第25話 俺の人生プロローグは終わったのかもしれない。これは共同生活なんだ。同棲ではない……はずだ。……たぶん ACT4
「ちょっとぉ! 人ん家に車乗り付けてきて危ないじゃない」
車から降りたその男はギロリと私の方に視線をあてつけ睨みつけた。
そしていきなり手を掴み、その手に力を込め。
や、やばい! 私、もしかして拉致されちゃう? このまま車に乗せられて、何処か分からない誰も来ない廃墟の工場跡地で、襲われ……もてあそばれ、この男の快楽のおもちゃにされた後、殺されちゃう――――!! ああ、抵抗できない振り払うことも出来ないほど、その男の力は強い。こんなか弱い女性にはもうどうにも出ない。
ああああ! 直登君。ごめん。もう君と一緒の時間を過ごすことができなくなった。これが私の人生の終わりなんだ。
ちびりそうになるのを必死にこらえながら、全身がこわばっていくのを感じている。
そんな私の形相を感じ取ったのかその男はパッとその手を放し、「これは大変失礼いたしました。あまりにも急なことで……思わず。いや、それはこちらのことでした。このような失礼なことをいたしましたことをお詫びいたします」
その男は深々と頭を下げ、謝罪した。
はふぅ、私、拉致されちゃうんじゃないのね。
――――だ、大丈夫なのね。
警戒心をすべてといたわけじゃないけど、でも冷静になってその男のいでたちを目にすると、神官装束の衣装と言うか。これ、コスじゃないよね。多分だけど、ということはどこかの神社の神主さん?
なの?
恐る恐る「あのぉ、どちら様で?」
「ああ、何と言う失態を! 本当に申し訳ありませんでした」またその男は深々と頭を下げた。
なんだか悪い人のようじゃない気がして来た。
「私、
宮下秋穂。ていうことは秋穂ちゃんの事だよね。で、この人は秋穂ちゃんとどんな関係なの?
「どのようなご関係の方でしょうか?」
「父親です。秋穂は私の娘です」
ええ! 秋穂ちゃんのお父さん! それに紫苑神社って言ったらここいら辺じゃかなり有名な神社じゃないものすごい立派だし、私も毎年初詣に行くとこだよ。て、言うことは秋穂ちゃんってあの神社の娘さんって言うことなの。……す、すごいとこのお嬢さんだったんだ。
「あのぉ、携帯。スマホにかけてみました?」
「それが、何度も書けているんですが、一向に出てくれません。所在については宮下家の奥様からご連絡はいただいておりましたので、こちらにはせ参じた次第でございまして。車の中から見たあなたを秋穂と思い、いきなり手を掴んでしまい本当に申し訳ないことをしてしまいました」
まぁ、それはもういいとして。なんかほんと急用と言うか切羽詰まっている感じがひしひしと伝わってくるんだけど。
でも秋穂ちゃんいないみたいだったけどなぁ。
「なんか出かけたみたいでしたよ。私もお部屋の方に行ってみたんですけど、鍵かかっていましたし」
「そ……そうでしたか」
「ちょっと待ってください、私も連絡してみます」
家に戻り、スマホを手にしてSNSで秋穂ちゃんにコールしてみた。
そのころ宮下家の執務室では。
「お母さま!」
秋穂お母さんが鋭い声でおばあさまに問いかけていた。
「別に、特別なことはないよ。ただ、こうして、優奈に逢いたかっただけ」
そう言ってにっこりとほほ笑んで、おばあ様は返した。
その言葉に惑わされないという感じで秋穂お母さんは「お母さま。失礼します」といい、おばあ様の腕を取り、ブラウスの手首のボタンを外し、袖をたくし上げた。
そして一言。
「やっぱり」と呟く。
おばあ様の腕には小さな紫色の斑点が散らばっていた。
「どうしたの? おばあ様」
「なんでもないよ心配することじゃないんだよ」
「これのどこが心配なと言えるんですか?」
さらに険しい顔になる秋穂お母さん。
「じつは私、お母さまの様子を拝見させてもらおうと、明日にでもこの屋敷に来るつもりだったんです。それが今日、優奈を連れ出したということは何かあると……」
その時だった。秋穂お母さんのスマホが鳴り出したのは。
「んっ、もうしつこいんだからお父さんも!」そう言いながら無視をしようとしていたが、明らかに今鳴り響いているのは通話の着信音ではなく。あのなじみ深い思わずこっちの方に反応してしまう『ピロロロロン』という音質に似ているあの音だ。
「んっ?」と、何気なくスマホの画面を見て「あっ!」と声を出し、すぐに応答をタップした。
「もしもし秋穂ちゃん。良かった出てくれて」
「ご、ごめんなさい大家さん……。尚さん。今日お料理教える約束すっぽかしちゃって」
「そ、それはいいんだけど、今さぁうちに秋穂ちゃんのお父さんが来ているんだけど」
「ゲッ! なんで、お父さんが」
「すみません変わっていただけますか。ことは急を要すしますので」
そう言われると、かわざろうえない。
「秋穂か」
「はい……。何か御用ですか?」
なんかものすごい他人みたいな話し方って。多分今会話しているのは秋穂お母さんのお父さんだと思う。だって秋穂お母さん、お父さんとものすごく仲悪いみたいていうか、実は1度しかあっていないんだよね。実家に行くこともなかったし。ただ、秋穂お母さんの実家と言うかお家は大きな神社で結構有名なところだというのはお父さんからちょっとだけ聞いたことがある。
父娘の仲が悪いのはもしかしたらお父さんとの結婚が原因? 何のかな?
だって秋穂お母さん。私と同じ年のころに、お父さんと結婚して私のお母さんになったんだから。
そう思うとなんとなく私も少し罪悪感を感じてしまう。と言うか。そう言う気持ちを持てるという年になったということを思い知らされる。でも、私はずっと二人を私の立場で、娘として見てきた。
私の目にはなんの迷いもなく、後悔も感じることもなく。前向きで、そして何より。お父さんのことを愛していた。
その愛というものがどういうものなのかということを、理解し始めている自分がいるんだ……。
今まで、異性。男性に対して、こんな気持ち。男性と言う異性に対してこんなにも苦しい想いを感じたことはなかった。
私の中にある異性の存在はお父さんだけだった。
でも今は違う。
今。……私はある男性にこの心を寄り添わせていきたいと願う気持ちで満たされている。
私と、秋穂お母さんが押しかけた家主の人。そしてお母さんの元クラスメイト。
知り合ってから、まだそんなに日はたっていない、でもどうしても私のこの胸の中で渦巻く想いは
これが恋なのか? それは私にも分からない。でも、素直な気持ちを持ち、自分自身に問いかければ、その想いは日ごとに……ううん、時間ごとに不思議とこの小さな私の心の中を覆いつくす存在になっていく。
なんだろう。どうしてだろう。それすらも私には分からない。でもこの気持ちは抑えきれなくなってきているのは事実だ。
この気持ちを秋穂お母さんに打ち明けても……でもそれはいけないような気もする。
もしかしたら秋穂お母さんも直登さんの事を。
そう思うと、私は大胆な行動はとりたくても取れない。
もう私の体は一人の女として出来上がっている。
だからこそ。彼の。彼からの愛を受けたい気持ちが膨らんでくる。
「秋穂。良く聞いてくれ。裏神殿の宝玉が……。宝玉が割れた」
「えっ!」
一瞬にして秋穂お母さんの顔色が変わった。
そして私に注がれる。秋穂お母さんの視線が鋭く。
そしてとても冷たく感じた。
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