歳に足を踏み入れようとしている俗世ではおっさんと呼ばれてもいい年のこの男に。


ゲームの中だったら俺は飛んでもねぇ悪い男に成り下がれる。

だがいくら大人同士であってもこれは現実だ。

もしこれが10歳も年が離れた今現実に俺の傍にいる女の子と……こういうことになったら。


犯罪!

俺は犯罪者となるのか! 『池内直登容疑者27歳。会社員。17歳少女にみだらな行為を……」なんて言うタイトルで新聞、テレビのニュース。週刊誌……今やネットでも拡散。もう俺の人生は終わるだろう。当然会社はクビ! 社会的に抹殺されてしまう。


「先輩どうしたんですか? なんか顔色悪くなっていますよ。まだ具合悪いんですか? そうですよね、あんだけ血を噴き出したんですもん、私本当にびっくりしました。あれだけ勢いよく飛び散る鼻血なんて初めてだったんで、焦りましたけど」


――――鼻血?


「もうぉ、私の下着先輩の鼻血で染まちゃったんですよ」

えへへへへ、やったね今日はなんて良い日なんだろう。それについに私は憧れの先輩とこうして大人の関係になれたん……だべ。

会社で全身に先輩の唾かけられて、先輩のアパートに来ることが出来て。しかも、先輩の血をこの体に直節浴びちゃった。

うへへへへ、それに、そんでもって。ベッドで抱き合いながら寝ることが出来ちゃうなんて。念願成就。


これで私も『おとなの。お・ん・な』になったんだべ。ああ、夢にまで見ていたのが現実になったべさ。あとは、コウノトリさんが私達の元に可愛い赤子を授けてくれれば。おらの未来は幸せしか残れねぇんだべさ。


「あのぉ、ちょっと聞いていいか七瀬」

「はい、なんですか先輩」

ハンドタオルを七瀬の前に差し出して「この血の跡って、もしかして俺の鼻血?」

「そうですけど、何か?」

「七瀬お前、処女?」

「処女? んっもう、先輩ったら。何言うんですか。もう私達ちゃんと出来たじゃないですか。こうして、お布団で抱き合って寝ることが出来たんですから。あとはコウノトリさんが二人の愛の結晶を届けてくれるのを待つだけでじゃないんですか」

「ただそれだけ?」

「はい、そんなに聞かないでくださいよぉ! 恥ずかしいですようぉ!」

ん、ていうことは俺、まだ卒業していない。


「ああ、でも先輩脱衣所で倒れてここまで運んでくるのほんと大変だったんですからね。ほんと重いんですもん。息切れました。はぁはぁもんでした。先輩鼻血は止まっても起きないし、私も疲れちゃったんでご一緒と言うか、先輩と一緒のお布団でだっこしながら寝ちゃいました。えへへへ。コウノトリさん早くかわいい赤ちゃん連れて来てくれないかなぁ」

顔を真っ赤にさせながら、てれてれと七瀬は言う。


はぁぁ――――っ! 間一髪セーフ!


そして七瀬は俺を見つめぼっそりと言う。


「ねぇねぇ、先輩。私ここで先輩と一緒に暮してもいいですか?」

……と。


ちょっと待て! さすがに4人は無理だ。

絶対に!!

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