第25話 新時代(1)

「ゲームデザイナー神野真文かんのまさふみの子供?」


 真見まみまばたきを繰り返した。この生徒は確か葛西かさいから「たまき」と呼ばれていたはず。だとしたら彼のフルネームは環創たまきつくるだ。声がかすかに上擦うわずっている。


「……うん。そうだけど」

「神野デザイナーのゲーム、全部プレイした!一番尊敬するゲームデザイナーなんだ!」


 前髪からのぞく丸い瞳がキラキラと輝く。


「はあ……」


 真見が少年の熱量に戸惑う。そんなことお構いなしで創は喋りつづける。


「『ライフ・アフター』のクリーチャーなんてすごかった!本当に実在しているみたいだし。それだけじゃない、ゲージ、アイテムのデザインなんかも本当にセンスが良くってさ!俺、すっごい感激かんげきしたんだ!」

「そうなんだ。ありがとね……」


 少年が真文まさふみのことを語るたびに真見は肩身かたみせまくなる。


(お父さん、凄いことしてるのに。それに引き換え私は……何もない)

「それとさあ!あの……」

「創!」


 困った顔をした真見の横からりょうがすっと間に割り込む。


「もう授業が始まるよ。早くしないと巡回じゅんかいロボにつかまる」

「それはやだな。じゃあ!またあとで神野デザイナーのこと聞かせろよ!」


 創がはち切れんばかりに手を振るので真見は小さく振り返した。


「ゲームが好きなんだね。創君」


 真見の疲れ切った表情に良が笑う。


「創、ゲームの腕は凄いんだよ。世界大会で1位を取ったみたい。僕、ゲームはさっぱりなんだけど」

「あの子が?」


 真見が遠くなっていく小さな背中を見送る。


「……早くしてくれる?」


 すぐ近くから瑠璃の鋭い視線が真見を貫く。慌てて良から距離を取った。


「ごめん!行こう」


 真見は朗らかな日差しが差し込む廊下を歩く。やがて先ほどの命島の資料室に辿り着いた。



「それじゃあ適当な席に座って」


 遅れて教室に入って来たのは葛西かさいだ。驚く真見に茶目っ気たっぷりの笑顔を見せる。


「葛西先生、社会科の先生なんだよ。命島学校めいじまがっこうのとりまとめの先生でもあるんだけど」


 良が隣から解説してくれる。


「私達と同じ。この島の住民。大人になると都市部に出て行くんだけど葛西先生はこの島に戻って来た」


 瑠璃も良の隣から顔を覗かせながら言った。


「へえ。そうなんだね」

「そうよ。スーパーアイランド計画は島の人口増加の効果もあったの。それじゃあ、授業を始めましょう」


 真見達はそれぞれ適当な座席に座る。


「先生は1つ、質問したいことがあります。皆さんは今、どんな時代だと思ってこの時代を生きていますか?」


 てっきり教科書やノートを開くものだと思っていた真見は動きを止めた。そう言えば教科書もノートも何もない。ただ目の前に立って話す葛西に視線を移す。


「日本の歴史には縄文時代、安土・桃山時代というように、その時代を表現した名称が付けられていますが……」


 そう言って真見の方にゆっくりと視線を合わせる。


「今の時代に名前を付けるとしたらどんな名前になると思いますか」


 

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