第2話 こぶ付きですけど、お世話になります。ACT2

この出会いはもしかして仕組まれたものなんだろうか。


だとするならば、俺は秋穂の事をもっと早くからゲットしていればよかったのかもしれない。


偶然、俺の勤める会社に中途採用の面接に来た秋穂との再会。

およそ八年ぶり? 中学の同窓会、高校の同窓会に今まで姿を見せることもなかった春日井秋穂かすがいあきほ。俺はよく思う。同窓会で会う女子の変貌ぶりには目を疑うと。


まったく昔の面影が枯渇していて、あの良き時間の思い出がパズルのように崩れていく思いを同窓会が行われるたびに感じていた。

しかし、秋穂は違う。

あの頃の面影そのままだ。


ほとんど変わらねぇ。それだけはなんか近親感がわいてくる。

だが、それだけだ。


その外見と、懐かしさがこの俺を惑わせたのか、彼女とラインの登録をしていた。


「なにこれ『直吉』だってぇ。似合わないねぇ」

うるせぇ! 個人の自由だ! と、言ってやりたかったが秋穂の方も『プリティー秋穂』なんて表示されたから笑ってやった。


「あっ、ひどぉ―い。そんなに笑わなくたっていいじゃない」

ちょっとむっとした顔が中学生の頃の秋穂を思い起こさせた。どちらかと言えば俺の中では高校の時よりも中学生の時の秋穂の面影が蘇ってきている。


それはどうしてかは分からないが……。


まぁそれはいい。それから二日後、ことは動き出した。

スマホに秋穂からメッセージの着信があった。


プリティー秋穂:「今晩時間取れる? 相談したいことがあるんだけど」

唐突な一件のメッセージ。

なんだ、相談したいことって……。


一般の。これは会社仕事関係以外の女性から、メッセージなんて来ることなんてない俺。

久しぶりに出会ったクラスメイトからのメッセージ。

正直、下心が渦巻いた。


直吉:「わかった。待ち合わせどこにする?」

返信を送ると即座に既読がついた。

タイミングが良かったのか? ほんとそれくらいにしか思っていない俺。


プリティー秋穂:「……。出来れば、直登君の家がいいなぁ」

はぁ? 俺んち? ちょっと待てよ――――て、――――はっきり言おう。下心が暴れている。


プリティー秋穂:「ねぇ、住所教えてくれない。近くで待ってるから」

少し躊躇したが、もはや俺の下心は暴走していた。

あっさりと住所を伝え、定時ばっちりに会社を飛び出した。


はやる気持ちを落ち着かせるため。――――これは建前、購入したのは酒とつまみ。

二人で飲み明かそうという思惑が行動に出ていた。


緩みっぱなしの良心と、俺の家に女が来るというイレギュラーな出来事に期待を馳せている。

あわよくば、クラスメイトだった彼女といいことができる。


いいこととは――――大人の社交辞令である。


むろん、俺はそんな経験は今まで訪れていない。――――つまりは童貞アラサー男子。しかもエロゲーオタク。

この部分をかいつままれると、非常にやばい人種になるが、会社ではそれなりに人望も厚く、二十代で主任と言う地位をも得ている。

最もバイト時代の経験も飼われているのは言うまでもない。


家の近くまで来た時後ろから「直登くぅ―ん」と俺を呼ぶ声に振り向くと。


にこやかにほほ笑む秋穂の姿と、どことなく恥ずかしそうに一歩秋穂の後ろに身を引いているような感じの女の子の姿を目にした。


んっ? 誰だ? ――――JK?


「あはは、直登君早かったね」

女神の笑顔が、些細な状況。些細じゃねぇけど二人の女性が俺を待ってくれているこの状況にどことなく嬉しさを感じている危ない奴。


最も、この時俺は秋穂と一緒にいるJKの事を、秋穂の妹だとしか思っていなかった。

とても浅はかな男である。


だがその子が発した言葉に俺は自分の耳を疑った。


「この人なの? お母さん」


お母さん? 今お母さんて言ったよな……あの子。

お母さん――――それは、あのJKの親と言う事であり、それは秋穂が――――産んだ子?


茫然と立ちすくむ俺の姿を見て察したのか秋穂が「あははは、出来れば直登君のお家の中に入れてくれれば助かるんだけど」と周知の目を気にしてくれているようにそれとなく俺を誘導する。


「と、とにかくとにかく中に入ろっか」

家の鍵を開け、と言ってもワンルームのしがないアパートなんだが。


二人を中に通すと二人は口をそろえて「わっ! 狭――――い!」と言った。

そりゃそうだろ、女に縁のない独身童貞男の住まいなんてこんなもんだ――――あくまでこれは俺基準だ。


七畳半の広さの部屋なんて、シングルベッドに座卓を置くとほどほど床は埋まってしまう。そこにラノベやら、フィギュアのケースなんか鎮座する棚がでんと存在感を表しているんだから、余計に狭く感じるのは否めない。


「ごめんねぇ、直登君。こらぁ、優奈ゆうなこれからお世話になるんだから、そんなこと言っちゃだめだよ」


「あっそうだった。ごめんない」


んっ?


「あのぉ――。お世話になるって、どういうこと?」

一抹の不安を抱きながら、即座に返した言葉だった。


だが、それよりももっと気になるのはあの子の存在だ。見た目はどう見たってJK、女子高生だ。その女子高生が秋穂の事をお母さんと呼んでいた。

これはいったいどういうことなんだろうか。そのことが頭の中に広がると、もういてもたってもいられない。

確かめたいが、最初の問いがすでに走っている。


「ええっとですねぇ。実は相談がございましてぇ」

秋穂は自分が立っていたスペースにすとんと正座して「お願い! 直登君。私たちをここに住まわせて!!」


「はぁ!! 何言ってんだ? 冗談も……」

「いやいや、冗談じゃないよ。マジ本気」


「マジ本気って、今まで住んでいたとこどうした?」

「住んでたアパート、昨日火事でなくなった」


「はっ? 火事?」

「そう火事。で、夕べはホテルに泊まったんだけど、もうお金がなくて。頼るあてもないんだよね。それで思いついたのが直哉君だったという訳」


いきなりそんなこと言われたって、どうすんだよ。

たらりと汗が出てきた。


こうして、ほとんど無理やり状態で、俺たち三人の共同生活が始まろうとしていた。



元のクラスメイトに、その女子高生の娘。


女けの全くなかった俺。そんな俺の両手に花が添えられた。

これは受け入れてもいいんだろうか?



なぁ、爺さん。

もしかして仕組んでねぇ?


その時俺は、天にいる爺さんの声を聞いたような気がした。


「直登よ。女神たちのほほ笑みに幸あれ」と。

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