ひと夏のあやまちは人生最大の過ち!母娘共々お世話になります。

さかき原枝都は(さかきはらえつは)

第1話 こぶ付きですけど、お世話になります。

「いいんですよ先輩。先輩なら私……」

ああああああ!


夏は暑い。そして俺の心は熱く冷え切っている??


大学を卒業して就職できたのは、表向き優良企業を偽る腹黒会社だった。

基、在学中にバイトしていた会社にそのまま横流し就職。


正社員となって三年目。実務経験はもはや五年以上。すでに主任と言う肩書と共に、上司と、部下の板挟みに苦しむ日々。


使えねぇ部下に無理難題を言いつける上司。

俺の唯一の逃げ場は、趣味のエロゲー。しかもハードなやつが好みと言う変態のいきにまでもう少しで突入できると言う自称エロゲーオタク。


もちろん、こんなオタクに彼女と言う言葉は無縁と言う事は言うまでもない。

だが、今年の夏は彼奴が押しかけてきたことによって、無性に熱い夏になった。


春日井秋穂かすがいあきほ。中学高校とクラスメイトだった彼女。


特別付き合っていたという訳でもない。たまに会話ができるクラスメイト女子と言う子だった。


そして気が付けば、高校二年の夏。彼女の姿は教室から……学校からその姿を見ることは無くなった。



結婚したという噂と共に……。


◆◆


死んだ爺さんがよく言っていた。


「人との出会いは何らかの意味があるから出会えるんだ」と。


意味……。


はぁ―、とため息をつきながら漏らす言葉の向かいには、元クラスメイトの春日井秋穂かすがいあきほと、少しネズミ色がかった半袖のブラウスに赤色のボウタイ、ブラウン系統のチャック柄のスカートをまとった見るからに女子高生と言わんばかりの女の子が並んで座っている。


「で、どうするの? 池内直登いけうちなおと君」

「どうするのって……どうしよっか」


この重い空気は小一時間ほど俺ら三人を包み込んでいた。


「だからさ、もう覚悟しちゃいなよ……こうなちゃったんだから」

「あ、でも無理だから。第一この部屋で三人で暮すのって物理的に無理ありすぎだよ」


およそ七畳半のワンルーム。ベッドと座卓ですでに定員満了。男の一人暮らしならこれで十分だ。しかし、もう一人となれば話は変わる。それが俺を入れて三人となればどうあがいても無理である。


「うん、だったら引っ越そうよ。私達三人で新たな生活ができる新天地に! いざゆかん。広いお部屋の住まい」


おいおい、勝手なこと言わないでくれ――――頼む!


「無理無理、そんなの無理だって」

首を大きくふって断ると。


彼女は「嘘……直登君。私達親子を見捨てちゃうんだ」

隣にいる女子高生の娘?(いまだ信じがたいが)。をしっかりと抱きしめて。


「ごめんね優奈ゆうな。私達、心の狭い直登君のせいで、住所不定無職になっちゃうよ」


「お母さん。こうなったら、二人でパパ活しよう!! とりあえずは 、今晩の食事と泊るところ確保しないと。野宿はさすがにきついよ!! 虫の餌食にはなりたくないしぃ」


「だね、だね。優奈。虫に食われるくらいなら男の人に食べられた方がまだましだよね」チラっ!


「うんうん。そうだね。優しいパパを探しに行こうよ」チラっ!


何か鋭い視線を感じる。


チラチラ――――ジトォ――――。



「可哀そうだね私達。ねぇ直登君」なまめかしい声で秋穂が言う。



なんでこんなことになっているのか事の発端は……。

それは二日前の昼前の事だった。


その前日の夜、待ちに待った新作のゲームの発売日。深夜零時の発売開始、お決まりのようにこんな時間でも長蛇の列。その中に俺はひそやかにその身を投じていた。


ここのところまじめに忙しくて、ハードワークだったが何とかこのタスクから解放され、ここ最近最高潮に盛り上がりを見せているゲーム(もちろん十八禁である)の第二作目が発売される。


このゲームのために俺はハードワークをこなし、十分に堪能できる時間を確保したのだ。

そう、俺は趣味と仕事を選ぶならどちらを優先させるか? 悩む必要もない。もちろん仕事……じゃなく、趣味の方を優先させる種族だ。

仕事は趣味のために行うものであり、エロゲーのために俺は仕事をこなしている。


限定特典付き。諭吉が俺の財布から飛んでいったが悔いは無い。

急いで帰宅し、すぐさまインストール。

気が付けばすでに外は明るくなっていた。


「がぁああぁ! マジねむぃ」さすがに今までの疲れと、夕べの徹夜はこたえる。

二十代も折り返しとなるお年頃。十代の時のようにはさすがにいかなくなってきたと感じる今日この頃。 


この睡魔と戦うべくエナジードリンクを買いに自販機がある階まで行くと、見慣れぬ紺色スーツを来た女性が目に入る。


パット見ちょっと可愛い。


うちの会社の社員じゃないことは一目でわかった。

ふと目があった。そして声をかけられた。


「あのぉ、すみません。面接に来たんですけど、第二会議室ってどこでしょうか?」

その時は、これから起きる俺の身の上の災難に気が付くほど、守護霊は……いや基、そんなのは宿していない。


「ああ、第二会議室? もう一つ上の階だよ」

「えっ! そうなんですか……。すみません、ありがとうございます」


えらく天然ぽい感じの子だ。

 

中途採用の事務員の募集面接が今日あることは朝のミーティングで通達されていたが、まさか会場のフロアを間違えてうろついている人がいるとは思いもしなかった。


何気なく、会場のフロアを伝え、自販機に向かう俺の背中を熱い視線が……ゾクッとした寒気が俺を襲う。


「――――あれぇ。もしかして直登君? 池内直登いけうちなおと君じゃない?」




「人との出会いは何らかの意味があるから出会えるんだ」

死んだ爺さんがよく言っていた。


俺と秋穂との出会いに――――どんな意味があるというのか?


なぁ爺さん。


教えてくれ!!


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