第26話 新時代(2)

「思いつかなかったら、思いつかないで大丈夫ですよ。今を生きる神野かんのさんが感じ取ったままでいいの」


 真見は少しの沈黙の後、恐る恐る発言する。


「……『不安時代』だと思います」

「何故そう考えましたか?」


 葛西かさいがにこやかに問う。真見は自分の意見が否定されないことに安堵すると言葉を続けた。

 こう言った意見を求められた場合、正解は大体決まっていてそれにそぐわない解答をすれば否定されるのだ。誰も個人的な意見など求めていない。それが授業というものだった。


「高齢社会で経済活動はギリギリだし。急遽きゅうきょロボット、IT産業が活発になりましたが……追いついていません。政策も効果を発揮しているように見えないんです。国自体が弱まっていて、あまり良い未来が見えないからです」

「そうですね。度重たびかさなる増税ぞうぜい、変わらない経済不況。世間は薄暗く、不安や不満が渦巻いているように見えますね。それじゃあ次、天笠あまがささん」

「私は『進化時代』だと思います」


 瑠璃るりは少しも考え込むことなくスパッと答える。


「あらゆる技術革新がなされ、新しい生活様式が目指されているからです。命島にいると特にそれを感じます」

「確かに。最近のテクノロジーの進化は目覚ましいですね。不安な状況が続いていたからかもしれないですが。奇しくも不安の時代になったことで進化の時代になったと言えるでしょう」


 真見は段々とこの論議の趣旨が分からなくなってきた。一体葛西は何が言いたいのだろう。


「では最後に。相模さがみさんお願いします」


 指名された良ははっきりとした口調で発言した。


「うーん。『希望時代』かな」


 良の発言に真見は驚く。今の時代を現すのにかけ離れた言葉に思えたからだ。


「どうしてそう思いましたか?」


 葛西の問は優しかった。


「確かに情勢は悪いかもしれない。だけど島の新技術は確実に国を救うものだから。希望を持つことのできる時代ということで、希望時代にしましたー」


 そう言って良は眩しい笑顔を浮かべる。教室の雰囲気がなごやかになった。


「相模さんらしいね。『シー・リサーチャー』を任され、新技術を間近に感じられるからでしょう」


 葛西は拍手をする。


「皆さんの答え、とても素晴らしかったです。時代というのは個人の置かれた状況で見方が大きく変わってきます。不安を感じる人、テクノロジーに注目する人、未来に希望を持つ人……。同じ時間を生きているはずなのに3人とも異なる見方をしていたでしょう?過去の歴史も同じこと。「勝者」の立場からしか時代を見ることしかできません。本当は1つの時代に色んな側面があるの。皆さんには歴史や社会を学ぶとき、それだけは忘れてもらいたくないです」

(今までの授業とは違うみたい)


 真見は背筋せすじただした。好奇心で体が前のめりになる。


「それでは私達が生きる現代社会について学んでいきましょう」





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