第20話 妄想初夜。いいではないか。よいではないか! ACT4
優奈がようやく脱衣所から出てきた。その時に彼女はこの違和感極まりない状況を目にして、思わず尋ねた。
「あのぉ、これは何?」
「もう、直登君お漏らししちゃってるじゃない。恥ずかしいいぃ!」
ああ、もうなんとでも言ってくれ。出ちまったもんはもう後には戻せねぇんだよ。
俺は何も語らず、そして平然と言うか、もう魂がどこかに吹っ飛んだ状態で、脱衣所に行き、とりあえず、ぐっしょりと濡れたズボンとパンツを脱ぎ、タオルを巻いて。お漏らし現場の後処理をしようと向かう。
「直登君、そんな恰好で来なくたって、ここは私がやっとくから、早くお風呂場にこもって頂戴。でないと脱衣所に私行けないじゃない」
なんかもう情けないやら、悲しいやら。いろんな気持ちが、入り混じる思いを背負いながら俺は言われるままに風呂に入った。もちろんシャワーで体は洗ってからだ。
温かな湯が体中に染みわたる。
茫然としながら、風呂場の天井を眺めていた。湯気を逃がす換気扇が回っていたが、天井からぽたりと雫が俺の頬に落ちてきた。
「はぁ」と深いため息を漏らし……。小便漏らしたのは確か、記憶にあるのは小学校の3年の時までだったかなぁ。なんて言うこと思い出していた。
まぁあ仕方がないと思う反面、自己嫌悪に陥る自分になんとなく嫌気がさす。この嫌気を、あの二人に向けるということも脳裏に沸いたが、それは俺には出来なかった。
昨日から、俺の一人生活は終わったんだ。
何時まで続くかわかんねぇ、この3人での生活がこれからも続く。今までのように何も考えず、体と俺の嗜好が赴くままの生活はおくれねぇということだ。
何か重くのしかかる不安。
本当にいいのか……これで。
「ねぇ、直登君」脱衣所から秋穂が俺に呼びかけてきた。もちろん風呂場の扉は閉まったままだ。
「な、なんだ。どうした何かあったのか?」
「ううん。別になんでもないんだけどさ」
「な、なんだよ」
「――――う、うん。あ、あのね。……ごめんね」
「ごめんって」
「直登君おトイレ行きたいの我慢してたんだね。優奈がお風呂使っていたから気を使ってくれていたんだね……。だから、なんて言うか。私達が来て、直登君本当は迷惑なんだよね。そんなにも気を遣わなきゃいけなくなちゃってさ」
「べ、別に気……使っているわけじゃ……ねぇけど」本当はめちゃくちゃ気ぃ使ってる。
「ほんとごめんね」
秋穂の声が少し震え、湿った感じに聞こえてくる。
「なんだよう。お前らしくねぇじゃん」
「…………」
「何かあるんだろ」
「何かって」
「だからなんか事情って言うんか。その、困ってんだろ」なんとなく出た言葉だった。
「……そうねぇ。確かに困っているて言えばそうなんだけど」
「あのぉ……。もしかして金関係か? 黒服着たイカツイ奴らに取り立てられているとか?」
「まぁねぇ、確かにお金はないのはたしかだわ。それにしてもどうして黒服なの?」
「いや、なんとなくそう言うイメージが湧いてきたていうか」
「なんかあながち当たっているから、否定できないんだけど」ぼっそりとした声で秋穂は答えた。
「マジかぁ……俺金ねぇんだけど」
「ぷっ。確かに私、お金はないけど、別に借金の取り立てにあっているわけじゃないからね。念のために」
「そ、そうなんだ……ま、で、でもなんて言うか……なんだ。大家さん、尚さんの了解ももらってるみたいだし、別に。その、お前らが落ち着くまで、ここにいてもいいんじゃねぇか。お前らが良ければの事なんだけど」
「ほんと! 直登君。でもまじめに迷惑だよね」
秋穂、そう言われると俺、なんて答えたらいいんだよ。迷惑じゃない。なんて言ったらその……下心丸見えと言うかさらけ出しているのありありじゃん。これって同棲ていうことになるんだよな。しかも、しかもだ、現役の女子高生付きという同棲だ。
「こ、困っている時はお互い様。ていうかその。そう言うことにしておけばいい」
「……う、うん。本当にありがとう。あっ、あり……がとう」
ぐちょっとした秋穂の声。泣いているのか彼奴?
「ねぇ、直登君」
「ど、どうしたんだ?」
「あ、あのね、私、せめてものお礼ていうか。なんて言うか。お世話になっている間。直登君の事、お、お世話させてもらいます」
「お世話って」
「その、……は、恥ずかしいんだけど」
ごくっ。生唾を飲み込む音が聞こえてきたような来ないような。
「お、お背中……ながさせて……」
ぶっ! な、なにを血迷ったことを言うのか。仮にも秋穂、お前人妻なんだろ。あれ、でも旦那がいない亡くなったということは未亡人ていうやつなんだろ。いくら、相手がいなくたってその。その、お前の心の気持ちの中にある想いと言うのは、決して俺に向けられるはずのない想いなんじゃねぇのか。
そんなお前が俺に尽くす。ただ居場所を提供しているに過ぎない俺に、尽くす。それは何か違う気がする。
そう自分に俺自身が瞬時に問いかけている。
ああ、なんて俺は回りくどい男なんだろう。あの頃、中学の時に俺は確かに
しかし、それは俺一人だけの俺個人のとでも言うべきか、誰もそのことを知る奴はいない。これが片想いと言う言葉にあてはまるというのであればもしかしたら、そうかもしれないが、そこまでにも到達しえない淡い思いであることは確かだ。
あの頃のその淡く意気地のなかった俺の小さな古傷に、またお前はナイフを突き立てようとでも言うのか。
しかもだ今度はお前のことをお母さんと呼ぶ女子高校生付きと言うのは、この俺にとっては苦行の意とでも言える。
今朝の電車の中で感じたあの甘酸っぱい、純真な香りと肌の……というべきか、あの柔らかなふくらみの部分の感触が蘇る。
あの見た目よりもかなりふくよかでやわらかくて……温かい。あっ、温かさは俺の想像。
妄想だ……も、もうそう。――――ああ、なんか思い出していくのに、なんか気が遠くなっていくような感じがする。
2次元では得られないこの実際の感触のこの体験感情が湧く。湧くっていうかもう……あ、俺、もうだめ……だ。
「ねぇ、直登君。直登君? あれ?」
「ああ直登や。お漏らしに風呂でのぼせて、失神。今日は散々じゃのぉ。だが覚悟せい! これから起きることはすべて現実じゃ。そして試練なのじゃ。わしの分まで楽しめばいい。じゃが生身の女の操縦はかなりのテクを要するぞ。お前の操縦桿の動きは甘美かのぉ?」
ああ、爺さん。今まで声しか聞こえてこなかったけど、今度はぼんやりと姿が見えるような気がする。俺もそっちに向かっているのか?
――――俺、子孫残せねぇんだ。
「馬鹿たれ! ちゃんと残せ!」と爺さんから喝を言われ、頭上から冷たい雨が降り注いでくるのを……?
はぁ? 雨?
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