第12話 俺って意外とモテていたのか? 修羅場が始まるぞ! ACT1

「粗茶ですが」

出されたカップにお茶が注がれている。

粗茶……ですが? な、なによその言葉。この女。いや雌。


奥さん気取り? ていうかさ、あなた旦那持ちの人妻なんでしょ。不倫、浮気。いけないわ、そんな世界に直登君を染めちゃうなんて、私が許さない。

……あんまり強くは言えないところも、私は過去に経験済みなんだけど。これは直登君には秘密にしている。


しかもよ。そのカップって、直登君愛用のカップじゃない? あ、それ。私が良く使うカップ。この部屋には私が使うカップもあるんだよ。だって直登君とさ、ゲームやるんだよここでね。

そのカップをあんたが口付けちゃうわけ。ああああああ! もうそれ使われないじゃん。

まっ、でも直登君愛用のカップは私が口付けちゃうんだけど。


さて、どうやって切り出そうかな。

最初に口火を開いたのは彼女の方だった。重い空気が流れ、沈黙の時間ばかりが流れていくのかと思いきや、意外とあっさりと彼女は詫びを入れてきた。

「すみません。大家さんですからすべてをお話しします」そう言うって彼女は話し始めた。


名前は春日井秋穂かすがいあきほ。なんと直登君とは中学時代からのクラスメイトだそうだ。ただ、彼女、いや秋穂さん曰く。高校の2年で退学をしてしまったから、高校では途中までとのこと。

高校中退の理由とは。秋穂さんは17歳で20歳も年上の男性と結婚をしていたからだ。まぁ法律上16歳から結婚は出来るんだよ。だから別に動じないけど。


今朝、直登君と一緒に出ていった、あの女子高生は義理の娘になるそうだ。

そうだよ。でないと何歳の時に産んだんだよって言うことになるじゃん。お赤飯もまだほど遠いころに妊娠しちゃったなんて言うのは考えられないけどね。

それで、その旦那さんは昨年。他界されたそうだ。その原因は話してはくれなかったが、なんとなく病気で他界したような感じだ。


それから、義理の娘さんと二人でアパート暮らしをしていたが、その住んでいたアパートが火事になり、住むところを失ったということだ。

「それは災難だったわねぇ」思わず同情してしまう。

「そう言う訳で、今直登君のところにお世話になっています」

「今お世話になっていますって、昨日の夜からですよね」

「まぁそうなんですけど」


男一人に年頃のこの秋穂さんの義理の娘。それにクラスメイトと言えば同年代。二人の誘惑に直登君が絶えたというのか? ジィ――っと秋穂さんの胸を見つめる。うむむ、それなりに大きい。でも私ほどじゃないけど。

あのおっぱいフェチの直登君が我慢できる? 出来たとでも言うの? 

ここはちゃんと事実を確かめないと。


「と、ところで、その……。夜。の、ことなんですけど」

「夜ですか?」

「ど、どうやって寝たんですか?」なんか顔が熱いんですけど。

もしかして赤面。赤くなっている? 別にさ、……いや、それはなんか嫌だなぁ。

秋穂さんは何かを感じ取ったように「何もないですよ」と軽く流した。


「私と優奈。あ、娘の名前なんですけど、私たちは直登君には悪いんですけどベット貸してもらって、直登君は床に寝てもらちゃったんです」

「床ですか」

「はい床です。ちょうど大家さんが座っているあたりにゴロンと」

うわぁ、直登君可哀そう。体痛かったろうに。


それで何もなかったと。

でも、その、援助交際とかなんて言うことじゃないことは、これで判明したんだけど。ついでに不倫じゃないていうことも。不倫はあとがめんどい。……あの時は何とかなったけど、今思えば非常に厄介な事態を引き起こしてしまう。

それ以来私は妻子ある男性とは付き合うことはないけど。


「だから私たちは夕べはそう言うことは。大家さんがご心配されているようなことはありませんでしたよ」

さすが元人妻の貫禄と言うのか。私より年下なんだろうけど。二つだけどね。

でもさ、男女の関係についてはなんかはっきりとしているというか、恥ずかしがらないみたい。

そりゃさ、結婚しているんだったらそれなりのことはしているはずだよね。……17歳で結婚。うーーん。17歳かぁ私そのころ。そうだよね。人のこと言えないよね。

私も秋穂さんとそれこそ結婚なんかしていないけど、変わんないようなことしてたんだもんね。


おっと、なんか変な方向に向いてきちゃったなぁ。

「それで、あなた達は何時までここにいるつもりなの?」

「何時までって、やっぱりご迷惑ですよね」

そう、ここははっきりと。……言わないと。迷惑だって。


「私達、火事でみんななくしちゃったんです。何もかも。それにお金ももうないし。私も今失業中なんです。仕事もなく、住むところもないんです」

ああああ。そう言うこと言われちゃうと、次に言わなきゃいけない言葉が言えないじゃない。

本当はさ、早く出ていけって追い出しに来たんだけど、ここまで不運な話をされちゃうと、言えないんだよねぇ。私もそう言うところは弱い。


でも何とかしないといけないのは事実。このままじゃ、直登君が大変じゃないのか? それにだ、このワンルームで3人で暮らすなんて絶対に無理があるじゃん。しかも女二人に男一人だよ。

もし直登君が良くても私は納得がいかないんだよね。だってさ、この空間で暮らすって言うことはさ、さらすわけだよね。裸。お互いに。

その私よりも少し……劣るそのおっぱいを。私だってまだ、直登君の前でさらしたことなんてないんだけど。

アラサーのおっぱいは豊満なんだ。あっこれ私の事なんだけど。


で、ふと目にするベランダに干されている洗濯物。シャツシャツ……あっあれ直登君のだ。で、おっとパンツ? んっ、パンツ? 男性用のパンツそしてその隣に目をやるとひらひらと揺れている、男性ものより布面積の少ないパンツ。しかもピンク。その隣に同じ色のブラ。なんか無性にむかつくんですけど。

やっぱりこういう状態はよくない! 


絶対によくないですぅ!!


「あのぉ、私達に出ていけ。なんて言うことは今言いませんよね。少しの間。出来れば今これから住むところを探そうとしているんです。それに仕事も。だからちょっとだけ目をつむっていただけないですか?」

またしても先手を打たれた。

むかついたところで、一気にかたをつけたかったんだけど。でも、でもここは心を鬼にして言わないと。私の心が持たないかもしれない。


『出ていってください』

あううううう。い、言えない。でもこのむかつきと怒りはどうしたらいいんだろうか!


思わずラインで直登君にメッセージを送ってしまった。

内容なんて覚えていないけど、でも多分直登君のことだから、私のこの気持ちわかってくれ……ないか。

はぁ―。


ねぇ誰か教えてよ。これって修羅場なの?



直登談。

これってまさしく修羅場じゃねぇかよ。

爺さん。3次元の女ってめんどくせぇな。

「なぁ直登よ。めんどくさいからこそ。快楽に溺れるのじゃ。悩め。これは試練じゃ」


これで終わるわけじゃねぇんだよな。

ぞくっとまた背筋が寒い。

あくまでも俺は尚ねぇさんと秋穂の対話はまだ知らない。

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