第17話 スーパーアイランド命島(3)

命島めいじまの面積は約24平方キロメートル、東西に長い島です。地図区分では神奈川県に属します」


 葛西かさいの声色が自然と授業を行う教師に変わる。その豹変ひょうへんぶりに驚きながら真見は島のホログラムを眺めた。命島が半分に線引きされた映像が浮かび上がる。


「東側のエリアはセル社の本部や社宅、学校が立ち並ぶ開発エリア。西側のエリアは元々島に住んでいた人たち、自然を保存する自然エリアに分かれています。二つの世界観に分けたのはセル社の開発方針からです。後に観光資源として活用するために極端な世界を創りだしました」


 映像からそれぞれのエリアの風景が映し出される。


「そもそも命島は廃村はいそんならぬ廃島はいとうになる予定の島でした。人口減少のためやむなく当時の村長そんちょうが島を、有害物質やごみの埋め立て地にしようと画策かくさくします。しかし、村長の死によってその話は無くなり、暫くの間島は平穏を取り戻すのです。そんなほろびを待つだけの島に現れた救世主が……セル社でした」


 葛西がホログラムの命島に触れると、セル社の大きなロゴが現れる。真見は目を細めて映像を眺めた。


「セル社がこの島を買収ばいしゅうしたことで命島は生まれ変わったのです。廃島から一転、日本の未来をになう島へと変貌へんぼうしました!」

「日本の未来を……になう島」


 胸躍むねおどるような言葉の並びに真見は目を輝かせる。


「神野さんは『スーパーアイランド計画』を知っていますか?」


 授業中に指名されたかのような錯覚さっかくとらわれ、真見は思わず姿勢を正す。


「はいっ!最先端技術によって近未来都市を造り出す計画のことです」


 真面目まじめな回答に葛西は微笑ほほえみをたたえた。


「素晴らしい!完璧な答えですね。今、日本はかつてないほどの窮地きゅうちおちいっています。人口減少に高齢社会。経済活動の弱体化、貧困……。それらの問題を解決すべく考案されたのがこのスーパーアイランド計画です!」


 葛西のすぐ後ろにある壁にでかでかと「スーパーアイランド計画」という文字が平面に映し出される。


「ここで生まれた技術や社会システムはゆくゆく東京、日本全国へと広まっていく予定です。よって政府からも支援され、官民連携かんみんれんけいで島の開発を行っています。だから最新技術に触れることのできる神野さん……子供達はラッキーね」


 そう言って葛西が一段と輝いた笑顔を見せた。


「島の子供達は日本の未来を先取りできます。世界中の誰も体験していないことを貴方達は体験することができるのです。その経験を生かして未来を創り上げる人材がこの島から輩出されるでしょう」

「未来を先取り……」


 熱に浮かされたように真見はつぶやいた。何ののない自分が特別な何かになれた気がしたのだ。


(浮気調査だけじゃない。この島での生活で私の未来も、世界も変わるかもしれない)


 未来の自分の姿を思い描き、真見の心臓は高鳴った。

 




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