第31話 可愛い相棒と裏活動(1)

「聞いたよ。広報部に入ってくれるんだって?」


 佳史けいしの目が輝く。真見まみは目を細めながらうなずく。

 真見はりょう瑠璃るりと共に生徒会室に立ち寄っていた。生徒会室は高等部の生徒達のまりのようになっているようで、生徒達が談笑だんしょうしているのが視界に入る。


「嬉しいよ。ありがとう!」


 昨夜、早急に課外活動の希望について学校のアプリで返答したのだ。完璧な笑顔に真見は照れくさくなって視線を落とす。


「はい。私、すぐにでも活動に参加したくて……。何かお手伝いできることってありますか」

「そうだな……。そうしたら『スカラベ』の試運転しうんてんに協力してもらおうかな」

「スカラベ?」


 不思議そうな表情を浮かべる真見に佳史が微笑ほほえんだ。


「コガネムシ型の小型ロボットだよ。主に植物や昆虫の生態調査、土壌どじょう調査用のロボットさ」


 佳史のタブレットからロボットの映像が浮かび上がる。手のひらサイズの白銀はくぎん色のロボットはどこか愛嬌あいきょうがあった。


「可愛い……」


 真見は目を輝かせる。自分が新技術の体験者になれるなんて思いもしなかった。


「じゃあ決定だね。これからこのスカラベについて説明を受けにセル社の本部に行こうと思ってたんだ。良かったら一緒にどう?」

是非ぜひっ!お願いします!」


 浮気調査を行う絶好の機会に真見は食い気味に返事をする。


「元気がよくていいね。それじゃあ僕とセル社に向かおうか。そうだ、よしと瑠璃はどうする?」

「僕は行こうかなー。神野さんが心配だから」


 良がさらっと凄いことを言ってのける。本人は甘いことを言ったつもりは無さそうで無邪気むじゃきに笑ってる。真見は嬉しさよりも気恥ずかしさで体をちぢこませた。


(またそういうことを言うと勘違いさせるから……)

「だったら私も行きます!」


 瑠璃も負けじと声を上げる。その様子を見守っていた佳史が爽やかな笑顔を浮かべた。


「じゃあ、皆で行こうか」




「神野さん、ヨシと仲いいよね」

「そんなこと、ないですよ……」


 セル社の本部へ向かう道中どうちゅう。真見は隣を歩く佳史に突っ込まれおどおどしていた。瑠璃と良は会話しながら少し前を歩く。開発エリアは比較的建造物が多く、時折ときおりセル社の社員と思われる大人達が町を歩いているのを見かける。様々な国籍こくせきの人達が滞在しているようだ。


「君が船から落ちた乗客なんだね」

「……!」


 真見は思わず警戒心を強めた。


(個人情報は出さないようにしていたはずだけど。もしかして万野ばんのさん、あの船の周辺にいた?)


 佳史は眉を下げて慌てて言葉を続ける。


「気分を悪くさせたらごめん……。ちょっとした推理だよ。ヨシがあそこまで神野さんを気に掛けるのが気になって。シー・リサーチャーの救助者の記事と合わせて考えたんだ。それに、神野さんからほのかに湿布しっぷの香りもする」


 佳史の観察力に真見は口を開ける。それと共に昨日、佳史が『探偵顔負けだね』と言っていたことを思い出した。


万野ばんのさんこそ探偵、みたいですね。もしかしてミステリー小説がお好きとか?」


 真見が感心していると佳史が楽しそうに笑った。


「そうだね。その性格のせいでこの島の裏の事件まで調べてる。誰に頼まれたわけじゃない。完全に自分の趣味だよ」

「そういえば、昨日もおっしゃってましたね。裏の事件も調べてるって……」

「そう。例えば神野さんが海に落ちたこととか」


 真見は佳史の言葉に固まった。いどむような佳史の目を見ることができない。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る