第11話 さてこれからどうする? ACT 7
な、何とか間に合った。
就業開始5分前。ギリギリの出社。ドカッと、自分のデスクの椅子に腰を落とす。
そんな様子を隣の席の
「お、おはようございます。……先輩」
「お、おう。おはよう七瀬」
何かいつもと違う俺のその表情を感じ取ったのか七瀬は。
「どうしたんですか? どこか具合でも悪いんですか?」
「いや、別に具合が悪い訳じゃないんだけど」
「でも顔色悪いですよ。いつもの先輩じゃないみたいですけど」
いつもの俺ってどんな俺なんだ? 七瀬。
「それに今日は遅刻寸前じゃないですか? 本当になにかありました?」
「大丈夫だよ、心配するなって」
俺は精一杯元気に振る舞ったつもりだったが、どうやらそれは逆効果だったらしい。
「あのぉ、もしかして先輩。今日のこと気にしています?」
「今日のこと?」
「今日、私と外回りすること」
そうなのだ。今日は私の初の外回り。営業……。お取引先のお客様のところに行って企画のプレゼンを。あ、そこまでは今日はなかったんんだ。でもいつも電話でしか会話していないお客様と初めて顔を合わせる。そう思うと緊張するなぁ。
それよりももっと緊張するのが、今日はこれから先輩と二人っきりていうこと。
大学を卒業して、この会社に入社して。あの退屈な研修を経て晴れて営業部に配属。そして先輩の指導の元、こうしてようやく初の外回りデビューの日を迎えたのだ。
もう準備は万端。名刺よし! ちゃんとケースごとカバンに入れてある。あとは……特別ないんだけど。今日は顔合わせだけだけだから、別に何にもないよって先輩は昨日言っていたけど、あっ、そう言えば確か今日回る先に見積書提出するところあったんだ。
原案はもう先輩に置くってあるんだけど、先輩ちゃんと目を通してくれたかな?
「あのぉ先輩」
「あん、なんだ?」
「昨日送った見積書、大丈夫でしたでしょうか?」
何気なく聞いてみた。
「んっ? 見積書。あっ、そうだ! やべぇ忘れてた。ありがとうな七瀬」
にっこりと笑顔を返してくれた先輩。ああ、私、あの先輩の笑顔見ているだけで、とっても幸せな気分になれる。
でもなんか今日は初の外回りって言うこともあって緊張しているのかな? なんか体の中がボーと熱くなってくるような感じがするんだけど。
あああん、どうしよう。ほんとなんか体が勝手に。ダメよ。こんなところで……。はっ! 今日はおニューの下着だった。汚したらまずい。
スッと席を立って、おトイレに行こうとした時。部長がひょいひょいと手招きしているのを運悪く目にしてしまった。
間違いなく私に向かって手招きをしているのは確実だ。
もう、おトイレに行きたいのに、いそがないとせっかくおろしたての新品のパンツが汚れちゃう。
仕方なく部長のところに行くと。
「七瀬今日は初の外回りだったよね」
「はいそうです」
開口一番にそう切り出された。
「緊張している?」
「す、少しですけど」
「ははは、そうか、ま、今日は顔合わせ的なもんだし、そんなに緊張しなくてもいいわよ。別に商談するわけじゃないんだし。気楽にね」
にっこりと優しそうに部長は言ってくれたけど、そんなねぎらいよりも今は私おトイレに行きたいんですね。
営業部の部長。年齢36歳バリバリのキャリアウーマンて、もう死語なのかもしれないけど、そう言うのが一番この人にはあっているイメージだ。
でも外見は……。ん―、私行ったことないからよくわかないんだけど、なんかものすごく高級なお酒を出してくれるところのママさん? そんな妖艶な色気をむんむんに醸しだしているんだな。
俗にいう超美人さんて言うんでしょうかねぇ。
こう言う人って男の人沢山いるんでしょうねぇ。で、ひそかに、私のライバルでもあるんですよ。
「池内君も一緒だから大丈夫よ」
その一言、部長が言うとなんかカチンとくる。
確かに先輩と一緒だし。私一人で初外回りなんか出来ないけど、……。
なぜか先輩のことをこの人が口にするときって女の変なフェロモンが飛び交うんだよ。私かだけかもしれないけど感じちゃうんだよね。
まんず、この人。先輩のことどんだけ色気で落とそうとしているんだべか?
おっといけない。つい心の叫びが。
私って東北生まれの東北育ち。しかも過疎の田舎。最近はようやく近くにコンビニも出来て……でも車で10分かかるんだな。冬は雪深くて夏は盆地だから超暑い。周りは年寄りが主体。若い人なんてほんと少ないし、私が通っていた小学校も中学校もついこの前、閉校しちゃったんだよね。
高校まではよかったんだけど。まぁ周りがそうだったからそんなに気にしていなかったんだけど。大学に受かって東京で暮らすようになってから、これはまずいて気づいたんだよ。
私って超言葉訛っているって言うことに。標準語で話しているつもりでも語尾ていうかさ、なんだろうその時は自分も分かんなかったんだけど、なんか変な感じでしゃべっていたみたい。
ようやくそれに気が付いて、意識しながらなんとか世間でいう標準語で話せるようになったつもりなんだけど、たまぁ――に、出るていうのか訛るんだよねぇ。
こんなしゃべり方なんて先輩には絶対に聞かれたくはない。
「ん? どうしたの何か質問でもあるの?」
ちょっとボケっとしている私に部長が問いかけた。
「いえ、何でもありません。今日はお客様に粗相が無いように頑張ってきます」
「うん、よろしくね。ちゃんと七瀬さんの顔を売ってきてね」
そう言ってスッと部長は目線をパソコンのディスプレイに向けた。
もう用事は済んだようだ。
はっと、思い出したように。
おトイレに向かう私であった。
今日は七瀬と外回りの日。
何とか遅刻せずに済んだが、まだ俺の胸に残るあのやわらかい感触。
ん――、でもやわらかさは尚ねぇの方が断然かも……。て、俺はいつのことを思い出しているんだ。尚ねぇのおっぱいに触れたのはもうかれこれ2年も前のことなんだぞ。その感触を俺は今だ持っているというのか?
いやぁでもなんだ、意識していねぇて言えばそれは嘘になる。あの豊満な胸。もといおっぱいに触れてみたいていう願望は今だにある。
もしかして何気なく触っても尚ねぇは何も言わねぇんじゃねぇのかて言う時も多々あったがあれ以来あのおっぱいに触れることいや、尚ねぇの体。女の体に触れて意識することはねぇんだよな。2次元で事足りていたのが幸いしていたのか?
それを思えばなんかとても空しい気分に陥るんだが……。
外出する前にまずはメールの確認をしようと、ディスプレイに目を向けた時。俺のスマホのラインがメッセージの着信を知らせた。
ピンポン!
んっ? なんだ? もしかして秋穂からか? なんかあったのか?
何気なくスマホをのラインアプリを開くと、そこには尚ねぇからのメッセージの着信があった。
「ねぇ――――。ねぇ。直登君。今日は帰り遅くなる? ちょっとさぁ―――。確認したいことがあるんだけど」
そのメッセージを見た俺は。
背中に何か冷たいものが、重くのしかかったような感じがした。
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