第5話 さてこれからどうする? ACT1

三人で卓を囲む。とは言え小さなテーブル三人で使うには無理があるので、俺はトレーに乗せてベットに腰掛け、優奈が作ってくれた朝食にありつく……が。


なんともこの重く気まずい空気は、重力が突如二倍になったように俺の頭上からのしかかる。


一人能天気にパクパクと飯を食らう秋穂。


みそ汁にハムエッグ。納豆のパックはちょうど3個あった。

こうしてみると冷蔵庫の中には、それなりのものがあったようだ。

自炊習慣があるわけではないが、ふらっとスーパーに立ち寄る癖はある。

行けば何かしら買っている。

でも、結局は冷蔵庫の肥やしとして、気が付けばゴミ箱行きと言うのが落ちである。


男一人、自炊するよりは弁当でも買って食べたほうが、簡単であることは言うまでもない。腹さえ満たされればそれで済む。

まっ、会社員として毎月サラリー、給料が入ってくるから、馬鹿みてぇな豪華な食生活を送らなければ何とかやっていける。


唯一の贅沢と言えば、趣味に投じる金は別もんだ。

多分これに関しては、たとえ食費がなくとも投じるであろう。

それで餓死するのなら本望だ。

……おいおい、そこまでするのか? と思うかもしれねぇが、俺のこの趣味に対する思いはそれほど重要なのだ。


しかし、現状は今までのこの生活を、強制的に変えようとしている。

突如連絡をよこした初恋の? 秋穂は俺の事初恋の人って言っていたけど、本当なのかといまだに信じられないけど。

秋穂とその娘……優奈が昨日なだれ込んできて。なだれ込むという表現はよくないか。今まで住んでいたところが火事で焼け出され、住むところを失った母とその娘。

自分のクラスメイトが、母親であるということへの何と言うか、違和感的な気持ちはあるが。秋穂は高校生の娘を持つ母親であることは間違いがない。


で、これからどうするかだ。


ズズズッとみそ汁をすする。

んっ? 上手いじゃないか。この味噌汁、どことなく懐かしい味を覚える。

お袋が作るみそ汁の味に似ているような……気がした。

これをあの優奈が作ったんだ。いつも料理をしているのは本当のようだ。


で、秋穂。お前は料理できんのか?

この能天気な顔を見ていると、娘の方がかなりしっかりしているんだと俺は感ずいてしまう。


さて、さて。そう言うことを考えている場合じゃない。

これからどうするかだ。

何とか一晩は泊めたが、このワンルームの部屋に女二人と俺の三人が住むのは、正直無理があるは考えるまでもない。

しかも今朝のあの状況。

年頃の女性に対しては刺激が強すぎたか。

色々と気を遣わねぇといけねぇ。


まだ気にしているのか優奈からは、あれからひと言も俺に口を開いてこない。

だよな。あんなもの見ちまったら。グロイよな。

直接じゃなくとも、あの張り方は想像するに自分でもかなりグロイ。


女のおっぱいの突起の方が、はるかに俺的にはよいものだと思う。

生おっぱい。秋穂のあの生おっぱいはまだこの瞼に焼き付いている。あの残像だけで多分2発はいける。そんなことを考えると素直な。素直すぎる俺の下半身の反応に苦慮する。

もうスラックスを履いているからスエットの時のように直に見えねぇし、それに優奈は俺に背を向けているから今のこの反応に対しては見えねぇ。


いやいや、そんなことじゃねぇ。

今はそんなことに惑わされている場合じゃねぇんだよ。

どうすんだ実際。


朝飯食ったら俺は会社に出勤しねぇといけねぇ。……今日は、今日は急病で休む。ということも考えたが。む、無理だ。

今日は取引先への外回りもある。アポも取っちまってるから、今更予定変更させるわけにもいかねぇ。

それにだ今日は後輩の七瀬友香ななせともかの初外回り。いわば客先へのデビューの日でもある。

このために彼奴相当準備していたようだから、今日は行けねぇなんて言ったらへこむだろうな。


大卒の新卒入社の七瀬。

研修から俺の部署に配置され、雑用をしながら仕事を覚えさせ、ようやく今日、客先に赴く機会を得たのだ。


「先輩明日は、よろしくお願いいたします」

昨日深々と頭を下げて、俺に意気込みを伝えて来ていた。

やっぱり休むわけにはいかねぇ。


「優奈もう、出ないと遅刻しちゃうんじゃない?」

秋穂のその声に優奈は時計を見て「うん、そうだね。ここからだと今までよりも早く動かないといけないからね」

「そうそう、あと少しで夏休みだから、大変だけど頑張ってね」

「うん、分かってる」

そんな二人の会話を耳にして、俺ももう出ないといけねぇ時間になっているのに気づく。


「あっ! やべぇ俺ももう出なきゃ」

「そうなんだ直登君もいなくなるのかぁ」

いなくなるって、ここは俺んちだぞ。帰ってくるから。

「一人っきりかぁ。何しようかなぁ」

能天気な声で秋穂が言う。


「もう、お母さんはやることあるでしょ。お仕事も探さないと」

「そうだよね。あっ、そうだねぇねぇ、直登君。このパソコン使わせてもらってもいい?」

秋穂はノートパソコンを指さし、俺に問う。

「べ、別に構わねぇけど」

このノーパソなら廃棄しようとしていたから、見られて困るようなファイルは入っていねぇから別にいいか。

まっ、秋穂のことだから、ネットでも見ているだけだろうし。


「ありがとうね。じゃぁ借りるね。これで何とか退屈しないで済みそうだよ」

にんまりと笑う秋穂の顔を見て、そのあとに俺の視線が胸に。秋穂のおっぱいに移動する。

触るとやわらけぇんだろうな。

触りてぇ。

その欲望をぐっと抑え、三和土で靴を履く。

優奈も一緒に出るようだ。


「二人ともいってらっしゃい」

にっこりとほほ笑み秋穂が見送る。


ドアを開け「それじゃぁ、行ってくる」そう言うと。

「ねぇ、直登君。私達、なんか夫婦みたいだね。チュッしてあげよっか」

「ば、馬鹿な。何言ってんだよ」

「あはっは、直登君顔赤くなっている。純情だね」

その横で優奈がちょっと不機嫌そうに「フン」と鼻を鳴らす。


「それじゃ二人とも行ってらっしゃい」そう言ってぱたんとドアを閉められた。

なんだか、追い出されたような感じがしたのは気のせいか?

ここは俺んちだぞ!


そんな俺たちの姿を凝視する目があることに。俺はまだ気づいていない


「直登よ。障子に目あり壁に耳あり。垣根の裏には……」

これは爺さんからの忠告か?

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