第6話 さてこれからどうする? ACT 2

二人で家を出た。優奈と。

制服姿の女子高生。その子と同じ部屋の扉から一緒に出て共に道を歩く。


女子高生の制服と言うのはそれだけで、強力なアイテムだ。

優奈と肩を並べ歩く。……それは俺にとって初めてのこと。(当たり前? のことだけど)

制服姿の女子と同じ向かうべく方向に進んでいく。


中学の時も。高校の時もなかった。

それが今、こうして現実に起こっているのだ。

当然会話などはない。


あの角を曲がれば、商店街の通りに出る。今よりも通りすがる人の数は跳ね上がる。

ワイシャツにネクタイ。スラックスをはくどこから見ても会社員と言う、世間一般のこの姿の男といる女子高生。人の目にはどんな感じで映っているんだろうか。

朝、こうした男女が二人歩く姿を。


別に肩をならべて歩く必要は……ない。

そうだならば俺が少し早く歩けばいいんだ。数歩前に出て、優奈が俺の後ろから歩いてくる。

そうすれば別に俺たちは、関係性のある二人じゃないって見られるだろう。

多分……。

早速歩く速度を速める。


ずんずんと前に前に、進め。そして優奈との距離を離すんだ。

よしよし、優奈と少しづつ離れてきたぞ。これでいい。て、でもやっぱもう夏なんだよなぁ。

こうして少し歩くの早くしただけで、じわっと汗がにじみ出てきやがる。


俺との距離が出たのを、ようやく優奈は感じ取ったんだろう。彼女も少し歩くのを速めた。

……なんで?

俺と一緒にいるのはよくねぇだろ。

「ちょっと待ってください!」

優奈が後ろから声をかけてきた。その声にぴたりと体が反応して、足が止まった。


「どうしたんですか? いきなり速足になって」


その問いに。「ほら、電車急がないと間に合わないんじゃないのかなぁ」

「今日は出るの遅かったんですか?」

「あ、いや少しね」

「やっぱり私達がいたからですよね?」

シャープでキレ整った顔が少し上気して、赤らんだ顔になりなりながら優奈は問う。


「そうなんですよね。私たちのせいなんですよね」

すれ違う人の耳の収音率がやけに気になる。

「泊ったのがいけなかったんですよね」

わっ、それをこの場で口にするか! いらぬ誤解が生まれそうだ。

今、すれ違った男の人の足が一瞬、止まりかけたように見えた……のは気のせいだろうか?


たらりと汗がにじみ出る。これは冷や汗と言うものであろう。

「そうじゃないけど」

とりあえずは否定してみる。ああああ! 生の女子高生とこうして会話するのが、こんなにも大変なことなんだということを今、俺は身に占めて感じている。


2次元の中じゃもとい。ゲームじゃ気兼ねなく対話できるんだけどな。いや、積極的に口説いている。

それなのに、どくどくと心臓が鼓動している。朝からこれはちょっときつい。


駅の方から続々人の波が押し寄せてくる。

多分急行に乗っていた人達が降りてきたんだろう。

そうすればもうすぐに各駅停車がやってくる。

会社の最寄駅までは三駅。各駅の電車に乗るのがいい。それに急行の後の各駅停車は若干すいている。すし詰めではない……はずだったが、今日に限って。なんだこりゃ。


すげぇ混んでる。


途切れた会話ののまま、俺と優奈は同じ方向の電車に乗る。

押しつぶされるように二人の体は触れ合う。

半袖の腕。お互いの腕の皮膚がぴったりとくっつき、その感触が伝わる。


女。女性の肌にこんなにもぴったりと、触れるなんて何年ぶりだろうか。中学の時プールでふざけて、女子の体に抱き着いたことがあったのを思い出す。あの後、抱きついた女子にいじられ、しばらくトラウマに陥った。

実際、肌がちょっと触れ合うことが、今までまったくなかったかと言えばそれは否であるが、こうして意識させられるくらいの触れ合いはなかったということだ。


あの中学の時のようにダイレクトに、その感触を感じるほどのことがなかったということである。

あの時、その女子にいじめられたということではなく。抱きついたときに感じた、女の子の体のやわらかさにとらわれてしまったということであり。

その感触の良さのあまりについ告ってみたら、速攻フラれてしまったという過去の経緯が付いているだけなのだ。


そんな過去の黒き思い出を双幅している時、ガクンと電車は速度を落とした。

次の駅に止まる。

その反動で、優奈の体は俺の体に密着する感じになった。

すぐに離れようとしたが、乗り込んできた乗客の圧でさらに押し込まれていく。

そして伝わる……。もう一つの優奈からの別な感触。


170cmほどの身長の俺。その身丈に近いほどの身長がある優奈の体が、ぴったりとくっついている。

「す、すみません。汗臭くないですか?」

なぜ今そんなことを言う? 臭いよりも、もっと気を遣うべく事があるのではないか? 


俺の胸に感じる二つの柔らかな感触。

思っていたよりも当たる面積は大きいのでは?

電車が揺れるたびに、その柔らかな感触が振動を伝えるかのように、俺の胸にその感触を伝えてくる。

朝見た秋穂の生おっぱい。

思わず、あの柔らそうなおっぱいがまたはっきりと浮かび上がってくる。


その反動もしかるに。まことに素直な俺の下半身が起き上がってくる。

その起き上がる部分が優奈に触れないように、悟られないように。……したが、まったく腰を引くことも出来ず、その反応を抑えることに集中しているつもりであるが、この柔らかな感触とふと目にする、優奈の顔を見つめると、必死な状態で押さえつけるのも、もう困難である。


しかしだ。今朝の俺のあの努力は無情にしても破壊されてしまったが。今この状態でまた、彼女に見られ? じゃない今度は体に直節触れてしまう。

それもその位置も絶妙なところで彼女は、感じないといけないというこの状態。

ああああ! もう限界です。


昨日初めて出会って、一夜を過ごし。やましいことはしていない。だが、今朝失態を見られ、今また、過剰反応していることに気づかれてしまう。現役の女子高生に。

ああ、絶対に思われるだろう『この人変態だ』って。

ちらっと優奈の顔を目にすると、顔が赤い。


あっ! もう自分ではコントロールできていなかったんだ。その時にはすでにもう遅かった。俺のこの努力はまたしても非努力に終わっていたことを知る。

いけないのは俺じゃない。こんなに混んでいる車内が悪いんだ。

いつもならこんなに混んではいないのに、なぜ今日に限ってこんなにも混んでいるのか。そのことが恨めしい。


結局、降りることが出来たのは、一駅を通り越したところ。

電車を降りた俺の息は荒い。朝からこんなに疲れたのは初めての経験だ。

そんな俺を見て「直登さん大丈夫ですか?」と尋ねる優奈。

「うん、大丈夫だ」と答えたかったが、その声さえ出すのに苦をしている。

「そこのベンチで少し休んでいきませんか? 顔色悪いですよ。真っ青です」

そりゃぁ悪くもなるだろう。これだけ頑張れば。

でも俺はいったい何を頑張っていたのか今更のようだが、分かんねぇ。

ベンチに腰掛け、ようやく息が落ち着いてきた。


そして「ごめん」と優奈に謝る。

その一言に彼女はきょとんとしながら。こう返したのだ。


「何がですか?」と。

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