第14話 俺って意外とモテていたのか? 修羅場が始まるぞ! ACT3
「はぁ―」
「どうしたの、朝からそんなに深いため息なんかついちゃって」
「はぁ? 私そんなため息ついていた?」
「うんうん、ものすごく深刻そうなため息」
「……そう」
「何よぉ、心配事があるなら、相談してよ」
「相談ねぇ……」
ほんと色々ありすぎて相談しようがないんだよね。いくら親友だとしてもさ。
私の顔を心配そうに見つめるこの子は
小学校からの幼馴染。
唯一私が心をすべて許せる子。
「まぁ確かにさぁ、
実家かぁ。そりゃねぇ、おばあさまのところにいけば不自由なく今よりも安定した。いいえ、もっといい暮らしが出来るんだろうけど、そうもいえないところが現実なんだよなぁ。
別におばあさまのことが嫌いという訳じゃないし。秋穂お母さんも仲が悪いという感じでもない。むしろ仲良しだよね。嫁と姑のいざこざみたいな雰囲気なんてないし。でもさ、秋穂お母さんは、おばあさまには頼らないって言っていた。
どうしてかは分からないんだけど、おばあさまのところに行くのは拒んだと言うか、お父さんがいなくなってから、私達は二人で、暮らし……ううん、いつも三人。お父さんはずっといたんだよね。
食卓にはいつも三人分の食事が用意されていた。お父さんの分も。
私の本当の産みのお母さんは、私を産んですぐに亡くなった。その姿は写真でしか見たことがない。
おばあさまは本当のお母さんの話はしない。
それはどうしてなのかも今更だけど聞くこともない。聞く気もないんだけど。
でもね、秋穂お母さんがわたしのところにやってきてからは、なんかお父さんがとても優しいというか、悲しい顔をしなくなったんだよね。
とても楽しい日々だった。
それも長くは続かなかったね。
「ねぇ、優奈。……優奈ってば。ほんとあんた大丈夫? 今日ヘンだよ。いつもの優奈じゃない感満載なんだけど」
「えっ! 嘘。そ、そうなの?」
「だってため息つきながら、ぼ―っとして、焦点が定まっていないていうかさ。悩み事抱えてる感出ているよ」
悩み事かぁ。
「もしかして優奈。好きな人でも出来た?」
葉子のその一言がドキンと私の胸を鳴らした。
「す、好きな人? 嘘。そんな人いないよ。うん、いない」
「ええ? ほんとかなぁ。優奈との付き合い長いんだけど。私」
そ、そうなのか? 私、好きな人が出来たのか? 私に好きな人? 私を好きな人ではなくて、私が好きな人。ということなんだろう……けど。
だとしたら誰? このクラスの中に……男、いないよねぇ。だって女子高なんだもん。
そのほか私が接点がある男の人って言ったら……ええっと。ええっと。
お父さん……。でも今はもういないんだよねぇ。
あと、わぁ。ま、まさかねぇ。だって昨日初めて会ったんだよ。た、確かに一夜同じ部屋で過ごしたけど。一晩だよ。――――な、何にもないし。
何にもないって。何がって……そのぉ。
お風呂とかトイレでバッタリ会うこともなかったし、着替えているところを覗かれるなんてこともなかったし。
それにさぁ、朝起きた時も隣りにいたけど、別に何も起きていないし。…………。
な、ないないない。絶対にありえない。あんなおじさんのこと。
「なぁんか怪しいなぁ。優奈。顔赤いよ。何かあったんじゃないの」
「べ、別になにも……」
「ほ、本当にぃ。隠し事してるんじゃないかなぁ。やっぱり、彼氏ができたんだよ。だから言えないんだよ」
「違うよ。ほんとにほんとに違うから」
「じゃあ、教えてくれたっていいじゃん」
ううぅ。そんなこと急に言われても困るんだよなぁ。
私はちらりと窓の外を見た。
そこには校庭が広がっている。
そしてその向こうには、大きな校舎が建っている。
そう、ここは学校なのだ。
ついさっき電車の中で、私はあの人の体に抱き着いていた。正確には私が抱きつきたくて抱きついていたわけじゃなくて、満員電車の中で仕方なくあの状況になったと言うか。
……でも大きかった。うん大きかったと思うよ。
直登さんの体。男の人の体ってあんなにも大きく感じるんだ。
お父さんに抱かれた。(幼いころだけど)その時の感じとはまったく違う。
男の人の体って固くて、ごつごつしていてなんか岩みたいな感じだとばかり思っていたけど、なんか直登さんは違うような感じがしたなぁ。
あったかいって言うか。……暑苦しいていうんじゃなくて、何んだろう。胸のあたりがきゅっと締め付けられるような、そしてじわっと熱くなるような。なんとも言えないこのもどかしい気持ちになるのは何? いったい私どうしちゃったんだろう。
こんな気持ちになるのは初めてなんだよね。
ちょっと苦しくて、切なくて、それがなんかものすごく心地いいんだ、という自分が今いるんだよ。これを言葉一つに言い表せなんて出来ない。
でもこの複雑と言うかもうぉ! ぐちゃぐちゃて言った方がいいんだけど。この気持ちをどうしたらいいのかって葉子なら解決方法と言うか、何かいいアドバイスをくれるかな。
思い切っていってみようかな。……すっごく恥ずかしいんだけど。こんなこと相談 出来るのは葉子しかいないし……。
思い切って私は葉子に「あ、……あのさ」
「んっ? どうしたの優奈」
その時教室のドアがガラガラと音を立て開いた。担任がやってきた。
ホームルームの時間。
ああああああああ! 言いそびれてしまった。
ならば昼休みに。
そして迎えた昼休み。
ようやくあの群衆の中から買えた唯一のコッペパンを手にして、葉子のところに向かうと、すでに葉子はほかの子たちとお弁当を楽しそうに食べていた。
その中に入る勇気もない私は一人、校庭のベンチで戦利したコッペパンと牛乳を無理やり喉に押し込んで、また大きなため息を吐き出す。
言えなかった。じゃぁ放課後。って、たぶん葉子は放課後はすぐに部活に行っちゃうから、無理かも。
はぁ、諦めよう。
それに今日はバイトがあった。授業が終わればすぐにバイト先に直行。
本当はさ、バイト禁止なんだよね。うちの学校。でも何とかばれないように店長に頼み込んでバイトさせてもらっているから、気持ちが乗らないだけで、休むわけにもいかない。
うん、まずはさ。今は忘れよう。……忘れる? じゃなくて、気持ちきり変えないと。食べていくためだもん。
ふと、おばあさまのあの一言が頭の中を駆け巡る。
「何か困ったことがあったらなんでも私に行って頂戴。どんなことでも。必ず力になるから」
はぁ、おばあさまに相談した方がいいのかな。今のこの状況。
でも秋穂お母さんは……。
どうしてなんだろうあんなに仲もいいのに、おばあ様に頼らないていうのは。
でもいいや。多分秋穂お母さんにはお母さんなりの考えがあるんだろうし。お父さんも言っていた。
秋穂お母さんのことを信じなさいって。
うん。私は秋穂お母さんが好きだし。信じているよ。今あの人のところに行ったのも、たぶんお母さんの何か考えがあってのことなんだろうから。
あああああああああああああ!! でもほんとこのもやもやした感じ早く抜けないかなぁ。
優奈が悶悶としていることなんか、知る由もなく。
俺はその日、今日初外回りの新人。
だがこの後、俺は。七瀬からある相談事を持ち掛けられる。
なぁ爺さんよう。
なんで俺を女。いろんな女に対応できるように教育してくれなかったんだよ。
「うほほほ。直登や。お前にはちゃんとその教育は施してあったはずじゃがのぉ。お前自身が気づいていないだけじゃ。まぁ女で苦労するのは男の特権じゃ。あはははは」
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