第26話 少女の小さな魂のかけら。呪縛は解き放たれ今ここに覚醒する。ACT1
「優奈、あなたには今まで話していなかったけど、もう隠し通せない状態まで来てしまったようです」
秋穂お母さんが真剣な顔で私に問う。
「あなたはもう時期、その命が尽きる」
「えっ!」
あまりにも唐突なことを押し付けられたかのような。その意味を理解することを拒絶した。無意識に。
その命が尽きる。それは私がもうじき死ぬということを意味しているんだろう。そう、感じ取ることは出来てもそれが自分自身にどんなことがこれから起きうるのかという具体的な意味が分からない。
「死ぬって……」私はぼっそりとつぶやいた。
「秋穂秋穂」スマホからお母さんを呼ぶ声が聞こえてくる。
「お父さん。これから私もそちらに向かいます優奈を連れて」
「うむ、分かった。
暴走。つまりはこの宮下家に掛けられた呪いと言う呪縛が解放されるということを意味する。
日本有数の財閥でもある宮下家。この家族は今消滅しようとしている。およそ10世紀に渡り、この日本と言う国を裏で支え続けてきた財閥。もし、宮下家が崩壊すればこの日本の経済いや、秩序さえも悪路の一途をたどるとさえ言われている。
つまりは日本の実質的な崩壊をも意味するといっても過言ではない。
陽と陰。
陽の光を浴びその存在を崇め人々に希望とその道しるべを指すのが陽の神の役目。
その存在を決して表には現すことはなく。闇に潜む邪心の念を好み、その邪を糧として存在しえる邪神。すなわち陰の神。
この世にはこの相反する神が存在する。
元々人間というものは、この陽の人格と陰の人格が絶妙なバランスによって成り立っているといっても過言ではない。
「やはりこの年おいた私の血では、もう満足はしてくれなかったのか」
そんなことを呟き落胆するおばあ様。その姿は哀しみを幾度も乗り越え、その糧への背負う重さを感じた。しかし、私にとって今起きていることはまったく理解も出来ない。
「いったい何が起きているというんですか? おばあ様。秋穂お母さん。それに私の命がもうじき尽きるというのはどういうことなんですか? ……も、もしかしてお父様の死因と何か」
私の話を遮るかのように湯島さんが「お車の御準備がと共いました。皆様お急ぎください」
そのまま私達は、車に乗り込み屋敷を後にした。
見送りで玄関前に待機していたメイドの
「何が起きているのは分からないけど、たぶん……優奈お嬢様には。ううん、優奈ちゃんは大丈夫だよ。絶対に。だって、あなたにはいつも見守ってくれているお母さんがいるじゃない」
その一言がとても心強かった。
なにがなんだかわからないまま、話は進展し、私に掛けられた余命の宣告。
――――そんなことを言われようが、まだ私は死にたくはない。
まだ、カタチにさえもなっていない。この淡い想いをようやく感じ、苦しみ、何かを摘み取ろうとしているところなのに。
私達を乗せた車は一路目的地へと向かっている。
その目的地と言うのは秋穂お母さんの実家である。あの大きな立派なお社がある神社。
しかし、目的地が近くなればなるほど私の意識は次第に薄らいでいくような感覚になる。ああ、なんだかとても眠いような。そうじゃない。何かが私の中に入り込んできて、私自身を眠らせようとしているかのような感覚。
なんだろう意識が全て支配されてしまう。
がっくりと、すべての体の力が抜け落ちてしまったような感覚。でも意識はまだ繋がっている。
「そんな私の変化を秋穂お母さんは見逃すことはなかった。
「車を止めて!」
運転手はとっさにその声に反応し、車を路肩に停車させた。
「優奈、大丈夫?」心配そうに問いかける秋穂お母さんの声は聞こえている。しかし私が答えた言葉は……。
「良いのぉ。この器は。憂いのう。この心に宿う苦しみと哀しみ、そしてその根源となる人を愛するという苦悩。美味じゃのぉ……。さすが、我が作り上げた器じゃ」
な、なに言ってんの私。器って? 誰よ勝手に私の中に入ってこないでよ。
「封印が崩壊したのか」秋穂お母さんのその言葉に反応したかのように、私は多分お母さんをにらみつけているんだと思う。
「ほぉ、うぬは確か、我を祭る社の娘ではないか。最近姿を見ぬと思っておったが、この器と共におったのか」
「あら、私の事を覚えているなんて光栄じゃない。邪神陰の神様」
「何を今更言うのじゃ、あの社の中で我を崇めたもうていたのはうぬではなかったのか。我はそなたに告げておったはずじゃ、宮下家には関わるなと。だがそなたは我の忠告を聞かなかったようじゃの」
「ねぇ、優奈、あなたまだすべてをこの邪神陰様に食われていないわよね。私の声が聞こえているなら、しっかりと気持ちを強く保ちなさい。あなたが思う人へのその気持ちを願い、強く念じるのよ。――――直登君へのその想いを」
へっ! な、なんで秋穂お母さん、なんでなんで……。なんで知ってんのよ!
「へへへ、図星でしょ優奈! あなた直登君の事好きなんでしょ」
嘘嘘、何言ってんのよ!
「隠したって無駄だよ。ほら、もう顔真っ赤じゃない。あの人見知りの強い優奈が、直登君には普通に接しているじゃない。それにさ、毎朝、一緒に出掛ける時の優奈の顔がとても幸せそうな顔しているの、あなたは気づいていなかったでしょ。だてに母親はやっていません!」
もう恥ずかしい!!
「ほうぉ、われの器が恋をのぉ。これはまたこっけいな話じゃ」
「あのねぇ、
お母さん。私、いったいこれからどうなちゃうの? この変な私じゃない、この心の中の塊が暴走しそうになる感覚に押し込まれそうになるけど、でも、私は……お母さんが今言った言葉に何か救われたような気持がする。
うん、私は負けない。こんなの私じゃないんだもん。私は私。そうお母さんが言ったように私は直登さんの事がとても気になっている。これが好き。みんなが言う恋だというのなら、私はその気持ちを自分自身で素直に受け止めたいと思うし、この気持ちを大切にしたいと願う気持ちがあふれてきているのが分かる。
「ふん、この器の小娘めが。何生意気なことを言うておるようじゃの。お前を産んだ母親は我がお前の父親にさし向け、お前を産ませたというのに。我に従う気などないと申すのか!」
「差し向けた!」
おばあ様が声を上げた。
「そうじゃ、あのおなごは我に願いを託し、我はその願いを成就させたにすぎん。ただ、我のもくろみをも成就するのに都合がよかったといえばそれまでじゃがの」
「もくろみとは何を意味することですか?」おばあさまが私、いや私のこの中に宿る邪心陰に問いかけた。
「何を今更そんなことをきく必要があるのか。己ら宮下家が代々行ってきた家系の習わしが、己の首を絞めていたということを今更知らぬとでも言うまいが」
「確かにそれはその通り。我々の家系は以前は近親のみの血族の種族意を保っていた家系。しかしそれゆえににその生まれし血族の戒めに脅えねばならくなった。つまりは生命の短命化が進み、このままでは家系が存続しえないという判断の元、血の浄化を試みその勤めを我ら党首が受け継ぎ浄化をしつつ、この家系を保つために行ってきた事。それを今になりなぜ阻害しようとしなさる。あなた様に対してはその
「ふははははは。お前も何も分かってはおらぬようだな。それとも、この年月の中。真実がねじ曲がり、風化して伝えられたとでも言うのかのぉ」
「それはいかなることでありましょうか。邪神陰様」
「よくおきき、その昔の真実の話を。うぬらの家系の始まりがいかにして始まったのかを」
「フェッくしょん!」ああああ、くしゃみが止まらねぇ。
どうしてしまったんだぁ。俺花粉症でも発症したか? 今までまったくなかったのに。
それになんか背筋がゾクゾクとつめてぇんだけど。
部長がそんな俺を見て不憫に思ったのか。
「なぁ、池内。具合悪いんだったらもう帰れ。お前がくしゃみするたびにこっちはなぜかものすごくビクンと波動を感じるほど、気になって仕事にならないんだけど」
「す、すみません部長。ご迷惑なら早々に切り上げて帰宅します」
「ああ、その方がいい」
「先輩、もし本当に早退されるのなら、私、先輩のお家まで付き添います。……部長いいですか?」
「七瀬さん。そうしてもらうとたすかるなぁ」
やったぁ! 先輩にめいいっぱい全身に唾を付けられて、もう先輩に汚された体で、私は先輩の家へと二人っきになれるチャンスを得たのだ。この後は私のこの体、そして、この心もすべてを先輩にささげる。
いやぁ、ついに私も大人の女になれるんだそれも、恋焦がれる先輩と。
「ああ、直登よ、今ゾクゾクしているのは、わしがお前の背中にとりついているせいじゃ。いやぁなんじゃちょっと若かりしときの過ちが、今になって何かよからぬ事態を招いているようでのぉ。すまんが力を貸してもらえんかのう直登よ」
はぁ? なんなんだよ。
いったい!!
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