第23話 自己紹介とテクノロジー(5)

「初めまして。命島めいじま学校の生徒会長の万野佳史ばんのけいしです。高等部の二年生。よろしく」


 流暢りゅうちょうな自己紹介に気後きおくれしながらも真見は小さく会釈えしゃくした。爽やかな笑顔がまぶしい。


(アイドルグループに所属してそうな人だなあ……)


 真見は目をこすりながら佳史を見る。自由な服装が認められた学校では珍しくグレーのブレザーにスラックスという制服らしい服装をしていた。


「それにしても神野かんのさんは鋭いんだね。探偵顔負けだ」

「え?」


 自分を表現するものとは程遠い賛辞に真見は戸惑う。その様子を見て佳史はふっと笑った。


瑠璃るりあしの筋肉を見て短距離走者だって考えたんだよ。観察力と思考力が凄いんだね」

「いえ、そんな。私はただ……」


 直感が鋭いだけなんです。という言葉を飲み込む。佳史の言葉からかすかに否定を許さない響きを感じたからだ。


(温和な雰囲気なのに。何だろう。このさからいがたい空気は)

「そんな神野さんに是非とも『命島広報部めいじまこうほうぶ』に入ってもらいたいな」


 そう言って佳史はにっこりと笑った。


(何だ……。部活動の勧誘か……)

「それって……何ですか」


 瑠璃の背中から真見が問いかける。


「部活動みたいなものさ。セル社公認のね。主に命島学校の出来事を記事にまとめるんだ。といってもまだ世間で公表はされずこの島内部の情報誌に過ぎないけどね。最新技術を体験することができて社会体験もできる。一石二鳥いっせきにちょうの活動さ」

「へえ……。楽しそうですね」

「そうでしょう!表立おもてだった出来事だけじゃなくて裏で起こった出来事も調査してる」

「裏で起こった出来事?」


 真見が疑問を持つのも束の間、佳史が手を振る。


「じゃあ僕はこれで。中等部の皆は所属してるから親交も兼ねて活動に加わってくれれば嬉しいな」

「考えておきます」


 佳史が立ち去った後で瑠璃が振り返った。


「広報部に入るの?」

「……天笠あまがささんも相模さがみ君も入ってるんでしょう?だったらお邪魔させてもらおうかな……」


 真見が2人の様子を伺うように答える。瑠璃はじとっとした目を向けてきたが良は手を叩いて喜んだ。


「いいね!そしたらクロと島周辺の調査もできるよ」

「泳ぐのは苦手だけど……。文章を書いたり、情報を纏めるのは得意かも。あのイルカのロボットも広報部の活動?」


 良が首を縦に振る。


「うん。セル社の開発したものの試験運転を体験できたりするんだ!僕は島周辺の環境調査を手伝ってる。ちなみに瑠璃は幽霊部員だよ。サボってるんだ」


 良が瑠璃の方を見てくすくすと笑う。瑠璃は負けじと言い返す。


「私は陸上競技に忙しいから。でも、これからは顔出すようにする」


 そう言って真見の方をちらりと見る。真見を牽制けんせいしているようだ。


(天笠さん、絶対に相模君のことが好きなんだ。それと……私のことをライバル視している)


 真見は引き攣った笑顔を作る。


(早く誤解を解いておこう)

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