第16話  スーパーアイランド命島(2)

命島めいじまがどんな島か。お父さんから聞いたりとかした?」

「何となく……。頂いた資料を読みました」

神野かんのさんは真面目ね。『個性診断』で見て知ってたけど」


 真見まみ葛西かさいは廊下を歩いていた。温かな日差しと木の香りが心地良い。整然せいぜんとした廊下は真見の知っている雑然ざつぜんとした学校とは程遠ほどとおかった。


「『個性診断』ってあの、島に来る前にネットで受けたテストですよね」

「そう!すごい質問量だったでしょう?でもそれのお陰で先生たちは大助かりよ。それぞれ生徒にあった対応ができるから」


 そう言って葛西は片目を瞑った。


(確かに。沢山の生徒を見る先生には大助かりかも)

「島の子供達は全部で13名。小学部に6名、中等部に3名、高等部には4名が在籍しているの。命島の教育システムもまだ試行錯誤中なのよ。システムが整えば他の地域に住む子供達も受け入れるみたい」

「そうなんですね……」

「この学校もにぎやかになると思うんだけど。暫くは少人数になりそうね」

(私は少人数の方がありがたいけど)


 真見がそんなことをこっそり考えていると葛西が真見の左腕を見て声を上げた。


「それ!今日支給されたばかりの『セル・ディビジョン』!お父様がセル社の方だものね」

「あ……はい。私も最近使ったばかりで。これって……何なんですか?道案内して欲しいと思ったらいきなり目の前に矢印が現れて」


 葛西が真剣な顔つきに変わると、真見に告げた。


「魔法よ」

「魔法……?」


 瞬きを繰り返す真見を見て、葛西はくすっと笑った。


「冗談よ。後で説明するから!生徒達に説明する日だから神野さんも参加してね」

「はい……」


 つられて真見も笑顔を浮かべる。目の前に浮かび上がった矢印の映像は魔法としか言いようがない。ゴーグル、あるいはコンタクトレンズや眼鏡も無しに映像が浮かび上がる技術なんて聞いたことがない。それぐらいに不思議な現象だった。


「まずはこの、スーパーアイランド。『命島』についての説明からだね。此方こちらにどうぞ」

「失礼します」


 教室の扉に映し出された電子看板には『命島資料室』と書かれていた。教室の中からも木の香りがする。


「ここはね。子供達に命島について語るだけでなく、島の歴史もまとめられているの。今後この部屋は博物館として運営される予定よ。昔の学校の写真もあってね。ほら、全然違うでしょう?」


 葛西にゆびさされた方を見ると壁には古びた写真の映像が映し出されている。どうやらこの部屋、四方しほうがディスプレイになっているらしい。


「窓もディスプレイになってるの。こうやって窓モードに切り替えられるわよ」


 葛西は扉の近くに取り付けられたコントローラーパネルをいじる。


「わあ!」


 真見は目の前に広がるグラウンドを見て手を叩く。真見の反応に満足した葛西は再び窓をディスプレイモードに切り替えた。

 映し出された写真には真見がよく知る古き良き学校の姿があった。大きな時計に朝礼台、白いコンクリート造りの建物だ。


「部屋を暗くするよ」


 葛西のはしゃいだ声と共に教室の明かりが消える。同時に目の前に島の立体映像が浮かび上がった。真見は目を瞬かせながらも歓声を上げた。


「わあ……!」

「綺麗でしょう。これが日本の未来をけん引する島。命島の姿よ」


 葛西が誇らしげな表情を浮かべる。



 

 

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