第14話 取り調べ(4)

「良ければ外で話でも。ここじゃ落ち着かないんでね」


(この人……大丈夫かな?)


 真見まみ帯刀たてわきを見て人物を見定めようとする。気配けはいを察知した帯刀が両手を挙げる。


「怪しいもんじゃないから、肩の力を抜いて話してくれ」


 外にあったベンチに座り、真文まさふみと真見は自分たちの素性すじょうを話した。それを黙って帯刀がタブレットに入力していく。


「え?お父さん、セル社のゲーム部所属なんですか?俺、そこのゲーム好きで結構ランク高いんすよ」


 帯刀の目が輝くが、真文はにこりともせずに「どうも」と答える。真見は父親の愛嬌あいきょうのなさにあきれかえった。


(少しぐらい喜んだらいいのに)


「失礼。そんじゃあ事故について教えてもらえるかな」

「はい。えと……朝一番の船に乗って島に向かっていたら……」


 ここでも真見はシールドに話した通りの内容を話す。それを退屈そうに帯刀が聞いていた。


「失礼、電話が」


 途中、真文が退席すると真見と帯刀は2人きりになった。真見は真文が通話する姿をにらむ。


(まさかまた、女の人じゃないよね……)

「こらこら。浮気を疑うような眼をしない」


 隣から呑気な声が聞こえてきて真見は慌てて真文から視線を外した。


「そんな眼、してませんよ」

「そうかな?じゃあ最後に。何か言い残したことはある?」


 帯刀が背もたれに寄りかかり、天を仰ぎながら問いかける。既にタブレットの電源は切られていた。正式な調書が終わったようだ。


「言い残したこと……」


 真見はちらりと遠くの父を見やる。何故だかこの人には昨日の違和感を話せる。そんな気がした。


「あの。これから話すことは誰にも言わないで欲しいんですけど」

「ん?」


 帯刀の視線が真見に移る。帯刀の適当な相槌あいづちが真見の緊張感を解いた。


「私、船から落ちる直前、可笑しなことがあったんです」

「可笑しなこと?」

「イヤフォンが水面に落ちたって思い込んでいたんですけど、落ちながら耳を確認したら……してたんです。イヤフォン。海に落ちたら本当に無くしちゃったんですけど、落ちる前は確かにしてたんです。その後で肩を押される感覚がして……」


 そこまで話して真見は口を閉ざす。帯刀は真剣な表情で真見を見つめていた。


(こんなこと言ったら事件として再調査されちゃうのかな……。お父さんに話されたらどうしよう)


 真見が居心地悪そうに自分の手を握りしめている。その様子を見た帯刀は大きなため息を吐いた。


「まーた可笑しな事件か。全く。この島に来てからろくなことがねえや」

「また?」


 真見が疑問に思う間もなく帯刀が続ける。


「音楽を聴いてて気が付かなかったんだな。後ろから人が来るのに……」

「ち……違いますっ!」


 真見が上ずった声で答える。帯刀が驚いた表情を浮かべた。


「私がイヤフォンをしてるのは……音が聞こえすぎるからです。音楽は流していません」

「音が聞こえすぎる?」


 真見は一瞬躊躇ったが話すことを心に決めた。真文からもらった新品のイヤフォンをいじりながら説明する。


「私、町の喧騒が苦手で……人が多い所に外出するときはイヤフォンをしてるんです。あ!でも会話はちゃんと聞こえますよ」

「へえー。そんな感覚の人も居るんだな」


 帯刀が納得しているのをみて真見は安堵した。性質のことを否定されたらと不安に思っていたのだ。


「シールドには事故だって話したんだろ?お父さんがセル社に勤務してるから気をつかったんだ」


 次々と自分の思惑が読み取られていくのを不思議に思いながらも真見は小さく頷いた。


「事件……かは分からないんです。しっかり見たわけではないので……」

「証言が曖昧だからこっちも動けそうにない。……だけど気には留めておこう」


 帯刀はベンチから立ち上がりながら大きく伸びをする。


「また何かあったら教えてくれや」


 真見は帯刀を見上げた。


(頼りになりそうで、ならなそうな……不思議な人)


「すみません、長くなってしまって……」


 真文が此方こちらに走ってくると帯刀は手をひらひらと振った。


「いえいえー。お構いなく。無事に調書はまとめられましたし。これにて失礼致しますっ」


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