第13話 取り調べ(3)

「わあ……」


 真見まみはソーラーパネルが取り付けられたガラス張りのビルを見上げた。自然の多いエリアと異なり、近代的なエリアに目を見張る。ビルの周りに握りこぶしほどの大きさのミツバチロボットが飛んでいるのを眺める。


(かわいい。イルカの他にあんなロボットもいるんだ……)

「真見。早くしなさい」


 真文まさふみに急かされ、真見は慌ててビルの中に入る。天井が吹き抜けになっており圧迫感を感じさせない。観葉植物が多く、ビルの柱に自然のつたが巻き付いている。自然の中にいるような空気の通りを感じた。流石はセル社だ。ビルの造形にすらこだわりを感じる。


『こちら。島民登録になります』


 受付の美しい女性に真見は思わず真文の後ろに隠れた。その女性から生気が感じられなかったからだ。肌や服から放たれる色彩が眩しく感じた。


「光を反射させて空気中に結像させることでバーチャル世界を見せる技術だ。正面からしかこんな風に本物っぽくはみえない」

「映像?こんなにリアルなんだ……」


 受付はボックス上に作られているため、あらゆる角度から確認することはできなかった。


『島民登録の方は正面奥の部屋へお進みください』


 女性の指示通り、真見達は奥の部屋へ歩みを進めた。

 島民登録はあっという間に終わった。ただ違ったのは全身スキャンを行ったことだろう。360度、あらゆる場所に取り付けられたカメラの前で数分撮影を行うのだ。その後で歩行データ、声紋、指紋、心音データを取られる。


「これらのデータが島を生きていくうえで重要になってくるんだ。島民登録しなければこの島で生きていくことはできない」

「このお陰で便利な生活ができるんだね」


 真文は小さく頷いて見せる。手続きも30分とかからずに終わってしまった。


「あー!ちょっとちょっと!そこの人!」


 どたどたと此方に騒がしく走ってくる人物がいる。真見は驚いて思わず真文の背中に隠れた。予期せぬ人物におびえた表情を浮かべる。


「もしかして……神野かんのさんじゃないですかね?」


 紺色の帽子に日章にっしょうが輝く。防刃ぼうじんベストに手錠、警棒、そして拳銃。見慣れた警察官の姿があった。三十代半ばぐらいだろうか。どこか気の抜けた男性が頭を掻きながら真見達を眺めている。垂れ目のせいで迫力に欠ける。背は真文と同じぐらい高いのだが猫背になっているのが残念だった。


命島駐在所めいじまちゅうざいしょ巡査じゅんさ帯刀正義たてわきまさよしと申します。昨日の事故について伺っても?」


 そう言って警察手帳を見せる。顔写真にも同じ、気の抜けた顔があった。真見は名前を見てすぐにひらめく。


(この人……。相模君の言ってた駐在さんだ!)

「というか。海難事故は海上保安庁の案件なんじゃないですかねー?まあ、上からの命令だし。話だけでも聞かせてもらいますよ」


 頭をポリポリを掻きながら首を傾げる。真見は正義の頼りない第一印象よりもある疑問が浮かんだ。


「どうして私達のこと、知ってるんですか?初対面のはずなのに」


 真見の独り言に正義は目を丸くする。そのすぐ後で帯刀がはははと小さく笑った。


「そりゃあ、簡単な話だ。昨日到着した人たちは皆その日の内に島民登録を終えてる。遅れて登録にやって来たその人こそ神野さんだってな」

「……そっか。相模さがみ君から教えられたんじゃないんだ……」


 真見が安堵のため息を吐く。その一方で見た目とは反対に頭の回転が速い人だと分かった。


「何だ?りょうの彼女か?」

「ち……違います!」


 真見は頬を赤らめながら慌てて否定する。

 

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