第10話 さてこれからどうする? ACT 6
思わず意識が崩壊しかけた。
頭の中にヒヨコさんが三羽ピコピコと、宙を回っているイメージが思わず浮かんでくる。
「はっ!」今は呆けている場合じゃない。遠のきそうな意識を戻し。こぼしたコーヒーで汚れたシャツを脱ぎ捨てる。
プルンとあらわになるおっぱい。ちらっと姿見に映る自分の体を目にして「体には自信があるんだけど」と自分に独り言。
急いで髪をとかし、最近またちょっときつくなってきたブラをなぜか朝立ち? 突起している部分を押し込むようにつけ、後ろのホックをパチンとかぎつけた。ついでにパンツも交換。クローゼットの中から淡いグリーンのカッティングシャツを羽織り、スカート……に目がいったがジーンズを手に取り履く。すかさず、顔を洗い。特急お急ぎメイクで下地を作り、リップを薄く塗り込む。
「良し。不自然じゃない……よね」
自分にそう言い聞かせ、いざ、直登君の部屋へと向かった。
もう一人の女はちらっと顔を出しただけでまた部屋の中に戻った。ということはまだ直登君の部屋の中にいるって言うことだよね。
どうするか? 正々堂々と呼び鈴を押して殴り込むか……。それとも裏に回ってベランダの窓から、そっと様子を伺ってみるか?
そんなことをしたらますます怪しまれるだけじゃないか! でもこのまま引き下がるわけにはいかないしなあ……。
よしっ! こうなったら正面突破だ!! 私は意を決してドアノブに手をかけた。
するとその時、いきなり扉が開いて、目の前に可愛らしい女の子? いやいや私よりちょっと若いかおんなじくらいの年頃の女性が目の前に立っていた。
「あっ!」と、お互いに声を出す。
「えっと、な、何でしょうか?」その女性は私を見るなりそう聞いた。
それはこっちのセリフだ! と言いたかったがここは冷静に。
「あのぉ、池内直登さんはいらっしゃいますか?」
もうすでに会社に向かっているのを知りながら私はその女性に聞く。なんかちょっとむかつくような感じを抑え込むように。
「えっと。あっ、直登君ですか? 直登君なら会社に行きましたけど」
うんうん、それは知っている。しかもだ制服姿の女子高生と一緒にここから出かけたのをちゃんと見ているんだから。
彼女は不思議そうな表情を浮かべていた。
そりゃそうだよね。こんな時間に突然やってきた見知らぬ女性が、自分の部屋? を訪ねてきたんだから。
しかも男の部屋にだ。
しれっと返すところがなんかまたむかつきに火を注いだ。
「あのぉどちら様でしょうか?」
どちら様? だと! その言葉そのままこっちが返してやるぞ!
「えっと、私。ここのアパートの大家の川羽と申します」
その女は一瞬ギク! とした表情をしたがすぐに。
「あらまぁそうなんですね大家さんでしたか。お世話になります」
しれっと、こんな対応ができるとは。そこらの不作法女って言う感じゃない気がした。なんかどちらかと言えば主婦? ナニナニ! この人旦那持ちなの? なのにこんな朝早くからいやいや、きっとこの女も夕べはこの部屋に泊って一夜を共にして、そのなんだろうか……うーーーーーん。ああああああ! その言葉が頭に浮かんでは来るが、頭の中で言葉として認識するのを拒んでいる。
「それで大家さんがどのような御用でしょうか?」
そう聞かれ、はっとして本題に切り出そうかと一瞬迷ったが、ここまでくればもう話すことはその触れてはいけない部分。いや、触れる部分だ!
「あのぉ、あなた直登君とどのようなご関係なんですか?」
かなり直球! まどろっしく、遠回しに聞く余裕なんか今の私にはない。
大家と店子の関係。先代の大家。死んだお爺さんはよく言っていた。
「大家は、店子の親見てぇなもんだって」
その時はよく意味がわからなかったが、今ならわかる気がする。
「私はこのアパートの大家です。それでこちらは私の管理物件に住んでもらっている直登君の保護者みたいなものです」
自分で言っていて少し違和感を感じたが気にしないことにした。
彼女は、驚いたような表情をして「へー、今時そう言うこと言う大家さんもいるんだ。お若いのにしっかりされている大家さんなんですね」
「いやぁ―、それほどでもないですけど」褒められている気がして少し顔がにやつく。
いやいや。そう言うことで気を許してはいけない。
本題本題!
「それで、あなたと直登君のご関係は?」
「関係? ですか?」
「そうです。ご関係です。一応ここの契約は直登君一人での利用ということでの契約ですので」
「あっ! そう言うことですか」
その女は動じもせずに、なんか当たり前のように。
「ええっとですねぇ。ちょっと訳ありで、ここに居候させていただくことになったんですよ」
居候? ていうことは何一緒に住んでいる? いや昨日まではいなかったから。これから一緒に住むということなのか?
宣戦布告!! 現役主婦の貫禄か?
「あのぉ、ちょっと込み合ったというか訳ありなんで。こんな玄関先で話をするよりも中に入りません? お茶でも差し上げますけど」
うううううううううっ! その言動もうなんだこの! この部屋の住人気取りに無性に腹が立ったが、ほかの住人の手前、ここで口論中していたら印象悪いし。まっ、知らないと言うかほかの店子さんのところには入ったことは、ほとんどないんだけど、直登君のところは直直出入りさせてもらっているから、遠慮と言う言葉が出てこなかった。むしろそっちが遠慮してほしいくらいだ。
今まで、男一人で暮らしていたこの部屋に女の臭いがこびりつく。
直登君の臭いが消されていくこの感じは怒りに変わりそうだ。
そんな私を見つめてその女は言う。
「もしかして怒っていますか?」
「はぁ? なんで私が怒こらないといけないんですか?」
「だってそういう風に見えるんですもん」
「そうですか。ならそれでもいいですけど」
自分の家で今まさに女の戦いが静かに幕を開けようとしているのを、俺はようやく遅刻すれすれで出社した会社でぞくっと背筋に悪寒を感じながら。知るわけもねぇだろ!!
それでなくてもここまで来るのに、優奈とのあの密接な触れ合いの感触がまだ残っている感覚で、ドキドキしてるて言うのに。
俺の知らないところで火種は今ガソリンをまき散らかされている状態で、一気に引火して爆発を起こそうとしている。
俺の胸の中はもうパンク寸前なのに、これを知ったら俺は確実に心臓麻痺を起こして死ぬかもしれねぇ。
だからまだ知らされていないことが唯一の救いになっているんだろう。
そして会社に来ればこの俺にまた降りかかる災いが、待っていることをまだ俺は知らなかった。
なぁ、天国の爺さん。いったい俺どうなちまったんだ?
「直登よ! これはお前に与えられた試練じゃ。現実の女は厄介じゃが、あの吸い付く肌と温かさはその厄介ごとなんかふっとばしてくれるんじゃ。一線を越えてからが快楽じゃ。ほ、ほ、ほ」
あっ! このエロ爺めが……!
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