第7話 さてこれからどうする? ACT 3

自意識過剰なのか俺は?

それとも女子高生と言うのは、こんなことじゃ動じないとでもいうのか?


確かに故意に俺が、彼女の体に触れていたわけじゃない。事故とでも言うか、これは仕方がないことでもあると言えばそうとも言える。

そんなこといちいち気にしていたら、この満員電車での通勤通学は出来ない。そう割り切っているのかもしれない。


「なんで誤ったんですか? 直登さん」

「なんでって、ほら、その……。不快なと言うかなんと言うか。思いさせちまったんじゃないかと」

「まぁ確かに不快でしたね」

うぐっ! 矢が胸に一本刺さる。


「でも別に謝ることないですよ。だってあの状況じゃ仕方がないじゃないですか」

「あ、うん。そうだよね」

ちょっとだけホッとする。よかった。怒らせてしまったわけではなさそうだ。


「それにしても直登さん、朝から大変ですね。毎日こうやって出勤しているんでしょう?」

「まぁ仕事だから仕方がないよ。もう慣れたけどね」

「ふーん。サラリーマンも大変なんだなぁ」

「…………!」

一瞬ドキッとした。何気なく発せられた一言だが、俺にとっては聞き捨てならない言葉だ。


「いやぁ―、でも今日は特別と言うか。いつもはあの電車もっと空いているんだけどなぁ。どうしてなんだろ。今日はめちゃ混んでいたんだよな」

「そうなんですか。いつもこんなに混んでいるんだと思っていましたけど」

「たまたまだよ。運が悪かった」

「ふぅーんそっか」そう言って優奈は立ち上がる。


「大分落ち着いたみたいですね。私はここからでも学校に行けますけど、直登さんはどうされます? ここじゃないんでしょ降りる駅」

そうだよな一駅乗り越してしまった。まぁここからでも会社にはいけねぇわけじゃないけど。


「俺も、ここから歩いていくか」

優奈はにっこりとして「そうですか、じゃぁ私はもう学校に向かいますね。直登さんはもう少し休んでから動いた方がいいと思いますよ」

そう言われたが「いや、大丈夫だ」今度は言えた。


俺もベンチから立とうとした時、優奈の手が俺の肩に触れそっと耳元で呟いた。

「直登さんて、おっきいんですね」

「は?」

おっきい? 一瞬何のことかわからなかったが。すぐにその意味を習得した。

純情な女子高校生から、そんな言葉が出てくるとは――――! 


おいおいおいおい!! 俺は今ゲームの中にでも入り込んでいるのか? こんなにも美人な制服姿の女子高生から、「おっきい」なんて言う言葉を耳打ちされているこの風景をあえて脳内で2次元かしてみるところが俺らしい。


「ごめんね、変なこと言っちゃって。それじゃあまた!」

そう言って彼女は俺から離れていった。

俺は彼女の後ろ姿を眺める。

「はぁー」とため息が出た。

彼女の後姿を眺めながら。

「おい、大人をからかうんじゃねぇぞ!」そう呟く俺だった。



さて、ここでちょっと時間を巻き戻そう。



俺と優奈が玄関から出ていくとき。俺は気が付かなかったが、その姿をばっちりと目にしていたある人物がいた。


俺の住むアパートは築三十年ほどたつ、年期の入った建物らしい。しかし外観と六部屋ある各部屋は、二年前くらいに大幅なリフォームを施した。

おかげで、本体は古いが、見た目はマンション並みに綺麗だ。


ここに引っ越しをして今ではもう2年。そうなのだ。リフォームしてすぐに俺はこのアパートに越してきたのだ。


家賃はリフォーム仕立てと言う事もあり、少々お高い感があるが、会社からの住宅補助の支給がある。独身者の支給には妻帯者より低い上限が設けられているが、毎月5万円の住宅補助はかなりの優遇措置だ。


会社自体は表向きホワイトを装う企業だけに、これはそのアピールポイントとして会社側は大いに表ざたに求人にも記載している。

まぁ、実際どこもそうとは言えないが、うちの会社は表向きだけ、ホワイト。中身は腹真っ黒な会社というイメージしか今の俺には持ち備えていない。

しかもこうした企業のイメージ作戦の転換を実施し始めたのが、ちょうど2年前からだ。

俺がアルバイトで仕事していたころは、真っ黒なブラック企業のお手本のような企業だったというのは記憶にまだ新しい。


大学時代から住んでいたアパートもいい加減、会社との距離もあったし。それに金銭的にも余裕が出てきたこともあり引っ越しを決意。会社からの住宅補助が出るということが、大いにこの行動に拍車を掛けたというのは言うまでもない。

そしてこの物件にたどりついた。正直言えば不動産屋巡りなどをして探したわけではない。


たまたまということであればそうかもしれないが。同じゲーム仲間。SNSで仲良く絡ませていただいていた。ハンドルネーム『モペットさん』。オフ会でも何度かリアルに出会ったこともあり、リアルでも意気投合できるアラサーのおねぇさん的存在の彼女。

本名は川羽尚かわうなお。年齢は……。自称アラサーとだけ言っておこう。


何気なく会話に中で、引っ越しを考えていることを送ると。

「もう新しいところ決まっちゃてるの?」と返してきた。

「いやまだだけど。これから不動産屋回りしないといけないんだけど」

すぐさま返信で。

「だったらうちのアパートに来なよ」

「うちのって?」

「あっ私さぁ―、アパートの運営ていうか管理人してんだよねぇ。建物自体はちょっと古いんだけど、リフォームしたばかりなんだよ。で、今絶賛店子たなこ募集中なんだよね。どうかな?」


「へぇ―、そうなんだ。じゃ見学させてもらおっかなぁ」

「いいよいいよ。気に入ったら即入居できるよ」

尚ねぇさん。俺はそうリアルでは呼んでいる。

「尚ねぇさんのところならなんか安心できそうだな」その一言の後すぐに住所が送られてきた。

その住所地からは、会社への通勤も今よりもはるかに近いし短縮できる。しかも立地条件は抜群だ。


「じゃぁ今から行ってもいい?」

「いいよぉ―! 待ってるから」


こんなにも早く新天地候補情報が舞い込んでくるとは思ってもいなかった。最も尚ねぇさんの物件も、今はあくまでも候補の一つとして見学をさせてもらうつもりでいた。

到着して目に入る建物。平屋の並列建て。


屋根のところにでっぱりの小窓があるって言うことは、ロフト的なものもあるのか? 見た目はおしゃれな感じのアパートだ。

本当かよ。

に、しても、この住宅地になんとも土地を贅沢に使っている感じのアパートの建物が建っている。

そしてこの2棟のアパートの横には、立派な一戸建ての家が同じ敷地に存在していた。

俺の事を見つけたのか尚ねぇさんがその家から出てきた。


あの時も夏の暑い日だった。

タンクトップに短パン。スタイルはいい方だと思っていたが、こうしてあまりに、もろラフすぎるこの姿に俺の目は一気に尚ねぇさんの体へと視線が移る。


「やぁ、いらっしゃい直登君」

オフ会で会う時は、だっほりとしたジーンズに意味わかんねぇ文字柄の半そでシャツを着て、ぼさっとした髪の毛に黒縁眼鏡をかけている。いわゆる何と言うか最初に出会ったときは引きこもり専門の女子と言うイメージが先行していた。

しかし、性格自体ははじけ飛ぶような明るい感じの人だった。外見とは不釣り合いと言うか、外見だけで判断してはいけないというお手本のような人だ俺は感じた。


正直SNSの中ではかなりイケイケの破天荒な女性であるという感じを受けていたから。

初めてリアルで出会ったとき「なんすか? その恰好。オタク系ファッションですか?」と思わず言ってしまい。

後で落ち込んだ彼女を引き上げるのに一苦労したことがある。


で、今俺の目の前にいる、尚さんのその姿は見事なまでに、大人の色気を満載させ、詰め合わせのこのボディーを見てくれと言わんばかりのオーラを感じて仕方がない。

目のやり場に困る。

これほどギャップのある人だと、どう対応していいのか。

分かんねぇ。


タンクトップからあふれ出る彼女の豊満なおっぱいが、歩くたびに微妙に揺れ動く。

男と言うのは意識せずとも視線はおのずとその微妙に揺れ動く、二つのやわらかそうなふくらみを見入ってしまうものなんだろうか。


基、俺は尚ねぇさんの胸を見に来たわけではなく、新たな新居の下見に来ているのに。


意識よ。――――戻ってこい!

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