第9話 さてこれからどうする? ACT 5

そんなわけで俺は今、あのアパートで暮している。まぁ住めば都と言うか。尚ねぇさんともゲームなんか一緒によくやるし、たまに飯もおごってもらえたりしている。

俺が入居してからすぐに次の入居者が決まり、あっという間に2棟かける3の6部屋は満室となった。


まっそれはそれで尚ねぇさんにも何とか貢献できたのかもしれない。

何を貢献したのかはよくわかんねぇだけど。


それ以来俺と尚ねぇさんとは、大家と店子の関係ということになっている。

そしてもう一つの尚ねぇさんの趣味も知ることになる。

なんと尚ねぇさん。コスプレヤーでもあったのだ。


それも専属の事務所と契約するほどの有名人でもあった。もちろんコミケなどと言うイベントがあれば彼女は全くの別人の姿でそのキャラになり、くろだかりするオタクたちにその姿をさらすのだ。

現地でその姿を見た時、俺はなんとも複雑な気持ちになっている自分がいたのに気が付いていた。


出来れば尚ねぇさんを独占したいという気持ちがないと言えばウソであるが、そこは抑えることにしようと、思った。

だって俺と尚ねぇさんはそう言う関係じゃないんだということを、俺は心の中に秘めているからだ。

今のこの関係が俺らにとって一番いい関係だからだ。


少し時間が前に行き過ぎたようだ。実は俺と優奈が玄関から出ていくところを、ばっちりと尚ねぇさんに見られていたのだ。


そうそれは朝の話。今からほんの1時間前くらいのことだ。

「それじゃぁ行ってくる」と、秋穂から「なんか夫婦みたいだね」と茶化され少し動揺している俺。

優奈と共に家を出るところ。その姿を尚ねぇさんは、ばっちりとみていたのだ。



「ん――、朝のコーヒーは目覚めの一杯」自宅の母屋の窓から外を眺め。優雅にも朝のコーヒーを楽しむ。


「ああ、なんて私ってこんなにも美しいのかしら……」そっと鏡をのぞみこむと、そこには、ぼさぼさとした髪。パジャマ代わりに着ている何の意味を成しているのか分からない文字『うけけら』? と大きく書かれたシャツを羽織っただけの姿が映し出される。むろん下は……ピンクの下着がシャツの端からはみ出すようにチラチラと見える。


最近の鏡って、疑似画像も映し出すようになったんだ? 

て、言うかさぁ。この鏡は何年私をこうして映し出しているんだろうね。

その姿見を見ながら、これが本当の自分であることになぜか安堵する。


こんなにも寝起き満載でだらしない格好の姿が。

コスプレの衣装を着た時もこの鏡で自分を映し出すが、その姿は自分ではないのだ。

これが私の本当の姿であるのなら、私はこのままでいられるんじゃないかって。最近は本当の自分の姿がどこにあるのかが分からなくなってきている。……少し病んでいるのかもしれない。

そう思うと、また涙が出そうになるけれど、それはもう諦めたからいいや。


「あーあ」

ため息をつくと、少しだけすっきりした気がする。


何気なく窓の外を眺めながら、コーヒーカップを口につけ口に含もうとした時。

「んっ?」と、気になる? いやいや気になるという光景ではない。これは非常に由々しき事態であることをとっさに察知する。あまりに喪衝撃的なその光景に思わずカップの中の熱々のコーヒーをダラーっとシャツの上に垂れ流してしまった。


「うわぁぁっ!! あつぅうううう!!」

ほっぺをつめることもなく、胸にこぼれたコーヒーの熱さの刺激が、今この目に飛び込んでいる情景が、嘘ではないことを教えてくれた。


「マジ? 直登君が女……制服姿の女子高生と朝一緒に玄関から出てきた」ぞ!

誰? あの直登君に女? うっそだろう……しかも朝一緒に。て、言うことはさぁ、夜一緒だったということで、夜一緒に過ごすということはさ。――――な、直登君の部屋にはベット一つしかないよね。


まさかまさかまさか……。やばいよ、やばすぎるよ。

でも、そんなはずはないだろうし。きっと何かの間違いだよね。

でも……もし本当だとして……。


いやいや、そんなわけはないと思うけど。だって直登君だよ。

あんなオタク一本。2次元の女にしか勃起しない。変人直登君だよ。

それが女。年下の。しかもあの鉄壁の鎧女子高生の制服を着た女の……子とやちゃうなんて。


な、直登君。ちゃんと避妊はしたよね。出来ちゃったら……どうするの? 私だったらできてもいいけど。直登君のなら。あはっ! もう出来ちゃうまでのその行為がもういいのよ直登君。我慢しなくても私ならあなたの望むことなんでも受け入れちゃうから。


もしかして直登君って制服フェチだったの? それなそうといってくれれば制服衣装であなたの寝床に忍び込んでやったのに。バリエーションは無限よ。セーラーがお好み? それともブレザー系? なんでもあなたの好みに合わせるわよ。これでも私はプロなのよ。プロのコスプレーヤーなのよ。


もう、衣装なんかどうでもいいわよ。どうせ裸になるんだから。私の一糸まとわぬこの姿に、あなたはむさぼりつくのよ。ほら来て、そうよ……ああああああ!

はっ! 私何妄想の世界に浸ってるのよ。そんなことしている場合じゃないでしょ。事件よ! これは。


そう、犯罪よ。……でもちょっと待て。もしかして妹さん? いや、そんなことはないはずよ。だって直登君には妹はいないはず。そこはちゃんと調査済み。

つまりはですよ。今まで生身の女には縁のなかった直登君がこうして、女子高生と朝まで共にしているという現場を見てしまったこの事実を問い詰めなければ。


まずは直登君のお部屋の外観からチェック。そうこれはあくまでも大家としての仕事。

店子の生活状況を大家はちゃんと見定めなければいけないのだ。特に直登君は、事細かにチェックしないと。


と、その時だった。また彼の部屋のドアが開いた。

んっ? なんで直登君の部屋のドアが開くの? もう直登君は出ていったはずなのに。


そしてそこから出てきたのは。秋穂。

はぁ――――! また女が出てきた!


何よこれって。


な、直登君。あなた二人も女囲っていたの? そんなに溜まっていたの?

ああああああ! もったいない!


――――そう言うことじゃないと思うんだけどねぇ。

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